第9話
帰りのバスから降り、自宅に向かう途中で、「なあ、烈くん」と明里が話しかけてくる。
「双子のこと、どう思う?」
「どっちだ?」
「両方」
白波姉妹と有馬兄弟、双方の所感を求めてくる明里。このタイミングで聞いてくるということは、単なる世間話ではない。彼女はこれまでの一連の事件に、双子という要素が関わっていると思っているからこそ、烈に質問してきたのだ。
烈は率直な感想を述べる。
「……そうだな。まずは白波姉妹の方から話すか。大の仲良しというわけじゃないな。ただ、不仲というわけでもない。白波は白波妹のことを好いている。妹の方も姉に対してそっけないが、嫌っているわけじゃない」
「ボクも同意見だ。性格が大きく違うから合わない部分も多いが、お互いに相手を気遣っている。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「水鏡さんの方は何かを隠している。彼女が暴漢に襲われた時のことを覚えているかい?」
「もしかして、あのぬいぐるみか? 白波が狙われる理由を見つけるために、二人の持ち物を確認した時、白波のぬいぐるみに話題が映った。その時の白波妹は様子が変、だったよな? 帰らせろって」
烈達が美月の持っていたぬいぐるみ、『ミラーメイツ』について調べようとした矢先、水鏡は帰宅したいと言ったのだ。今思えば切り出すタイミングが強引であり、なんとかその場を離れようとしていたように見える。
「うん。どうも水鏡さんは今回の件に関して、無関係というわけではなさそうだ。少なくとも、あのぬいぐるみ関係で何かを持っている。彼女と話をして、色々聞き出す必要があるね。だから、仲良し作戦をしようと思う」
「仲良し作戦? もしかして花咲の妹の時と同じか?」
青薔薇の貴公子事件の捜査をしている最中、烈達は被害者である萌絵、その妹が姉に関することで隠し事があると勘づき、仲良くなって話を聞き出そうとした。その作戦を、今回も明里はやろうとしているのだ。
「美月さんから彼女の連絡先はすでに聞いていてね。これから距離を縮めていこうと思う」
「で、うまくいきそうか?」
明里は苦笑いを返す。
「んー、どうだろう。社交的な姉の美月さんに比べて、水鏡さんは随分と警戒心が強い。ボクが探りを入れてきていると、すぐに看破するはずだ。まあ、手強そうだが地道に行くさ。ああいうタイプは一度心を許してくれれば、ちょろい。それで有馬兄弟の方はどう感じた?」
「あっちは明らかに仲が悪いよな。特に弟は兄に対して、明確に負の感情を抱いている。弟の話は少しだけしか聞いていないけど、それでもはっきり分かる。あんな兄貴だから、当然ちゃ、当然だけど」
「単純に仲が悪いだけじゃないね。陽太さんは、何かあったら朔夜さんを警察に突き出してくれと言っていた。叩けば埃がいくらでも出るような、警察に捕まっても仕方がないという態度だ」
「やっぱり、何か悪くどいことでもしているのかな?」
「弟の目からは、そう見えるのだろう」
やはり、朔夜の脛には傷がありそうである。
「なあ、明里。今からあの男に連絡先を聞くのがどうだ? 白波妹と同じ仲良し作戦をするんだよ。女の明里相手なら全部喋りそうな気がするんだ」
烈は特に深い考えもなく発言。
すると明里は立ち止まり、烈を睨みつける。あからさまに不機嫌であった。
「なんだ? 君はボクがあの男と親しげにやりとりをしてもいいのか? あの、平気で、女性とあらば、口説くような、男と? 下心を、隠さずに、異性を、性的な目で見る、スケベ野郎と?」
明里の目は、とてつもなく冷たい。今日の気温は高いのに、烈は自身の周りの気温が急激に低下していくような錯覚に陥る。朔夜とやりとりをするのが、よっぽど嫌らしい。
いくらを調査のためとはいえ、我慢を強いるのは烈としても望まない。
「すまん。悪かったよ。俺も明里があの野郎とやりとりするのは嫌だ」
烈は素直に反省の弁を述べる。烈の発言は軽率であったし、ここで明里との間に禍根を残すのは良くないとの判断だ。
明里はきょとんとした顔を浮かべた後、顔をニヤつかせる。不機嫌から一転、これ以上ない上機嫌となった。機嫌がコロコロ変わる奴だなあと、烈は思う。
「烈くんも意地が悪い。嫌なら最初から提案するのはやめなさい。ボクがあの男に手籠にされても構わないのかと、誤解したじゃないか。それにしても俺以外の男とは絶対話すなとは、君は独占欲が強いなあ」
「いや、そこまでは言ってない」
「さあ、帰ろう。これからどうするか、二人っきりで作戦会議だ!」
明里は烈の手を引き、スキップしながら自宅へと向かう。
よく分からないが、明里。
あまりの浮かれように、これから行う作戦会議がきちんと出来るのか心配な烈であった。




