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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第2章 甘美な毒薬

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第5話

 週が明け月曜日に。

 今日も今日とて烈と明里は、放課後に美月と一緒に帰宅して送り届けることに。

「本当に月曜日って嫌だよね。もう名前を聞くだけで嫌。れっちんもそう思うでしょ?」

「ああ。俺も月曜日を憎んでいる。嫌いなものワーストテンに入るね」

「ねー。月曜日なんて消えてなくなれ!」

「コラコラ。二人とも。そこまで月曜日を貶すことはないだろう。可哀想だ」

 美月の言葉には烈も同意し、それを苦笑いで嗜める明里。

 生産性のない会話だ。だが、学生らしい会話でもある。

 こうやって帰り道になんの意味もない話で盛り上がる。これも青春の一つなのだろう。だが、烈はこの平和に甘えるわけにはいかない。

「白波、先週の土日は大丈夫だったか?」

「特に何もなかったよ。警察での手続きとかで色々大変だったから。それ以外は家から出てない。嫌がらせも泥棒の件以降起きてないよ」

 美月は平和な週末を送ったようだ。何よりである。立て続けに事件が起きたのだ、彼女がゆっくりできたのは烈にとっても喜ばしい。

「そうか。妹の方は大丈夫なのか?」

「水鏡?」

「ああ。一度白波と間違えられたし、妹も一緒に俺らと帰った方がいいんじゃないのか?」

 美月は複雑な顔で「うーん、どうだろ」と唸る。

「私も言ったんだけど、必要ないって断られちゃった。大勢で一緒に帰るは鬱陶しいから嫌だって。あの子、あまり人付き合い得意じゃないから」

 美月の言う通り、水鏡は真面目であるのだが、どこかとっつきにくいところがある。しかし、烈と明里は肯定も否定もしない。いくら姉の美月の言葉でも、安易に家族以外の人間が賛同することじゃない。

「そういえば、ツッキーの彼氏さんは水鏡さんにはプレゼントを渡さなかったのかい? 君がもらった『ミラーメイツ』は二つ一組のはずだが」

「ううん。私にしかくれなかったよ」

「なるほど、なるほど」

 明里のやつ、探りを入れてるな。

 朔夜や彼の行動が気になるらしい。その後も明里は朔夜について、どんな仕事をしているのか、普段は何をしているのかと質問を繰り返す。だが、返ってくる答えは「分かんない」など、「そこまでは知らないよ」である。どうやら朔夜は恋人である美月に対しても、どこか一線引いているようだ。自分は芸能事務所の社長と知り合いであるなどベラベラ喋るものだから、烈はてっきり自慢も兼ねて自分のことをよく話しているものだと思った。

 やっぱり、胡散臭いな。

 自分でも偏見だとは思うが、朔夜の年齢に見合わない羽振りの良さ。真っ当な商売をしているのかと、朔夜の人間性も相まって疑いたくなる。

 美月は質問に答えていたものの、突如目を鋭く細める。

「もしかして、あかりん……」

 美月の口から発せられた声は低い。まさか、自分達が朔夜に不信感を持っていることを気づかれたかと、烈は少し焦る。

「朔夜くんに惚れたんじゃないだろうね? ダメだからね! 彼は私のだからね!」

 どうやら、美月は明里が朔夜を掻っ攫うつもりなのだと勘違いしたようだ。

 明里は美月の杞憂を笑って否定。

「まさか。ボクはパートナーがいながら、他の異性に手を出すような節操のない人間じゃないよ」

 皮肉だよな。

 明里も烈と同様に朔夜に対して悪印象を抱いている。泥棒に入られた美月を余所に自分をナンパしてきたのだから、無理もないだろう。

 美月は「良かったあ!」と胸を撫で下ろす。

「そうだよね。あかりんにはれっちんがいるもんね」

「そうだ。ボクは一途で純粋な女の子なんだ。ツッキーの彼氏に靡くはずがないだろう」

 美月は安心したようだが、烈としては複雑な気分だ。

 本当にあんな軟派な奴がいいのか? なんか色々怪しいし、一度よく考えた方がいいんじゃないのか?

 そのような台詞が喉から出かかったが、なんとか飲み込む。

 烈が批判したところで、朔夜にベタ惚れしている今の美月は聞く耳を持たないだろう。烈達は朔夜の言動を怪しいと思っているが、彼が何か悪事を働いているという証拠があるわけじゃない。

 現状で朔夜に対する懸念を伝えても、美月はむしろ烈達に不信を募らせる。気分を害せば、自分の護衛はしなくてもいいと怒るかもしれない。

 当たり障りない会話を続けている内に、美月の家へと到着。美月は「また明日ね!」と、烈達に手を振りながら家の中へと入っていった。

「さて、美月さんのお見送りも終わったし、ボクらも帰ろうとしようか」

「ああ」

 帰り道、烈は「なあ、明里」と切り出す。

「これ、いつまで続くと思う?」

「美月さんの護衛かい? 警察が嫌がらせの首謀者を捕まえてくれるまでかな」

「そうなるよな」

「なんだい? 嫌になったのかい?」

「ちげえよ。だけど、俺も疲れてきてな」

 美月の護衛を開始して数週間経っている。その間に様々な事件が起こり、烈の警戒レベルも大幅に引き上げることになった。要は気疲れしてきたのだ。

「ボク達は犯人が捕まるまで、美月さんを可能な限り守り通すんだ。登下校と学校にいる間だけど、そこそこ抑止力にはなっているはずだよ」

「だといいんだがな……」

 美月には申し訳ないが、烈としては先週の泥棒騒ぎで嫌がらせ犯の目的が達成されていればいいと思う。美月がもう狙われることはないのだから。

 そんな願望を烈は抱いていた。

 だが、現実は単純なものではない。困難が続いたから次は平穏が訪れる、というわけではないのだ。

 平穏は意地悪で、困難はお節介だ。平穏は望まれても中々顔を見せないが、困難は来るなと言われても、勝手に向こうの方からしつこく付き纏ってくるのだ。

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