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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第2章 甘美な毒薬

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第4話

 俺達が双子の兄妹? 何故そのようなことを聞くんだ?

 妙な質問をするなと考えながら烈は否定しようとしたが、先に明里が回答。

「いいえ、ボク達は双子ではありません。超絶ラブラブの幼馴染カップルです」

「……ん?」

 明里の珍妙な回答に烈は戸惑いを隠せないが、明里も根岸もスルーして話を続ける。

「申し訳ないけど、双子じゃないなら、このぬいぐるみを買えないよ」

 根岸の返しに、烈は怪訝な表情を浮かべる。なぜ双子が購入条件なのかと。

 明里も不思議そうな顔を浮かべ、更に質問を重ねる。

「何故双子である必要が?」

「転売対策だよ」

「転売対策? このぬいぐるみが転売さていることはボク達も知っていますが、そこまでするのですか?」

「コラボ先の意向なの」

「コラボ先?」

 根岸はおしゃべりが好きなようで、烈達に長々と説明をしてくれた。

 ぬいぐるみの正式名称は『ミラーメイツ』。とある双子専門の超人気ブランドとのコラボ商品である。『ミラーメイツ』は今勢いのある二つのブランドによる合作、日本限定という話題性に加え、抜群の造形から発表直後から大人気となった。

 好調な売り上げは商売として喜ばしいが、問題は()()()()()こと。めざとい転売屋が買い占めに走り、双方のブランドのファンが購入できないという事態が発生してしまった。元々海外ブランドの方は転売を毛嫌いしており、『ワンダーステッチ』に対し早急な対策を求めてきた。対策をしなければ、商品の生産を停止すると。『ワンダーステッチ』としては、莫大な売り上げを叩き足している商品の生産停止はなんとか避けたい。そこでとある方法を思いつく。

「それが購入者を双子限定にすることだと?」

 明里の確認に、根岸は「そうそう」と頷く。

「購入するためには双子で店に来るか、双子であることを証明する必要がある。元々『ミラーメイツ』は、双子がぬいぐるみにお互いプレゼントを入れて、交換することをコンセプトとしているの。海外ブランドは双子をターゲットにしているから、この対策をとても気に入ったんだ。まあ、それでも完全に転売を防げているわけじゃないけど」

 転売市場には『ミラーメイツ』が流通している。おそらく転売屋がわざわざ双子を雇って購入しているのだろう。だが、それでもある程度の転売の抑制にはなっているようだ。転売用の商品を購入するためには、交通費やフリマアプリの手数料など費用が諸々かかる。そのため大きな利益を得るためには大量購入して、売り捌く必要がある。『ミラーメイツ』はその条件から大量に集められない。割に合わないと、諦めた転売屋も多いはず。

「君達を転売屋とは言わない。だけど、『ミラーメイツ』の購入条件を満たしていないから、申し訳ないけど売れないんだ」

 店の言い分は烈にも分かる。だが、『ミラーメイツ』がどういう商品なのか観察するためには、実物を購入しなければいけない。

 癪だが、フリマアプリで買うか。

 そのような本末転倒なことを考えていると、明里が「このぬいぐるみを購入したいのは、ボク達じゃありません」と答えた。明里はスマートフォンを取り出し、とある写真を根岸に見せる。

 写真には明里と美月が二人並んでピースサインをしている姿が写っている。

「ボクの横の女の子、見覚えがありませんか? 少し前にこの店に来たのですが」

「あー、覚えてるよ。美月ちゃんでしょ。この子とは気が合って話し込んだから。店内でチャラ男にナンパされていたことも」

「なら、話は早い。この子、ボクの友人でして彼女から代理購入を頼まれたんですよ」

 烈には初耳である。明里の言っていることはおそらく嘘だ。美月とのツーショットは何かに使うかもしれないと、あらかじめ用意していたのだろう。

 よくもまあ、すまし顔で嘘を並べられるものだと烈は思う。

「そうだったの。まあ真面目そうな子だから、転売するなんてあり得ないか。いいよ」

 根岸は特に疑うこともなく、烈達の購入を許可してくれた。

「ありがとうございます」

 明里は『ミラーメイツ』のぬいぐるみが置かれている棚から、ぬいぐるみのペアを手に取り胸に抱く。美月と同じクマのぬいぐるみで、色は同じ水色。片割れの色はピンクだ。

「このぬいぐるみについて、もう一点お聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「なんでも聞いて。店員だから、商品に関することなら答えるよ」

