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借金取りの元勇者と、借金まみれの元女勇者 Season2 番外編シリーズ  作者: HANABI


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18/20

番外編 減らない借金と、初めてのデート

付き合い始めたものの、相変わらず借金は減らない。


そんな中、リゼが「初デート」をねだり始めて――?


不器用で少し意地悪なヴァルクと、浮かれ気味なリゼの番外編です。

「ねぇ、ヴァルク」


昼下がり。


店の中には、焼きたてのパンの匂いと、淹れたばかりのコーヒーの香りが漂っていた。


窓から入る春風が、机の書類をぱらりと揺らす。


ヴァルクは机に向かったまま、淡々とペンを走らせていた。

その向かい側で。

リゼがじーっとこちらを見ている。


「……なんだ」


視線を上げないまま返す。

リゼが机へ身を乗り出した。


「デートしよう!」


ヴァルクの手が止まる。

沈黙。


「……は?」


ようやく顔を上げる。

リゼは期待に満ちた顔でこちらを見ていた。


「付き合ったのに、まだちゃんとしてない!」


「ちゃんとってなんだ」


「普通はデートするの!」


即答だった。

ヴァルクは小さく息を吐く。


「面倒くせえな」


「嫌なの!?」


「嫌とは言ってない」


リゼの顔がぱっと明るくなる。

分かりやすい。


ヴァルクはそれを見て、少しだけ目を細めた。


「……で、どこ行くんだ」


「え、いいの!?」


「お前がうるさいからな」


「やった!」


リゼが勢いよく立ち上がる。

猫がびっくりして耳を動かした。


「みゃ!?」


「お前もびっくりしたよね!」


抱き上げられた猫が、不思議そうに鳴く。

ヴァルクは小さく鼻で笑った。



街は春の空気に満ちていた。

露店から漂う焼き菓子の甘い香り。

花屋の前を通るたび、柔らかな花の匂いが風に混ざる。


人の笑い声。

馬車の音。

賑やかな通りを、二人で並んで歩く。


「うわ〜……今日は人多いね」


リゼがきょろきょろと辺りを見る。

その横顔は、ずっと楽しそうだった。


「あっ、見て見て!」


焼き菓子の屋台で足を止める。


「猫の形!」


「……ほんとに好きだな」


「可愛くない!?」


「まあ」


適当に返しながら、ヴァルクは店主へ金を渡す。


「え?」


気づいた時には、紙袋がリゼへ渡されていた。


「食うんだろ」


「え、いいの!?」


「今さら聞くな」


リゼがぱっと笑う。


「ありがと!」


その顔を見て。

ヴァルクは少しだけ視線を逸らした。


(……分かりやすい)



