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# 「初めての家族旅行」

# 子育て編 第二話


## 「初めての家族旅行」


 ことはが一歳三か月になった頃。


 神谷家は初めての家族旅行へ出かけることになった。


---


「海だぞ」


 恒一が言う。


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「うみ!」


 ことははよく分かっていない。


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「分かってないですね」


 ひまりが笑う。


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「俺もそう思う」


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 でもことはは大喜びだった。


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## 車の中


 チャイルドシートに座ることは。


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「ぱぱ!」


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「なんだ?」


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「ぱぱ!」


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「呼びたいだけだな」


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 ひまりが吹き出す。


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「完全にお気に入りですね」


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「嬉しいけどな」


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 恒一の顔はすでに父親全開だった。


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## 海辺


 青い空。


 白い雲。


 波の音。


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 ことはは人生で初めて海を見た。


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「おおー!」


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 目が丸くなる。


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「反応かわいいな」


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「ですね」


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 波が近づく。


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 ザザーッ。


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「きゃー!」


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 逃げる。


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 でも気になる。


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 近づく。


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 また逃げる。


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 完全に遊ばれていた。


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 ひまりは笑いが止まらない。


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「ことは、海に負けてます」


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「俺も最初は怖かったぞ」


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「嘘です」


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「バレたか」


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## 昼食


 海の見えるレストラン。


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 ことははベビーチェア。


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「まんま!」


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「はいはい」


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 恒一がスプーンを持つ。


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 しかし。


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 ことはは突然口を開かない。


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「どうした?」


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 ぷいっ。


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 横を向く。


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「嫌われた?」


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「違いますよ」


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 ひまりが一口食べさせる。


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 ぱくっ。


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「なんで!?」


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 恒一はショックを受けた。


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「ママがいいみたいですね」


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「そんなぁ……」


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 ことはは満面の笑み。


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 完全敗北だった。


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## 夕方


 海辺を三人で歩く。


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 夕日が沈んでいく。


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 ことはは恒一の肩車。


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「たかーい!」


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「気に入ったか?」


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「うん!」


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 恒一は嬉しそうに笑う。


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 ひまりはその後ろ姿を見る。


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 昔。


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 人生に疲れていた男。


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 明日が見えなかった男。


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 その人が今。


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 娘を肩車して笑っている。


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 胸が少し熱くなる。


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「どうした?」


 恒一が振り返る。


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「なんでもないです」


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「嘘つけ」


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 ひまりは少しだけ微笑む。


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「幸せだなって思っただけです」


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 恒一は少し照れる。


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「俺もだ」


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 短い返事。


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 でも十分だった。


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 ことはが両手を広げる。


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「ぱぱ!」


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「ん?」


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「まま!」


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「おう」


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「だいすき!」


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 夫婦は固まった。


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 そして次の瞬間。


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 ひまりの目から涙。


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 恒一も泣きそうになる。


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「今……言ったよな?」


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「言いましたね……」


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 夕日の中。


 三人は笑っていた。


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 海風が優しく吹く。


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 そして神谷家の物語は、まだまだ続いていく。


---


## 次回予告


**第三話「ことは、幼稚園デビュー!」**


泣くのはことはか?

それともパパか?


たぶんパパです。


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