# 番外編 ## 「新婚旅行、やっと普通じゃない幸せ」
# 番外編
## 「新婚旅行、やっと普通じゃない幸せ」
空港のロビーは、朝からざわついていた。
神谷恒一は、スーツケースを片手に立っている。
「なあ」
隣を見る。
「ほんとに海外行くんだよな、これ」
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ひまりはパスポートをぎゅっと握っていた。
「はい」
即答。
「ずっと行ってみたかったんです」
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「緊張してんのか?」
「してます」
また即答。
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恒一は笑う。
「お前、最近素直すぎだろ」
「隠す必要ないので」
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その一言が、少しだけ嬉しい。
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## 機内
窓側にひまり。
通路側に恒一。
まだ少しぎこちない。
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「なあ」
恒一が言う。
「飛行機って落ちねぇよな?」
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「落ちません」
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「即答だな」
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「不安そうだったので」
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「俺の顔そんなにか?」
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ひまりは少し笑う。
「はい」
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恒一はため息をつく。
「お前といると落ち着かねぇな」
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「いい意味ですか?」
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「いい意味だよ」
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少し沈黙。
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ひまりが窓の外を見る。
「雲って、下から見ると不思議ですね」
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「上にいるときは見ないもんな」
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「はい」
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しばらく静か。
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そして、ひまりが小さく言う。
「ちゃんと旅行ですね」
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「今さら何言ってんだよ」
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「だって……」
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少し間。
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「昔は、こういうの想像できなかったので」
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その言葉に、恒一は横を見る。
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「俺もだよ」
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「え?」
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「人生、こんなもんになると思ってなかった」
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ひまりは少しだけ驚いた顔をしてから笑う。
「意外です」
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「意外か?」
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「はい。ちゃんと幸せそうなので」
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「今さら気づくなよ」
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## 到着(海辺の国)
青い空。
白い建物。
ゆっくりした時間。
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「すげぇな」
恒一は言う。
「現実かこれ」
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「現実です」
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「即答やめろって」
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## ホテル
海の見える部屋。
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窓を開けると、風。
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ひまりが少しだけ固まる。
「海……本物ですね」
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「偽物あるか?」
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「映像で見すぎてて」
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「どんだけ引きこもってたんだよ」
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ひまりは少し笑う。
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## 夜
海辺の散歩。
波の音。
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ひまりが立ち止まる。
「ねえ」
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「ん?」
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「今、幸せって言っていいですか?」
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恒一は少しだけ空を見る。
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「もう聞くな」
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「え?」
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「いいって言ってんだよ」
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ひまりは少し黙る。
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そして、小さく笑う。
「じゃあ……言います」
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「はい」
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「幸せです」
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波の音に混ざって、その言葉が落ちる。
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恒一は横を見る。
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「俺もだ」
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短い返事。
でもそれで十分だった。
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## 夜更け
ホテルの部屋。
窓の外は暗い海。
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ひまりはベッドに座っている。
「恒一さん」
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「なんだよ」
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「明日も、幸せですかね」
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恒一は少しだけ笑う。
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「明日もある前提かよ」
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「はい」
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「じゃああるだろ」
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即答。
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ひまりは少し涙ぐむ。
「信じていいんですね」
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「信じろ」
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短い沈黙。
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そしてひまりは小さく言う。
「やっと……普通ですね」
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恒一は苦笑する。
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「俺たちの普通、だいぶ変だけどな」
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ひまりは笑う。
「それでもいいです」
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波の音。
遠い風。
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ふたりの“普通”は、ようやく世界と同じ速度になっていく。
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