そのまま通りを歩いていると、不意にリゼの足が止まる。


「あっ」


視線の先。

武器屋だった。


店先には剣や槍が並び、磨かれた刃が春の日差しを受けて鈍く光っている。

革と金属の匂いが、開いた扉の奥から流れてきた。


ヴァルクがちらりと横を見る。


「……入るか」


自然な声だった。


「うん!」


リゼが即答する。

店へ入った瞬間、二人の空気が少し変わった。


壁一面に並ぶ武器

吊るされた外套。

魔導具の淡い光。


リゼが片手剣を手に取る。


鞘から少し抜くと、銀色の刃が光を反射した。

そのまま軽く振る。

風切り音が、短く鋭く鳴った。


「……あ、これいいね」


手の中で重さを確かめるように、もう一度軽く返す。

ヴァルクが横から見る。


「長さとか重さはどうだ?」


「あとちょっと短い方が感覚的にいいかなぁ」


リゼが柄を握り直す。


「握りの方は好きなんだけど」


「重心は悪くねえな」


ヴァルクがさらっと返す。


「連撃向きか」


「うん。たぶん水纏わせても扱いやすいと思う」


自然に会話が続く。

戦いを知っている者同士の空気だった。


リゼがふと視線を止める。


壁へ掛けられていた一本の弓だった。

深い木色の弓身に、銀の装飾が細く刻まれている。


「……これ綺麗」


そっと手に取る。

軽く弦を引くと、ぴん、と澄んだ音が鳴った。


「弓ってあんまり使ったことないんだけど、実際どうなの?」


リゼが振り返る。

ヴァルクが横へ並んだ。

弓を一目見て、小さく目を細める。


「ただ、これは軽いな。お前の力ならすぐ壊れるぞ」


弓身を指先で軽く弾く。


「練習用にするなら、こっちの方がいいと思う」


そう言って、近くの棚から別の弓を持ち出した。


装飾は少ない。


けれど、しっかりした作りだった。


ヴァルクが軽く構えてみせる。


「お前の身長なら、これぐらいか」


弓身を軽く撓らせる。


「これなら黒樫だから、よく撓るし威力も出る。丈夫だしな」


リゼが少し感心したように見る。


「へぇ……」


ヴァルクはそのまま棚へ視線を向けた。


「弦と鏃も……そうだな」


いくつか手に取りながら選んでいく。


「これと、……こっちか」


リゼが覗き込む。


「そんな違うの?」


「お前、風と水使うだろ」


「うん」


「なら、これぐらい選んどかないとすぐ切れる」


ヴァルクが弦を軽く引く。


張った音が低く鳴った。


「威力も出ないしな」


リゼが思わず笑う。


「へぇ。詳しいね?」


ヴァルクが肩をすくめる。


「昔、知り合いが使ってて、ついでにちょっと覚えた」


あっさり言う。


「遠距離とか、慣れるとまあまあ便利な時もある」


そのまま苦笑するように続けた。


「ただ、ちょっと大きいと剣と両方は使いにくくて、結局やめたんだが……」


リゼが納得したように頷く。


「確かに。剣でも弓みたいに魔法飛ばせるから、よほど慣れないと両方は難しいかもね」


「戦闘中に持ち替えも面倒だしな」


「ヴァルク、不器用そうだもんね」


「お前に言われたくねえ」


すぐ返ってくる。

リゼが吹き出した。

自然に笑い合う。


武器屋の中なのに、不思議と空気は穏やかだった。


店主が少し感心した顔をしていた。


「……嬢ちゃん達、仲がいいね」


「そうかな?」


リゼがヴァルクを見て笑う。

ヴァルクは無言で弓を戻した。


「まぁ、今は必要ないな」


店主が乾いた笑いを漏らす。

しばらくして。

リゼがふと瞬きをした。


「……あれ?」


「どうした」


「私たち、デート中だよね?」


沈黙。

ヴァルクが小さく笑う。


「今さらか」


「いや、普通もっとこう……!」


リゼが慌てる。


「景色見たりとか、甘いもの食べたりとか!」


「楽しそうだっただろ」


言われて、リゼが止まる。


……楽しかった。

普通に。


武器を見ながら話してるだけなのに。

気づけば、ずっと笑っていた。


リゼが少しだけ照れたように笑う。


「……うん。楽しい」


ヴァルクが目を細めた。


「ならいいだろ」



その後も、リゼは街を歩くたび色んなものへ反応していた。


綺麗な硝子細工。

露店のアクセサリー。

花飾り。

珍しい魔導具。


気になるものを見つけるたび、足が止まる。

でも。

値札を見ると、そっと戻す。


ヴァルクは何も言わない。

ただ静かに見ていた。


「……ん?」


ふと、リゼが足を止める。


小さな装飾店。

窓辺に並ぶ銀細工が、春の日差しを受けて淡く光っていた。


「綺麗……」


小さく漏れる。

その視線が止まった先。


細い銀鎖のネックレス。


胸元で、小さな青灰色の石が揺れていた。


普段は静かな灰色なのに、

光を受けると淡く青く滲む。


まるで、水面の奥に沈んだ光みたいだった。


リゼがそっと手に取る。


「……かわいい」


ぽつりと呟く。

