第1話
翌日。朝食を食べ終わった烈は、一人で学校に登校。
朝のホームルームが始まるまで、自分の席で頬杖をつきながら物思いに耽る。
昨日、烈達が見つけた違法サイトは、その日の内にメディアを通して警察から発表された。警察は薬物が身を滅ぼすこと、安易に手を出してはいけないこと、前科がつくことを必死に呼びかけている。
警察発表の後、烈が違法サイトを覗いてみると、すでに閉鎖されていた。逃げ足は早いようだ。きっとサイトの運営はすぐに新しいサイトを開き、商売を再開するだろう。これから警察と運営のイタチごっこが始まるはず。
だが、警察の呼びかけは無駄ではない。最初から薬物の購入を望んでいる人間には効果薄だが、偶然サイトを見つけてしまい、唆される人間は減るだろう。
そういった意味では、違法サイトの存在を発見した烈達の功績は大きい。
だが、烈達の本来の目的、美月を謎の嫌がらせから守るという件については、何一つ進展していない。
美月が入院してから、彼女に何か危害が加えられたことはない。彼女の周りには警察官がおり、病院の中で行動を起こせば、すぐに自分の正体がバレると自粛しているのだろう。美月はあと数日で退院予定だが、退院すればまた襲われるかもしれない。退院後は警察が彼女の周りを見回ってくれるとの話だが、烈としては嫌がらせ犯が大人しい間に正体を見つけたい。次は本当に殺されるかもしれないから。
しかし、嫌がらせ犯の目的が、未だにはっきりしない。
せめて、狙われる原因が分かればいいのだが。
烈が頭を悩ませていると、肩に手が回される。
腕の主に目をやると、クラスメイトの水原だった。
烈が迷惑そうな顔をするも水原は無視、烈の顔の前に自分のスマートフォンを持ってくる。
「剛村、これ見てみ。面白い動画あるんだよ。俺がよく見てる動画配信者のやつなんだけど、すげーの」
「興味ねーよ」
「いいから、見てみろって」
水原があまりにもしつこく推すので、烈は仕方なく動画を拝見することに。
動画の内容は、若い男性動画配信者が数年前に卒業した高校に、生徒時代の制服を着て潜入するというもの。潜入からすぐに、当時の担任にバレて怒られていた。
一緒に見ていた水原は、ゲラゲラと笑い声を上げる。
「なあ、笑えるよな!」
「……ああ。笑える。こんな動画で笑えるお前のお気楽さがな」
烈の棘のある言い方に、水原は「な、なんだよ……」と不満気。
「その言い草。まるで俺が単純なやつみたいじゃないか」
「みたいじゃなくて。そうだ。悩みが何もない」
「お前も人のこと言えないだろ」
「いいや、俺はお前と違って色々悩んでいるんだよ。悩み多き思春期男子なんだ。今も滅茶苦茶苦悩してる。少なくとも、こんなくだらないもので笑う人間じゃねーよ」
「はいはい。そうでござんすか」
烈のノリが悪いので、水原はつまらなそうに自分の席に戻っていった。一人で動画を見て、楽しんでいる。
生徒の格好をして、学校に侵入ね……。
そこで烈は、ダンス部部室での泥棒騒ぎを思い出す。そちらもまだ犯人は見つかっていない。
そういや、犯人はどうやって学校の中にまで潜り込んだのか、それもまだ分かっていないんだよな。犯人は朔夜だと思うけど、ただでさえあの派手な金髪だ。目立つだろうな。
……金髪?
「おい、水原!」
突然、名前を大声で呼ばれた水原はびくりと肩を振るわせる。
「な、なんだよ、大声出して。スマホ落としそうになったじゃねーか」
「お前、前に校内で派手な男子生徒とすれ違ったって言ってたよな? 金髪の」
「あ、ああ。服装検査のきっかけになったやつな。それがどうした?」
「もしかして、こいつか?」
烈は、水原に自分のスマートフォンの画面を見せる。画面には、美月と朔夜のツーショット写真が映っている。これは明里が美月からもらったもの。何かの役に立つかもしれないと、烈に送ってきたのだ。
水原は写真の朔夜を指差し、「そうそう、コイツ!」と肯定。
「てか、なんで白波さんと一緒に映っているんだ? もしかして、例の彼氏? ん? ちょっと待て。俺がこの彼氏を見た日って、ダンス部に泥棒が入った日だよな? それに、彼氏はすでに高校卒業して働いてるって」
「中々察しがいいな」
「もしかして、彼氏が高校生のフリして、泥棒に入ったのか? 自分の彼女の部室に?」
「コイツが泥棒の犯人かは、まだ断定できない。だが、俺はコイツが泥棒、そして白波への一覧への嫌がらせの犯人だと思ってる」
「彼氏が自分の恋人に嫌がらせか。本当にお前は面倒事によく巻き込まれるなあ」
「まあな」
烈は苦笑いを浮かべる。
「コイツがうちの制服を着ていたということは、卒業生かな?」
烈の推測に、水原は「いや、そうとは限らないな」と返す。
「今時、ネットで制服なんて簡単に買えるぜ。小遣い稼ぎとして、卒業生が使わなくなった自分の制服を売るんだよ」
「そういうこともあるのか。ただ、朔夜がうちの卒業生かどうか、一応確認はしておきたいな。どっかに歴代の卒業名簿とかないかな?」
「少し前までは図書室にあったけど、今は廃棄されてるよ。昨今、個人情報にうるさいからな」
「そりゃそうか」
少しでも朔夜の情報を得ようと思ったが、うまくはいかない。次にどうするべきかと烈が考えていると、「ちなみに、その彼氏の名前はなんて言うんだ?」と水原が質問。
「有馬朔夜だ」
「有馬、有馬……」
水原は何かを思い出すかのように、繰り返し呟く。
「どっかで聞いたことあるな」
「本当か!」
「ちょっと待てよ。……あー、そうだ。確か俺の兄貴の友達に、有馬っていう苗字がいたな」
「お前、兄貴いたの?」
「ああ。三つ上の。ただ、兄貴の話だと友達は優等生で、あんな軽そうな人間じゃなかった気が。ちょっと待ってろ」
水原は自身のスマートフォンを何やら操作。
「うちの高校では、卒業生がクラス毎にSNSのグループを作っているんだよ。兄貴のグループは……、これだこれだ。同窓会の時の写真を載せてる」
「コイツは……」
烈は集合写真を凝視。そこには烈が見知った、それでいて予想だにしていなかった人物が写っていた。




