# 番外編 ## 「結婚式前夜、うまく眠れない理由」
# 番外編
## 「結婚式前夜、うまく眠れない理由」
静かな夜だった。
神谷恒一の部屋は、いつもより少しだけ片付いている。
明日、結婚式。
その事実だけが、部屋の空気を少しだけ現実離れさせていた。
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「……結婚、か」
ベッドに座って呟く。
何度も想像してきたはずなのに、いざ明日となると実感が追いつかない。
あの駅で出会った日から、ずいぶん遠くまで来た気がする。
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スマホが震える。
ひまりからのメッセージ。
『眠れません』
一言だけ。
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「だろうな」
小さく笑って、すぐに電話をかけた。
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『……もしもし』
「お前な、明日式だぞ」
『わかってます』
声が少しだけ明るい。
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「緊張してんのか?」
『はい』
即答だった。
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「意外だな」
『意外じゃないです』
『ずっと、怖いです』
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その言葉に、恒一は少し黙る。
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「何が怖いんだよ」
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『ちゃんと、幸せになれるのかなって』
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少しの沈黙。
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「今さらそれ?」
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『今さらだからです』
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恒一は天井を見る。
昔の自分なら笑っていた言葉だ。
でも今は違う。
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「なあ」
「俺も怖いぞ」
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『え?』
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「お前と結婚すんの」
「普通に怖い」
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『どういう意味ですかそれ』
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「失うのが怖いってことだよ」
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電話の向こうが静かになる。
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『……まだ、思ってるんですね』
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「当たり前だろ」
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少し間を置いて。
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「でもな」
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「それでもいいって思ったの、お前だろ」
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『……はい』
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「じゃあ大丈夫だ」
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根拠なんてない。
でも、それでいいと思えた。
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『恒一さん』
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「ん?」
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『明日、ちゃんと来てくれますか?』
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「当たり前だろ」
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『逃げませんか?』
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「逃げねぇよ」
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即答だった。
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「お前が待ってるのに逃げる理由がねぇ」
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電話の向こうで、ひまりが小さく笑う。
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『よかった』
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少し沈黙。
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「なあ」
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『はい』
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「明日さ」
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「泣くなよ」
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『無理です』
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「だろうな」
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二人で笑う。
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電話越しなのに、同じ空気を吸っている気がした。
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## 結婚式当日へ続く




