# 最終章(番外) ## 「結婚式当日、ちゃんと来る明日」
# 最終章(番外)
## 「結婚式当日、ちゃんと来る明日」
朝。
神谷恒一は、目覚ましより早く目が覚めた。
窓の外はよく晴れている。
やけに現実的な天気だった。
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「……ほんとに今日か」
ネクタイを手に取る。
何度も結んで、何度もほどく。
うまくいかない。
「結婚式ってこんな難しいもんかよ」
ひとりで笑う。
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スマホが震える。
ひまりからのメッセージ。
『起きてますか?』
もう一通。
『緊張してます』
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「こっちのセリフだろ」
そう呟いて返信する。
『起きてる。逃げてねぇよ』
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すぐに返事。
『信じてます』
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その一言で、胸が少し軽くなる。
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## 式場
控室。
ひまりは鏡の前に座っていた。
白いドレス。
でも、落ち着かない顔。
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「似合ってますよ」
メイクスタッフが言う。
「ありがとうございます……でも」
ひまりは小さく笑う。
「まだ実感ないです」
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ドアがノックされる。
スタッフが慌てて止める。
「新郎はまだです!」
「いや、まだ来てないはずですけど」
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でもドアの向こうから声。
「おい」
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ひまりが振り向く。
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そこにいたのは、ネクタイを少し曲げた恒一だった。
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「……早いですね」
「お前がいるからな」
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ひまりは一瞬固まる。
そして、泣きそうになる。
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「ずるいです、それ」
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「何がだよ」
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「そういうこと言うの」
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恒一は少しだけ笑う。
「今さらだろ」
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## 式前
控室。
二人だけの時間。
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「なあ」
恒一が言う。
「ほんとに結婚すんだよな」
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ひまりはうなずく。
「します」
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「怖くねぇの?」
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少し間。
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「怖いです」
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正直だった。
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「でも」
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「一人じゃないので」
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その言葉で、恒一は黙る。
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「お前さ」
「はい」
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「ほんと強くなったな」
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ひまりは少しだけ笑う。
「違います」
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「?」
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「一人じゃなくなっただけです」
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その瞬間。
恒一は理解する。
この人は最初から弱かったんじゃない。
“ひとりだっただけ”だった。
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## 式
音楽。
光。
人。
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バージンロード。
ひまりが歩いてくる。
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恒一は見ている。
まっすぐ。
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あの日の駅とは違う。
消えそうだった影じゃない。
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ちゃんと、ここにいる。
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司会の声。
「誓いの言葉を」
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恒一は息を吸う。
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「俺は」
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「お前が怖がる明日ごと、全部引き受ける」
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会場が静かになる。
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ひまりの目に涙。
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「私は」
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「もう一人で消えない」
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声が震える。
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「ちゃんと、ここにいます」
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## 指輪交換
手が触れる。
冷たくない。
ちゃんと温かい。
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恒一は小さく言う。
「やっとだな」
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ひまりは笑う。
「長かったですね」
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## 結び
拍手。
光。
祝福。
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でも二人にとっては、ただの“続き”だった。
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外に出る。
空が広い。
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ひまりが言う。
「ねえ」
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「なんだよ」
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「幸せって、思っていいですか?」
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恒一は即答する。
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「もう思えよ」
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少し間。
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そして笑う。
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「ずっと前から、思ってたくせに」
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ひまりは泣きながら笑う。
「バレてました?」
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「バレバレだ」
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手をつなぐ。
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もう“失う前提”じゃない。
もう“終わる前提”でもない。
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ただ続く。
ちゃんと続く。
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## 完全ハッピーエンド
(人生に疲れた40歳の再生と愛の完成)




