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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第2章 甘美な毒薬

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第12話

 インターホンを鳴らすとしばらくして、隣家の母親が出てきた。隣家母の目の下には濃いクマができており、顔色は青白い。昨日から眠れていないのだろう。すっかり憔悴しきっている。元々は膨よかな人なのだが、たった一日で痩せこけたように見える。

「……あら、お隣の烈くんね。ごめんなさいね、昨日は娘が迷惑かけちゃって……」

「別に気にしてないっす」

 自分の母親を危険に晒されたのだから、全く気にしていないわけではない。だが、今の隣家母に正直に心の内を話すのは、なんとなく避けた方がいいように思えた。

「嘘でもそう言ってもらえると、助かるわ。そちらの女の子は、お向かいのお嬢さんね。どうしたのかしら?」

 隣家母は来客対応用の笑顔を向けるが、ぎこちない。無理もない。愛娘があのような事件が起こしたのだから。

 明里は「心中お察しします」と慰めの言葉をかけた後、娘の部屋を見せてほしいと頼む。

「娘の部屋を? 何故かしら?」

「娘さんが薬物を使っていた可能性はご存知ですか?」

「……ええ。警察から今朝、薬物反応が出たって聞いていた。まさか、あの子が……」

 隣家母は思わず涙ぐむ。まだ事実を受け入れられていないようだ。もっとも、昨日の今日で出来るわけがない。こうして烈達と話しているだけでも辛いはず。

「ボクは娘さんと何度か言葉を交わしたのですが、どうしても娘さんが簡単に薬物を使用するような人間には見えないのです」

「そ、そうよね。私もそう思うわ」

「仕方なく薬物に手を出すような、あるいは使用のハードルを下げるきっかけがあったのではないかと考えています。過去を変えることは出来ませんが、何故彼女が薬物に手を出したのか、その理由がわかれば、更生に繋がるかもしれません。近くにいて、かつ程よい距離感のボク達なら分かるかもしれません。どうか、娘さんのお部屋を調べさせてください」

 相変わらず、明里は口が上手い。それっぽいことを言って、明里達に任せた方が良いと思わせようとしている。

 そして、明里の言葉に、疲労困憊の隣家母は簡単に流されてしまった。

「わかったわ。お嬢さんはあの有名な推作家の娘さんだし、娘がおかしくなった原因を見つけてくれるかもしれない。申し訳ないけど、お願いできるかしら」

「どうぞ、お任せください」

 笑顔で自分の胸を叩く明里。その様子を見て、烈はこの幼馴染に薄寒いものを感じる。明里は単に好奇心を満たすためだけに、この提案をしているわけではない。隣家の問題解決の手助けをしたいという、善意も含まれているはずだ。

 だが、相手の状況、心理状態を把握し、言葉巧みに相手につけ込み操る彼女のやり方には、恐怖を抱かずにはいられない。

 烈達は隣家母に家の中に招かれ、娘の部屋まで案内される。

「何か分かったら教えて。私は一階にいるから」

 烈は娘の部屋を軽く見渡す。

 アニメやアイドルのポスターが壁に貼られており、可愛らしい小物がテーブルの上に置かれている。娘はぬいぐるみが好きなようで、部屋の至る所に飾られていた。

 年相応の女性らしい部屋であり、薬物を使う人間の部屋には見えない。

 これ以上、女性の部屋を観察するのは失礼だと思い、部屋の片隅に視線を合わせる。

 一方の明里はというと、無遠慮に部屋の中に入って娘の私物を物色する。

「なあ、明里。警察が昨日娘さんのことを徹底的に調べただろ? パソコンやスマホも押収されてるし、俺達で何か見つけられるのか?」

「警察も完璧じゃないさ。見落としがあるかもしれないよ」

「見落としなんてあるのか?」

 烈は何度も事件の現場検証に参加していた。彼らは最新の科学技術を用いて、人海戦術でそれこそ砂粒まで徹底的に拾い上げて調べる。素人の烈達が見つけられるものなんて、たかが知れる。

 だが、明里は自分達でも発見できるものがあると考えているようだ。

 明里はクローゼットや小物入れを漁った後、机へと向かう。次の調査の対象として選んだのは、机の上に置いてあった一冊の手帳。手帳のカレンダーには、アルバイトや大学のレポート等の締切が記入してある。単に予定が書き込んでいるだけであり、警察も事件に関連なしと持っていかなかったようだ。

「……見つけたよ」

 明里は嬉しそうに、口角を上げる。烈は明里の横から手帳を覗き込んだ。明里が開いているのは、メモ欄のページ。数字やよく分からない文章などが、とりとめもなく並んでいる。明里が指出したのは、とある部分。

「なんだ、これ? URLか?」

 明里が指差したのは、何かのサイトのURL。その下には、赤、黒、青、白、黄と文字が並んでいる。

「これがどうしたんだよ?」

「烈くんはまた見たいと思うサイトを見つけた時、どうする?」

「どうするって、ブラウザでブックマークとして登録するけど」

「その通り。普通はブックマークやお気に入りとして登録する。わざわざ手書きでメモなどしない。面倒だからね」

 ここまで言えば分かるねという明里の視線を受け、烈は少し考える。

「便利な機能があるのに、あえて使わない。他人の目に入る可能性を少しでも、下げたいから?」

「うん。やましい気持ちがあるから、パソコンやスマホに残したくないんだ。メモ欄に紛れ込ませれば、一時のメモとして残しただけだと見られる。娘さんはそう考えたのだろう。実際、警察もこのメモを軽く見ていたみたいだね。それで烈くん、このサイトを君のスマホで閲覧してくれ」

「なんで俺のなんだ? 自分の使えよ」

「嫌だよ。変なウイルスに感染するかもしれないでしょ。乙女であるボクのスマホには、大切なデータが詰まっている。一方、君は連絡先も少ないし、どうせゲームとかにしか使っていないだろ? 最悪データが消えてもいいじゃないか」

「お前……」

「ほら、早く早く」

「……もし壊れたら、お前に修理代を請求するからな」

 幼馴染の催促で仕方なく、烈はURLを自分のスマホに打ち込む。変なサイトではないようにと、祈りながらページを開いた。

「なんだ、こりゃ?」

 表示されたページは、様々なぬいぐるみのイラストが描かれている、とてもファンシーなページだった。ぬいぐるみの通販サイトらしい。

 拍子抜けした烈が試しにページをスクロールしようとしたが、指で操作しても反応しない。

「なんだ、このサイト? 壊れてるのか?」

「いや、ちょっと貸してくれるかい?」

 明里は烈の手から強引にスマートフォンを奪うと、手帳を見ながらぬいぐるみのイラストをタップしていく。メモに書かれた色の順番通りだと烈が気づいた時、明里は最後の色のぬいぐるみをタップした。

 すると、ページが切り変わる。

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