第10話
美月が襲撃された翌日。
烈は明里と共に、美月達が襲われたという場所に来ていた。そこは美月の家から、それほど離れていない路地。周りには多くの住宅があるが、塀で住民からは路地の様子が見えず、また街灯も少ない。美月達が襲われた時間帯は深夜だったので、尚更人の目は少なかっただろう。
現場の様子を確認した明里が一言。
「監視カメラが無いな」
「監視カメラ?」
昨今、日本では監視カメラが増えており、監視会社と呼ばれて久しい。しかし、ここら辺の通りは大分前に開発された場所。都会では電柱とセットになっている監視カメラもなし。田舎であるここらの住宅では、監視カメラをつけている家庭が少ない。もっとも高校生である烈達が突然お宅のカメラの映像を見せてくださいと言っても、見せてくれるわけないのだが。
まだ、警察が強盗達を捕まえたという一報は聞いていない。情報の無さが原因なのだろう。
「つまり、強盗達は自分たちに都合の良い場所を選んでいた、ということだな?」
「おそらくね。そして、その場所に美月さん達が来た」
美月をここに呼び出したのは、朔夜。彼が手引きしたのではないかと、益々疑念が深まる。朔夜も強盗達に怪我を負わされたが、それは偽装工作の可能性がある。自分だけ無傷だったら、周りから不審がられるから。
「仮に朔夜が強盗の件を含めて、一連の事件の主犯だとするだろ。目的はなんだ? 何故、ここまで恋人の白波を攻撃する?」
「そうなんだよ。それがどうしても分からない。ボクも幾つか理由を考えたのだが、どれもしっくりこなくて」
烈と明里はしばらくの間その場で悩み続けるも、時間の無駄だということで帰宅することに。
烈は自宅の前で明里と別れ、玄関へと向かう。扉を開けようとした烈は奇妙なことに気が付いた。
「なんだ、これ?」
玄関の前に、ぬいぐるみが一つ置いてあったのだ。ツギハギの縫い目が特徴の、犬のぬいぐるみだ。所謂、パッチワークと呼ばれる手法で作ってある。
「まさか、例の都市伝説か?」
外見は女子ウケするような可愛さなのだが、ぬいぐるみが勝手に置いてあったという事実に鳥肌が立つ。ぬいぐるみが置かれた家が不幸に見舞われるという噂が、余計に気味の悪さを際立たせる。
「気色悪……」
正直触りたくないのだが、以前読んだ新聞記事に、ぬいぐるみにカメラや盗聴機が仕掛けられている可能性があると書かれていた。このまま放置するのは危険なので、とりあえず対処することに。
「何かで包むとか言ってたな」
本当は切り刻んでゴミとして捨てたいのだが、母親の私物という可能性も捨てきれない。
記憶を頼りにぬいぐるみをタオルで包んだ後、電波を遮断するために金属の容器を探すことに。
「そういや、親父が金属の缶みたいなのを持っていたな。それを使うか」
烈はガレージへと直行し、父親が使っているバイクイジりで使っている道具達を漁る。空の金属製の缶を見つけ、中にぬいぐるみを入れた。
「とりあえず、これでよし。お袋が返ってきたら聞いてみるか」
缶を下駄箱の上に置き、着替えるために自室へと。私服に着替えた後、リビングのソファで横になりながら、テレビを点けた。
テレビを眺めていたのだが、次第に瞼が重くなっていった。
「……あれ、今何時だ?」
烈はいつの間にか寝落ちしていた。テレビに映った時刻を確認すると、午後六時をすでに回っている。そろそろ母親が帰ってくる時間帯だと思っていると、耳を劈く女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「どこに隠したの!」
声は外からのもの。なんだと思い耳をそば立てると、母親の声も聞こえてくる。何やら外で言い争いをしているようだ。もちろん、呑気に様子を伺うことなどできず、烈は玄関から顔を出す。
隣の家の娘が母親に詰め寄っている姿が見えた。
烈が初めて娘を見た時、物静かそうな、根暗そうな人間だと思った。だが、今の彼女は別人だ。目を見開き、口を大きく開け、唾を飛ばす。
「あれはどこ! どこ! ねえ!」
「どうしたの? 落ち着いて!」
母親はなんとか娘を追い付かせようとするが、むしろ娘はヒートアップしていく。捲し立てるが、早口過ぎて言葉が聞き取れない。母親もどうしていいか分からないといった様子。
「どこって、聞いてるの!」
業を煮やした娘は母親の肩を掴み、母親の顔は恐怖で歪む。
その光景を見た烈の頭に、瞬時に血が上る。裸足のまま玄関から飛び出し、娘を母親から引き離した。
「一体、どうしたっていうんだ!」
烈は娘を一喝するも、効果はなし。彼女の目は焦点が合っていない。呼吸も荒く、顔色も悪い。発汗し、指先が震えている。単に体調が悪いというわけではなさそうだ。
なんなんだ?
烈は娘の異常な姿に、困惑。どう対応するべきかと考えていると、先に娘の方が行動を起こした。彼女はハサミを取り出し、両手で取手を掴み、刃先を烈達に向ける。
「早く返して! あれがないと、私はもうダメなの!」
何を返してほしいのか烈達には分からないが、彼女から向けられる殺意からは逃げられそうにない。説得もおそらく無理だ。娘を無力化する必要がある。
しかし、凶悪な犯罪者ならともかく、華奢な娘を殴り倒すのには烈も気が引ける。
まずはハサミだな。
狙いを定めた烈は、娘に一気に接近。喧嘩慣れしていないであろう娘は、烈が急に近づいてきたことに動揺した。その動揺を見逃さず、烈は娘の手を握り拳で叩いた。娘は「きゃっ!」と苦痛の悲鳴を上げ、ハサミから手を離してしまう。彼女がハサミを拾い直す前に、烈は娘の腕を後ろに回して地面に押し倒す。娘は拘束から逃れようと身じろぐが、力が弱いため背中に乗った烈をどかすことができない。
「お袋、警察、警察!」
「う、うん」
母親は烈に言われるまま、自身のスマートフォンで一一〇番に通報した。
なんで、こんなことになるんだ?
烈は暴れ続ける娘を見下ろしながら、またしても事件に巻き込まれてしまった自分の体質を呪うのだった。




