第14話
間もなくして、数台のパトカーが到着。降りてきた警官の中には、神谷と三浦の二名もいた。
明里と烈は、神谷達に自分達が発見したことを説明。説明を聞いている間、神谷達は唖然と目を丸くしていた。
話を聞き終わった神谷は、悔しそうに頭を掻きむしる。
「薬物の売買サイトか。手帳に書いていたものを、まんまと見過ごすとは。しかも高校生の君達に先を越されるとはね。私もまだまだ未熟だなあ。まあ、とにかくお手柄だ。手帳と、ぬいぐるみを渡してくれるかい?」
烈は言われるまま、隣家娘の手帳と、烈の玄関に置かれたぬいぐるみを渡す。伝えるべきことはこれで全てだなと烈が考えていると、明里が「なあ、烈くん」と袖を引いてきた。
「君の家の玄関には、監視カメラがあったよね?」
「それがどうした?」
「もしかしたら、ぬいぐるみを置いた人間が映っているかもしれないよ。君の家とお隣さんを間違えた、お間抜けな人間がね」
そういえば、そうだ。違法サイトの運営は、自らの手で薬物を配達している。監視カメラには、配達する姿が映っているはずだ。
烈は「分かった」と自宅に戻り、父親の部屋からノートパソコンを持ち出す。玄関の監視カメラは父親が単身赴任する前に自宅のセキュリティを強化したいと、父親自ら取り付けた。カメラの映像は彼のパソコンで見られるように設定されている。
明里達のところに戻り、カメラ映像を確認。飛ばし飛ばしで映像を再生していると、やがて一台の軽車両が烈の自宅前で止まった。乗っていたのは、某有名宅配業者の制服を着た男。男はぬいぐるみを片手に車から降りてきた。この手の配達業者が、梱包も無しに荷物を配達するとは考えられない。おそらく偽装だろう。宅配業者の格好なら、周囲の人間に怪しまれにくい。ぬいぐるみを玄関に置く際、男はカメラに接近したが、帽子を目深に被っており、顔が見えない。警戒するように周囲を見回した後、足早に車に戻り去っていった。
烈はパソコンを閉じ、「なあ、神谷さん」と話しかける。
「男の顔は見えなかったけど、車のナンバーは映っていただろ。これで違法サイトの経営者は見つかるのか?」
烈の問いに、神谷は「いや」と首を振る。
「確かにナンバーは映っていたが、この手の輩が馬鹿正直に正規のナンバープレートをつけるとは思えない。おそらく、偽装ナンバーだろう」
神谷の言う通りだ。ぬいぐるみを使った手間のかかる取引をしておいて、ナンバープレートは手を抜くなんて考えにくい。
「神谷さん!」
隣の家から三浦が出てきた。彼の手には、記録媒体のUSBが握られている。
「隣の監視カメラに、売人と思わしき宅配業者の男が映っていました。ただ、帽子で顔を隠していまして……。一応、映像はもらってきましたけど」
烈が自宅の中から戻ってきた時、三浦の姿が見えなかったが、彼は隣家の監視カメラを見せてもらっていたようだ。
神谷は「そっちもか」と冷静に答える。男の素顔が映っていないのは、予想済み。
神谷は烈から監視カメラの映像をもらい、三浦と共にパトカーで去っていった。
神谷達を見届けた烈は、「なあ、明里」と話しかける。
「神谷さん達に有馬朔夜のこと、言わなくてよかったのか?」
「烈くんは、朔夜さんが薬物の売買に関係している、そう思っているんだね?」
「ああ」
嫌がらせを受けていた美月は、朔夜からぬいぐるみをもらった。そして、薬物の取引にぬいぐるみが使われていることが判明した。烈の頭の中では、これらの事実が無関係とは思えないのだ。烈の個人的な感情としては、警察に朔夜を調べてほしいのだが、明里は「それは難しい」と返す。
「なんで?」
「朔夜さんが薬物の取引に関わっていたという、確たる証拠がないからさ。朔夜さんには怪しいところがあるのは事実だが、現在は単なる憶測に過ぎない。警察も憶測だけでは動けないよ」
「そりゃ、そうだけどよ……」
明里の言っていることは正論である。だが、烈は納得できない。そんな烈の歯痒さを見た明里は、「この際だ、美月さん周りも整理しよう」と提案。
「これまでのことから美月さんが狙われた理由として、朔夜さんからもらったぬいぐるみの可能性が高い。ぬいぐるみ、『ミラーメイツ』には収納機能がある。そして、今違法サイトを見たんだが、『ミラーメイツ』も購入者は選べるそうだ。人気すぎて、予約待ちとなっている」
「だったら、やっぱり薬物がらみじゃないのか?」
「何故、そう思うんだい? 順序立てて説明して」
「朔夜は薬物をサイトで購入して、『ミラーメイツ』のぬいぐるみを選んだ。だけど、誤って薬物が入ったままのぬいぐるみを、白波にプレゼントとして渡しちまった。それでなんとか、取り返そうとした」
「美月さんは、ぬいぐるみには何も入っていなかったと言っていたよ」
「庇ってるんだろ。正直に言ったら、朔夜が警察に捕まる。あんだけベタ惚れなんだ、庇うんじゃないのか?」
「その考えには同意しかねるな。美月さんは、朔夜さんのことが大好きだ。だが、彼女の性格上、なんでもかんでも庇うとは思えない。大好きだからこそ、更生させようとするだろう」
美月は恋に盲目だが、倫理観までは忘れていない。嘘を平気な顔でつける人間でもないし、もし嘘をついていたら、明里がすでに見抜いている。
「じゃあ、ぬいぐるみに何も入っていなかったというのは、本当か……」
「いや、そうとも言い切れない」
「は? どういうことだよ?」
烈には明里が何を言っているのか、よく分からない。美月が嘘をついていないということは、ぬいぐるみの中身は空だったということではないのか。
怪訝な顔の烈を、明里は「まあまあ、落ち着いて」と宥める。
「どちらにしろ、ボク達がこの場で議論しても無意味だ。今までと同じで、情報が少なすぎる。話は変わるが、烈くん、明日は美月さんのお見舞いに行こう。それで今日知ったことを話すんだ」
「白波に話して、何かあるのか?」
「情報共有は大切だ。今回の話をきっかけに、彼女から新しい情報を得られるかもしれないよ。それに彼女が寂しがっていてね。毎日来て欲しいと催促の電話やメールをボクに来てる」
「あはは。あいつらしいな。うん、分かった」
明里の言う通り、ここで議論を重ねても結論は出ない。昨日、今日と色々疲れた。烈はこれ以上、頭を使いたくない。




