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借金取りの元勇者と、借金まみれの元女勇者 Season2 番外編シリーズ  作者: HANABI


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第七話 減らない借金と、熱と雪の日 前編

ある冬の日の昼頃。


朝から降っていた雪は、ようやく止んでいた。

それでも街は、白く静まり返っている。


店の中。

暖炉の火が、ぱち、と小さく鳴った。

そのすぐ横で――


「……みゃ」


落ち着かない声。

猫が、扉の前をうろうろしていた。

行ったり来たり。

何度も振り返って、外を見る。


「……どうしたの?」


リゼが首を傾げる。


「外、雪だよ。寒いよ」


しゃがみ込んで、軽く頭を撫でる。

猫は一瞬だけ目を細めて――

すぐに、また扉の方へ向き直る。


「……行きたいの?」


「みゃ」


短く鳴く。


「だめだって」


両手で抱き上げる。


「今日はおとなしくしてな――」


そのとき。

扉が、がちゃりと開いた。

ヴァルクが戻ってきた。

冷たい空気が、室内に流れ込む。


その一瞬。

するりと腕を抜けて――


「え、ちょっと!?」


猫が外へ飛び出した。


「待って!!」


リゼが、傍の上着を取って追いかける。


「おい」


ヴァルクの声は短い。

だが止まらない。


外。

雪が、まだ柔らかく積もっている。

踏むたびに、きゅ、と音が鳴る。

猫は迷いなく走る。


建物の間へ――

細い隙間へと入り込んだ。


「え……そこ?」


リゼが立ち止まる。

狭い。

人が通れる幅じゃない。

しゃがみ込んで、奥を覗く。

暗い。

でも――


「……なんかいる?」


小さく、動く影。


「みゃ」


中から、弱々しい声。

子猫だった。

雪に埋もれかけて、震えている。


「ちょっと待って、今――」


腕を突っ込もうとする。

届かない。

もう少し、体を入れようとした、そのとき。

上から――


ドサッ

鈍い音。


「え?」


顔を上げた瞬間。

雪の塊が、崩れ落ちてきた。


「――っ!」反応が、一瞬遅れる。


魔法を張る前に――

そのまま、埋もれた。


「……っ、冷たっ……!」


雪を払いながら、顔を出す。

びしょ濡れ。

息が白くなる。


次の瞬間。

腕を引かれる。

ぐっと引き上げられる。


「……何やってんだ」


低い声。

ヴァルクだった。


「ご、ごめん……ちょっと油断した……」


「見りゃ分かる」


雪を払い落とされる。

肩も、背中も、濡れている。

ヴァルクが一度だけ視線を落とす。


「……着替えた方がいい」


「大丈夫だって!」


即答。

ヴァルクはそれ以上言わなかった。


「大丈夫、大丈夫!」

リゼは笑う。


「ほら、子猫が――」


振り返る。

そのとき。

隙間の奥から――


「みゃ」


猫が戻ってきた。

口に、小さな影。


「え……」


子猫を、咥えている。

ゆっくりと、外へ出てきた。


「みゃー」


「み……」


弱々しい声。

リゼが目を見開く。


「連れてきた……」


そっと、受け取る。

小さい。

冷たい。


「大丈夫……大丈夫だから」


自分のコートの中へ入れる。

ぎゅっと、包む。

体温を分けるように。


「この子、どうしよう……」


よく見ると、首に細い紐。

小さな首輪。


「迷い猫か」


ヴァルクが言う。


「……探すか」


「うん」


頷く。

そのまま、歩き出す。

雪の残る道。

人は少ない。


それでも――

声をかけて回る。


「この子、知りませんか?」


「見てませんか?」


冷たい風が、頬を刺す。

濡れた服が、体温を奪う。

それでも、止まらない。

一時間ほどして。


「ああ、それ……うちのだ!」


声が上がる。

小さな家。

年配の女性が、涙ぐんでいた。


「よかった……本当によかった……」


子猫を抱きしめる。

何度も頭を下げる。


「これ、少ないけど……」


差し出されたのは、温かいパンだった。

リゼの顔が、ぱっと明るくなる。


「ありがとう!」


受け取る。

ほっと、息を吐く。

その瞬間。

ぶる、と体が震えた。


「あれ……」


寒さが、一気に戻ってくる。


「……気づくの遅えな」


ヴァルクが、ため息をつく。

手をかざす。

風が、リゼの周りを包む。

やわらかい温風。

濡れた服を、少しずつ乾かしていく。


「帰るぞ」


「うん……」


足取りは、少しだけ重い。

店に戻る。

すぐに風呂へ押し込まれる。


「ちゃんと温まれ」


「はーい……」


湯気の中で、ようやく息を吐く。

その間。


猫は――

いつの間にか、店の前に戻っていた。

丸くなって、扉の前で待っている。

静かに。

当たり前みたいに。


夜。

机の上に、パンとシチュー。

湯気が、ゆらゆらと立ち上る。


「いただきます」


リゼが笑う。

少し、鼻をすする。


「……っくしゅ」


小さなくしゃみ。


「大丈夫か」


「平気平気」


笑って答える。

でも、どこか少しだけ――

声が弱い。


暖炉の火が、ぱち、と鳴る。

外は、また静かに冷えていく。


――その翌日。

少しだけ、無理をした代償が。

ゆっくりと、現れ始める。


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