「『ミラーメイツ』には何か()()()()()()などがあるのでしょうか? 例えば、当たりが混じっていて、それを引き当てると莫大なお金がもらえるとか?」

 根岸は「何それ!」と大口を開けて笑い飛ばす。

「ないない! 単に人気なだけのぬいぐるみだよ!」

 まあ、そうだよな。

 ぬいぐるみ狙いだという烈達の推理は間違いだったのだろうか。烈がそう考えていると、根岸は「……あっ。そういえば」と呟く。

「最近さ、変な()()()()があるの知ってる?」

 明里は「玄関先にぬいぐるみが置かれるというものですよね?」と返す。

「そう、それ。その都市伝説のぬいぐるみの中に、『ミラーメイツ』が混じっているらしいの。それで最近、商品の評判が落ちているんだ。迷惑な話だよ」

 ぬいぐるみが置かれた家は不幸になるという都市伝説。確かに売る側からすれば、良い迷惑である。

「私が知っているのは、それぐらいかな。なんでぬいぐるみについて知りたいの?」

「ボク達の周りで、正確には『ミラーメイツ』周りで色々と奇妙なことが立て続けに起きていまして。それで何かあるんじゃないかと思ったんですよ。あ、そうだ。お会計お願いできますか?」

 根岸はそれ以上追及せず、「ふーん。承知しました」とレジで商品の清算。烈は明里と共に店を出た。そのまま帰路へと。

 帰りの電車の中、烈は隣の明里が持っているレジ袋の中から、『ミラーメイツ』の一つ、水色のクマの方を取り出す。

「結局こいつに分かったのは、転売される人気があるってことだけか。今までのことから、白波が持っているこのぬいぐるみが狙われる理由だと思ったのに。せっかく遠くまで来たのに、無駄足だった」

 烈達は家からサテライトショップまで電車で一時間ほどかけてきた。しかし、烈が得られたのは、ネットですぐ調べれば出てくる情報と疲労である。

「いいや、ちゃんと収穫があった」

「収穫なんてあったか?」

「都市伝説に関係しているって話を聞いたでしょ?」

「あー。でも、それがどうした? ただの偶然だろ? この都市伝説は泥棒の手口か、あるいは人ん家にぬいぐるみを置いて、相手が戸惑う様子を見て楽しむような奴が置いてるんだ。そんな奴がたまたま手元にあったものを使っているだけだろ」

「ボクはそう思わない。『ミラーメイツ』にはただでさえ購入条件があり、入手が難しい。そのぬいぐるみを、()()()()()()()()で使うとはちょっと考えにくい」

「何かしらの理由があるってことか?」

「うん。そして、その理由が、美月さんが狙われることに繋がっているはず。おそらくぬいぐるみ自身ではなく中身……。いや、今はここまでにしておこう」

 明里が途中で推測をやめたことに、烈は不満顔。

「またかよ。秘密主義は良くないぞ」

「ミステリアスな女の子は魅力的なんだよ」

「自分で言うことじゃねーな」

 なんか誤魔化された気がするが、まあいいや。

 現時点で明里は自身の考えを言うつもりはない。烈も無理に聞き出さない。必要な時になったら、彼女の方から説明してくれるはずだから。

「烈くん、そのぬいぐるみは君にあげるよ」

「遠慮しておく」

「そうつれないことを言うな。幼馴染からなんだ、受け取りなさい」

 烈はぬいぐるみを見つめる。可愛いとは思うが、もらってうれしいものでもない。

 ぬいぐるみは俺の趣味じゃないんだがな。お袋にでもあげるか。

「言っておくが、お義母さんとか、誰かにあげないように。君が持っていなさい」

「……へーい」

「烈くん。そのぬいぐるみは鑑賞するだけではなく、中にプレゼントを入れて交換するのが主な用途だ」

「ああ」

「お互いにプレゼント交換に使用する」

「二度も言わんでいい!」

 回りくどいが、要は何かプレゼントを寄越せと烈に言っているのだ。

「何か欲しいものでもあるのか?」

「具体的なものはない。君から貰えるものなら、なんでも。ただ強いて言うならば指輪だね。君から指輪を貰えたら、ボクは歓喜するだろう」

「リクエストあるんじゃねーかよ」

 明里の誕生日はまだ先だし、明里に関するお祝い事もない。何故プレゼントを要望するのかよく分からない。もしかしたら、『ミラーメイツ』のコンセプトを聞いて、プレゼント交換をしたくなったのかもしれない。

 なんだ、明里も女の子らしいところはあるんだな。

「まあ、考えておく」

「ふふ、楽しみにしているよ。今すぐでなくもいい。ボクは何年も待つから」

 明里は上機嫌な顔を浮かべると、烈の腕を自身の両手で抱え撓垂れ掛かる。

「ボクは疲れしまったよ。眠いから寝るね。駅に着いたら起こしてくれ」

 烈は抗議しようとしたが、明里の口から小さな寝息が漏れる。もう寝たようだ。烈は思わず苦笑い。

「相変わらず寝付きのいい奴だな」

 電車の揺れと耳元に聞こえる心地よい寝息に、烈も眠気を誘われる。寝過ごさないよう、目的の駅まで必死に睡魔に耐えた。

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