第3話
烈達が美月のお見舞いを取り止めてまで向かった場所。
そこは、『ミラーメイツ』などを取り扱うサテライトショップ、『ワンダーステッチ』だった。
「なあ、今更ここに来て、何か意味でもあるのか?」
烈の問いに、明里は「あるよ」と明瞭に答えた。
「ここで話していてもなんだ。店に入ろう」
烈は促されるまま、店内へ。すると、烈達に声をかけてくる人物が。
「あれー、また君たち来たの?」
馴れ馴れしい態度で話しかけてきたのは、店員の根岸。
「今日は何を買いに来たの?」
「いえ、ボク達は買い物に来たわけではいないです。根岸さんに聞きたいことがありまして」
「なーに? なんでも聞いて。今はお客さん少ないから、長話できるよ」
それは店員としてどうなんだと烈は思いつつも、口には出さない。なにやら明里は根岸と話をしたいようなので、腰を据えて話せるのはむしろ好都合だ。
「まず、根岸さんに謝罪しなければいけないことがあります」
「謝罪?」
「はい、前回お店に来た時、ボク達は美月さんの代理として、『ミラーメイツ』を購入しに来たと言いました。ですが、あれは嘘です。とある事情で、試しに購入して見たかったのです」
明里は美月が正体不明の人物に嫌がらせを受けており、自分達はぬいぐるみ関係していると考えていることを話す。
「美月ちゃんがそんなことになっているとはね、いいよ。私にできることなら協力するよ」
「ありがとうございます。では、早速、根岸さんに質問します。前回、ボク達が店に来た時、あなたの発言でずっと引っかかっていたことがありまして」
「んー、私、何か変なこと言った?」
「変なこと、ではないですね。ただ、気になることを言っていました。ボク達が『ミラーメイツ』を購入する時、あなたはこう独り言を呟いた。まあ真面目そうな子だから、転売するなんてあり得ない、と」
「あー、うん。そんなこと言ったね。それが?」
烈も朧げに覚えている。だが、何故明里はその言葉が気になったのだろうか。その理由を聞くため、明里の話に耳を傾ける。
「根岸さんはボク達が『ミラーメイツ』を転売のための購入するかもしれないと、一瞬疑念を抱いたんですよね?」
「うん」
「だけど、それはよくよく考えれば妙なんです。美月さんは双子であり、『ミラーメイツ』の購入条件を満たしている。だから、購入自体はおかしくない。もし転売の疑念を抱くなら、何かしらの理由があるということ。例えば、『ミラーメイツ』を何度も購入しているとか」
烈は「ちょっと待ち」と口を挟む。
「何度も購入ってどういうことだ? 白波は彼氏からもらっただろ。それなのに、何度もぬいぐるみを購入していたのか?」
「いいや、朔夜さんからもらったものだけだよ。美月さんには事前に確認しておいた。美月さんが持っているのは一個だけ」
「……また、持って回ったような表現だな」
「相手をつい焦らすのが、ボクの悪い癖だね。まあ、もう少しお付き合い願おう」
明里は烈から根岸へと視線を戻す。
「もう一つ、気になることがありまして。根岸さんは転売の疑念をすぐに払拭しましたが、その理由として相手の人柄を挙げました。真面目そうだからと。美月さんは明るく愉快な子だが、真面目かと言われれば疑問符がつく。少なくとも、外見からそのような評価が出ることはない」
ここまで来て、明里が何を言わんとしているのか、烈はようやくわかった。
「もしかして、俺達がこの店に来るよりも前に、白波妹が『ミラーメイツ』を購入したことがある?」
双子で、美月が転売をするかもしれないと勘ぐられる。そして、真面目そうな外見。導き出される烈の答えは、美月の双子の妹、水鏡が『ミラーメイツ』を購入したというもの。
根岸は「うん、そうだよ」とあっさり認める。
「お嬢ちゃん、まるで探偵さんみたいだったね。思わず聞き入っちゃったよ。その通り、妹の水鏡ちゃんが君達よりも前に一人で来て、『ミラーメイツ』を購入していったんだよ。それで双子で何度も購入するから、もしかして転売目的かなって思ったの。美月ちゃんはこのこと知らなかったの?」
「知らないと思いますよ。ボクも美月さんから聞いていないんで。ちなみに、どの『ミラーメイツ』を買ったのでしょうか?」
「えーとね……」
根岸は『ミラーメイツ』が並んでいる棚に手を伸ばし、クマのぬいぐるみを手に取った。
「これだよ、クマのやつ。これがどうしても欲しかったみたい」
美月が持っているものと同じ種類もの。
「にしても、なんで姉と同じものを買ったんだ? 姉が大事そうにしていたから、羨ましくなったのか?」
烈の推測を、明里は「おそらく違う」と否定。
「水鏡さんの場合は、単なる物欲じゃない」
「じゃあ、なんなんだよ?」
「彼女の目的はなんとなく目星がついているが、ここでは言わないでおく。根岸さんから話を聞き、次に進むために必要な情報を得る」
そう言うと、明里は根岸へと向き直る。
「もう二つほど、根岸さんに聞きたいことがあるんです。どちらも難しい質問ではありません。イエスか、ノーで答えられます」
明里は根岸に対し、二個質問。どちらも根岸はイエスと答えた。
店から出た後、烈は「にしてもなあ」と呟く。
「最後に明里がした二つの質問、あれ一体なんだ?」
烈には質問の意図が分からないし、何故明里がそのような質問をしようと思ったのかも分からない。だが、明里は烈の疑問に答えてくれない。
「明日、美月さんのお見舞いに行った時にね。そこで彼女達と会えたら、君にも一緒に説明するよ」
「なんだ? またお得意の焦らしか?」
「異性にモテるテクニックの一つが、焦らしだよ。どうだい? ボクにトキめかない?」
「全く。単にもやもやするだけだ。俺としては、とっとと教えてほしいんだが」
「まあまあ。ボクが何故あのような質問をしたのか、君になりに考えたまえ。頭を使う訓練だよ」
「へえへえ」
烈は明里の秘密主義に釈然としないも、明里と共にオレンジ色の帰路を二人で歩く。




