第2話
烈は放課後になると、教室を出てとある場所に向かう。行き先は明里のクラス。ホームルームが終わったばかりのようであり、教室内には多くの生徒が残っている。教室の外から中を窺うと、帰り支度をしながら級友と会話をしている明里の姿が見えた。
烈は明里を呼ぶことに、躊躇する。どうも他のクラスというものは、立ち入りずらい雰囲気がある。自分の領域とは異なるからだろう。烈が扉の前で足踏みしていると、「剛村くん、どうしたの?」と声をかけられた。
声をかけてきたのは、今井由佳。明里のクラスメイトである。彼女は一ヶ月ほど前にマッチングアプリを使ったパパ活をしており、それを発端としたストーカー被害を受け、烈達に相談、解決してもらった。今は反省して、パパ活はやめているようだ。
彼女の席は扉の近くであり、それで烈の存在に気がついたようだ。
「うちのクラスに何か用?」
「悪いが、明里を呼んでくれないか?」
「明日見さん? うん、いいよ。おーい、明日見さん。剛村くん、来てるよ」
今井の声に明里が反応、烈の方へ笑顔で駆け寄ってきた。
「やっぱり、明日見さんと剛村くんって」
「そうだよね」
何やら明里のクラスメイトがひそひそと話している。校内でも有名人である烈と明里が揃っているのだから、注目を集めるのも無理はない。だが、烈にはどうでもいい。他人がどう思おうが。いちいち雑音に反応していては、気が滅入る。
「なんだい、烈くん? 君がボクのクラスに来るなんて珍しいじゃないか。というか、初めてだね」
「ちょっと話し合いことがあってな、一緒に帰らないか?」
烈の言葉に、明里はぱあと笑みを更に濃くする。
「あ、ああ。わかった! ちょっと待っていてくれ。すぐに帰り支度をする」
明里はそう言うと、自分の荷物を取りに早歩きで席に戻って行った。
「ねえ、明日見さん、何を話していたの?」
「いやあ、烈くんに一緒に帰ろうと情熱的に誘われたのさ」
「えー、放課後デートってこと?」
「まあね」
「ラブラブだ! 羨ましい!」
「もしかしたら、ついに告白されるかもしれない。わざわざクラスまで直接来て誘ってきたんだから」
「きゃー!」
明里はクラスメイトの女子達と何かを話しているようであり、時折黄色い声が上がる。
……あいつら、一体何を話しているんだ?
教室の外で待つ烈には、彼女達の会話が聞こえない。少し気になったものの、詮索はしない。女子の会話には、混じるのは気が引ける。
明里が帰り支度を終えると、烈と二人で下校。烈はとあることについて話したかったのだが、話を切り出せずにいる。
明里の様子がどうもおかしいのだ。
チラチラと烈に目配せをしては、恥ずかしそうにはにかむ。自分からは言葉を発さず、烈が話し始めるまで待っているようだ。
何か変な期待をされてるな。もしかして、俺が情報を得たことを察して、話すことを待っているのか。
このまま黙っていても時間の無駄なので、烈は口を開く。
「なあ、明里」
「は、はい。なんでしょうか!」
明里は上擦った声で、しかも敬語で返事をした。その様子に、烈はなんか今日の明里は変だなと思いながら、話を続ける。
「話たいことっていうのは、先日学校で起きた泥棒騒ぎだ。白波の部室の」
烈の言葉を聞いた途端、明里は「はあぁぁぁぁ……」と盛大的にため息をついた。
「な、なんだよ?」
「あー、うん。まあ、分かっていた。でも、君がいつもと違う行動を取ったから、もしかしたらと思ったんだよ。少しでも、君に期待したボクが愚かだったよ!」
「な、何を怒っているんだよ?」
「別に!」
突然明里の機嫌が悪くなったことに戸惑いながらも、烈は今朝の水原とのやりとり、それで得られた情報を明里に伝える。
「やはり、ダンス部の部室に入った泥棒は朔夜さんだったか」
烈から話を聞いている間に、明里の機嫌は良くなった。 話の内容に興味が移ったようだ。
「泥棒の正体が朔夜ってことを、警察に言うか? 水原の証言があれば、すぐに逮捕まではいかないまでも、事情聴取ぐらいできるだろう。それで、自供させるんだ」
烈の提案に、明里は首を振る。
「確かに、朔夜さんをしょっぴげるかもしれない。だが、彼が素直に認めると思うかい? 仮にこれまでの美月さんへの嫌がらせの主犯が、全て朔夜さんだとしよう。中には暴行や殺人未遂まで含まれている。それらの罪を問われば、長期の実刑は免れないだろう」
「泥棒は認めても、他は知らぬ存ぜぬとシラを切るかもしれない、ということか」
「そう。だから、泥棒だけではダメだ。他の罪の証拠も揃えてないからじゃないと」
この閉鎖した状況を変えられると思ったのだが、そう易々といかない。
気落ちする烈に対し、明里は「君が得た情報は無駄ではないさ」と烈の肩を叩き励ます。
次に彼女はスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかけた。少ししてから、電話が繋がった。
「もしもし、美月さんかい? 電話が出来るロビーまで移動させて悪かったね。それで今日のお見舞いなんだが、すまないが行けなくなった。うん、うん。泣くことはないだろう。明日の土曜日は絶対行くから。はいはい。切るよ。おしゃべりは明日」
電話の向こうの美月はグズっているようで、明里は。
どうやら、電話の相手は美月だったようだ。
「あれ、お見舞いに行くじゃなかったのか?」
「他に行くべき場所ができたんだ。君が教えてくれた情報から、確認すべきことができてね」
「確認すべきこと? 朔夜が泥棒だったことか?」
「いいや」
明里は気障ったく指を振る。
「もう一つの方さ。言ったでしょ。泥棒以外の罪の証拠も揃えなければと」




