第13話
色合いが淡いファンシーから黒を中心としたアウトローなものへと変わる。大きく様変わりした雰囲気と、表示された内容に烈は驚愕した。
「おいおい、マジかよ……」
画面には商品一覧が並び、セール中と表示されたものがある。ここだけを聞けば、単なる通販サイトだと思えるが、問題は売り出されている商品。売られているのは、全て違法薬物だ。神谷達が言っていた新型麻薬もあり、『売り上げナンバーワン!』と銘打たれている。どうやら、このサイトにおいて一番のオススメのようだ。
「ダークウエブってやつか?」
「いや、ダークウエブとは違うね。ダークウエブを閲覧するには、専用のブラウザが必要なんだ。これは表面上普通のサイトに偽装している、ただの違法サイトだ。ダークウエブは人目につきにくいが、その分アクセスする人間は少ない。URLと方法さえ知っていれば、容易にアクセスできるこの方法を採用したのだろう」
「なるほどね」
少しでも購入してくれる人間が増える方法を選ぶ。商売の基本である。だが、そのアクセスのしやすさにより、烈達がこのサイトを発見できた。
「てか、明里。ダークウエブに詳しくないか? お前まさか……」
疑惑の目を向ける烈に、明里は心外だと視線を返す。
「言っておくけど、ボクは利用していないよ。以前に興味が湧いて、ちょっと調べただけだ。そういう君こそ、すっとぼけて、よく知らないフリをしているんじゃないのか? まさか、エッチなサイトとか見えていないよね?」
「見てねーよ!」
口喧嘩では明里には勝てない。烈は脱線した話題を元の道へと戻す。
「これ、神谷さん達、警察は知ってるのかな?」
「うーん、どうだろうね。押収した娘さんのパソコンやスマホを解析しているから、いづれ辿り着くと思うけど。まあ、ボク達はボク達でこのサイトを調べよう」
明里は新型麻薬の画像をクリック、製品の詳細ページが表示される。詳細ページには『勇気が出る魔法の薬。あなたの背中を少し後押しする! 痩せるし、気分もアガる。友達もたくさん出来る!』と、売り文句がと書かれている。嘘の効能を並べ立てるのは、薬物に誘うための常套手段だ。娘は大学にあまり馴染めていないと、烈の母親が言っていた。今の閉塞した状況を打開するためにと、きっと藁にも縋る思いで、つい薬物に手を出してしまったのだろう。
彼女がどうやってこのサイトを知ったのか不明だが、烈はこんなサイトに出会うべきではなかったと思う。
明里は新型麻薬をカートに入れて、購入手続きのボタンを押そうとし、烈が慌てて止めた。
「おい、まさか実際に買うつもりじゃないよな?」
烈の不安に対し、明里は「まさか」と笑う。
「流石になんらかの罪になるから、やらないよ。ただ、購入の流れを確認するだけさ」
「なら、良かった」
烈は明里の言葉に安堵。自分のスマートフォンで薬物の購入など、たまったものではない。
明里が購入手続きに進むと、次に商品の受け取り方の説明が表示された。
注文しても薬物がすぐに届くわけじゃない。最初に、サイトの運営側がぬいぐるみを購入希望者の玄関先に置く。購入者は設置されたぬいぐるみの中に、料金を入れる。後日、運営側がぬいぐるみごと、料金を回収。少し時間を置き、注文の品を入れたぬいぐるみを玄関に置く。
ぬいぐるみは購入者が自由に指定でき、正規店では購入できない品薄のぬいぐるみも希望できる。
明里は「なるほど、なるほど」と興味深そうに呟く。
「これで、いくつかの疑問が解決したね。さて、烈くん。ここで確認だ。そうだね、まずは巷で広がっている、例の都市伝説にしようか。この都市伝説には、どんな曰があったかな?」
明里はこれまでの出来事の整理と、烈との認識合わせを行いたいのだ。烈は彼女の質問に答える。
「ぬいぐるみが置かれた家は、近いうちに不幸に見舞われる」
「何故、ぬいぐるみが置かれた家は不幸に見舞われる?」
「ぬいぐるみには、薬物が入っていたからだろ?」
「薬物と、不幸の因果関係をもっと手順を踏んで、詳しく説明してくれ」
「手順を踏んで……」
烈は自身の中でより深く考え、改めて回答。
「ぬいぐるみは単なる嫌がらせではなく、薬物の取引に使われていた。つまり、その家の住人が、薬物を購入して使っていたということ。薬物を使うと、禁断症状で言動が異常になる。特に新型麻薬は。使用者の異常な言動によって、他の住人とトラブルになったのが、不幸の正体。これでどうだ?」
「バッチリ。花丸をあげよう」
満点回答をもらった烈。だが、疑問点はまだある。
「それにしても、なんでぬいぐるみをわざわざ使うんだ? 口座振り込みで、適当な小包に入れて送ればいいだろ?」
「理由はいくつかあると思う。まず一つ目は、購入者の心理的抵抗を下げるため。可愛らしいぬいぐるみもサービスすると言われれば、女性などは食いつくだろ? このサイトでは、人気なぬいぐるみをくれる。ぬいぐるみ目当てで、薬物も一緒に買ってみよう、ということになるかもしれない」
「他には?」
「足がつかないためだ。口座振り込みやクレジット、電子マネーだと、警察に誰と誰がやりとりをしたのかと容易にバレる。だから、直接購入者の家に行き、現金との交換にしているんだ。アナログなやり方だが、だからこそリスクが少ない。料金の回収と薬物の設置に時間を置いているのは、囮捜査を警戒してのことだろう」
「なるほどね。サイトの運営者もそれなりに、考えているってことか。それで、そろそろ警察に通報してもいいよな?」
「その前にやることがある」
「まだ、何かあるのか?」
「娘さんのお母さまに、一度話をしておこう。ボク達に部屋を見せてくれたんだ。何も言わずに通報するのは、不誠実だ。それにいきなり警察が来たら、びっくりするだろう」
「わかった」
烈達は一階に降り、隣家母に判明したことを伝える。我が娘が怪しげなサイトから、自分の意思で薬物を購入したと聞いた隣家母は卒倒しそうになり、烈達が慌てて支えた。娘の薬物使用は何かの手違いだと、信じたかったのだろう。
ようやく落ち着いた隣家母は「通報のことなんだけど、君達にお願いできるかしら。ちょっと今は通報すら難しくて…」と、警察への通報を承諾。
明里がリビングで隣家母を介抱し、一方の烈は自身のスマートフォンで警察に電話をかけた。