でも、すぐに戻そうとした。


「リゼ」


低い声。

振り向く。

ヴァルクが店主へ視線を向けていた。


「それ」


「え?」


「包んでくれ」


リゼが固まる。


「……えっ?」


店主が慣れた様子で小箱を取り出した。


「ちょ、ちょっと待って!?」


「なんだ」


「いや、なんで!?」


「欲しかったんだろ」


あっさり言う。

リゼの顔が熱くなる。


「でも、こういうの高いし……!」


「別に困ってねえ」


即答だった。


店主が慣れた手つきで、小さな箱を差し出してくる。


リゼは少しためらいながら、それを受け取った。

手のひらに収まるくらいの、小さな箱。

ゆっくり開く。


中には、細い銀細工のネックレスが収められていた。

淡い青の石が、中央で静かに揺れている。

水面を切り取ったみたいな色だった。


春の光を受けて、控えめに煌めく。

派手じゃない。


でも、不思議と目を引いた。

リゼが指先でそっと触れる。

ひんやりと冷たい感触。


その瞬間、嬉しそうに目が細くなる。


ヴァルクは、その横顔を黙って見ていた。



「……でも、自分じゃ付けられない」


店を出たあと。

リゼが困ったようにネックレスを持ち上げる。


ヴァルクが小さく息を吐いた。


「貸せ」


「え?」


ヴァルクがネックレスを受け取る。

そのまま、リゼの後ろへ回った。


「髪ちょっとよけろ」


「う、うん」


リゼが慌てて高く結んだ髪を少し横によける。


春風が、首筋を撫でた。

次の瞬間。


ヴァルクの指先が、うなじへ触れる。

ひやりとした感触。


リゼの肩が小さく跳ねた。


「……動くな」


低い声が、耳元へ落ちる。


距離が近い。

近すぎる。


ヴァルクの体温が、すぐ後ろにある。


指先が鎖を留めるたび、首筋へかすかに触れた。

そのたびに、心臓が落ち着かなく跳ねる。


「ヴァ、ヴァルク……」


「なんだ」


低い声が、すぐ耳の近くで返ってくる。


ようやく留め具が止まる。

リゼが小さく息を吐いた、その時だった。


不意に、ヴァルクの左手が肩へ置かれる。

大きな手だった。


軽く触れているだけなのに、熱がじわりと伝わってくる。

肩を引き寄せられるみたいに、距離がさらに近づいた。


「……っ」


リゼの肩が小さく揺れる。


その反応を、ヴァルクは後ろから静かに見ていた。


白い首筋。

赤くなった耳。

分かりやすい反応。


――かわいいな、と。


ふと、思う。

そのまま少しだけ目を細めた。


次の瞬間。

耳元へ、ふっと息を吹きかける。


「ひゃっ……!?」


リゼの身体がびくっと跳ねた。


慌てて振り返ろうとして、でも肩を押さえられているせいで上手く動けない。


「ヴァルク!!」


顔が一気に赤くなる。


ヴァルクが小さく笑った。

喉の奥で、低く。


「……弱いな」


完全に面白がっていた。

リゼが真っ赤なまま睨む。


「い、いきなりやる!?」


「ちょっと、反応見てみたくてな」


ヴァルクは口角を少し上げて、肩へ置いた手をゆっくり離す。


けれど最後に、指先だけが首元のネックレスを軽く揺らした。

青い石が、小さく光を跳ね返す。


「……似合ってる」


低く落ちた声に、リゼの顔がまた熱くなった。



帰り道。


夕暮れの街は、昼より少し静かだった。

空は薄い橙色に染まり、石畳へ長い影を落としている。


リゼはずっとネックレスへ触れていた。

歩くたび、青い石が小さく揺れる。


「そんな気に入ったか」


ヴァルクが横目で見る。


「だって嬉しいもん」


即答だった。

ヴァルクが少しだけ目を細める。


「……そうか」


それだけ。

でも、どこか満足そうだった。


少しの沈黙。


風が吹く。

リゼの髪が揺れる。

その時。


ヴァルクの指が、首元へ伸びた。


「……ヴァルク?」


ネックレスを指先で軽く揺らす。

そのまま、鎖へ指を滑り込ませる。


逃がさないみたいに。

ぐっと距離が近づく。


リゼの呼吸が止まる。


ヴァルクが静かに目を細めた。


「お前、今日ずっと嬉しそうだったな」


低い声。

近い。


「だ、だって……初デートだし……」


「……そういう顔されると困る」


「え?」


ヴァルクが小さく息を吐く。

それから。

耳元へ、ふっと息を吹きかけた。


「ひゃっ……!?」


リゼの肩が大きく跳ねる。


ヴァルクが面白そうに笑った。


「やっぱ弱いな」


「ヴァルク!!」


真っ赤になる。


その顔を見ながら、ヴァルクが静かに距離を詰めた。


唇が重なる。


優しく。


でも、離さないみたいに深く。


ネックレスの石が、夕暮れの光を受けて小さく揺れていた。


番外編 完

いつも読んでいただきありがとうございます。

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