第3話
泥棒騒ぎからの数日間は、波風の無い穏やかな数日だった。泥棒が白波家に入ったことで、警察もこれは只事ではないと、白波家周辺の警備を強化してくれた。泥棒の行方は追っているが、未だに足取りは掴めていない。
烈が神谷に電話した際、「特別だよ」と少しだけ捜査の現状を教えてくれた。泥棒の件を捜査しているのは神谷とは別の刑事であるのだが、難航気味のようだ。泥棒の犯行は無駄がなく、短時間で金品を盗み出ていった。担当刑事曰く、まるで家の構造を知っていたかのようだと。おそらく、泥棒は事前に白波家の構造を把握していたとのこと。
水鏡を襲った暴漢についても、未だ居場所が特定できない。監視カメラから暴漢の身元は判明したものの、住んでいるアパートに事件後戻っていない。逃亡した可能性が高く、警察が広範囲に捜査網を敷き、捜索をしている。
烈と明里が犯人確保の報を待ちながら美月の護衛をしていたら、あっという間に週末になった。
そして、土曜日の今日。烈は明里と共にとある場所を訪れていた。
「ここが白波の言っていた店だな」
目の前にはあるのは、『ワンダーステッチ』と名前が書かれた店舗。数年前に都内で立ち上がったこのブランドは、製品に遊び心を組み込む独特のデザインが特徴であり、瞬く間に女子中高生に人気となった。全国にサテライトショップを展開中であり、この県でも数ヶ月前に開店した。休日ということもあってか、客の出入りが忙しない。
明里が「ちなみにだが」と唐突に切り出す。
「美月さんが水鏡さんとこの店に訪れた際、彼氏の朔夜さんとはここで出会ったそうだ」
「彼氏はこの店で働いていたのか? いや、自営業って言っていたな。どういう出会いをしたんだ?」
「ナンパ」
「は?」
「ナンパ」
「……まさか、この店で偶然出会って、ナンパされたから付き合ったのか?」
「付き合うまで少し時間をかけたそうだが、概ねその通りだね」
「マジかよ」
交際というと、ある程度お互いのことを知り、好意を抱いてから始めるものだと思っていた。ナンパをきっかけに交際関係になるなど、烈からすればノリが軽いと感じてしまう。
それとも烈がピュア過ぎるのだろうか。
「ナンパで付き合うとか、俺には考えられないな」
「まあまあ。出会いにも色々な形があるんだよ。ナンパだったり、家がお向かいだったり。外野が否定することじゃない。それでぬいぐるみについて事前に調べたんだが、このぬいぐるみはかなりの人気商品で、転売サイトで高額取引をされている」
明里は自分のスマートフォンを見せてきた。フリマサイトの画面には、ぬいぐるみの画像が並んでいる。ぬいぐるみにはいくつか種類があるみたいで、美月が持っていたぬいぐるみはクマだったが、他には猫や犬をモチーフにしたものがある。
サイトを眺めていると、写真のいくつかが烈の目に留まった。
「このぬいぐるみ、色違いのセットで売られているな」
単品で売られているものもあるのだが、同じデザインで色のみ異なる二個セットで売られているものもある。セットの場合は単純に二つだから二倍ではなく、値段が跳ね上がっている。
「なんでセットだとこんなに高いんだ?」
「ボクもざっと調べたんだが、二個揃えるのがかなり難しいみたいだ」
「ふーん。とにかく、このぬいぐるみは転売としてウマい商品ってことだな? 泥棒に盗まれたのはこれが原因か?」
「その可能性はないとは言い切れない」
以前から転売という行為は社会で問題視されている。簡単に金儲けをしようという輩が限定品や記念品を一部の人間が買い占め、本当に欲している人間が買えないのだ。最近は拍車がかかり、カードショップなどから高額な商品を盗み、盗品を転売するとんでもない人間も出始めている。
人の困っている心理に漬け込むような金儲けの仕方は、烈も嫌いだ。ましてや、人の大事なものを奪って盗むなど。
「まあ、店の外で話してもなんなんだ。そろそろ店に入ろう」
「そうだな」
烈は明里と共に店内へ。
内装は中々オシャレであり、雰囲気作りを大事にしている店のようだ。店内には小物やぬいぐるみだけではなく、衣服も置いてある。
中にいた客は女性がほとんど。彼女達は商品を手にして、はしゃいでいる。男性の姿も見えるが、女性ほど楽しんでいる様子はない。大方恋人の付き添いか、もしくは娘に商品の購入を頼まれて仕方なく来店したのだろう。男性客と女性客の間には明らかな温度差があった。
烈は明里の様子を見てみる。ひょっとすると明里も商品に目を輝かせるのかと思ったが、特に興味はなさそうだ。やはり、この幼馴染は一般的な女子高生像からずれている。
「明里。店に入ったのはいいが、具体的にはどうするんだ? ただ商品を眺めているだけでは何も得られないぞ」
「店員に話を聞こうと思う。店員なら、単なる商品以上の情報も知っているかもしれない。ただ、誰でも良い訳じゃないよ。店員を選ぶ必要がある。具体的には、ベラベラと余計なことまで話す軽薄そうな店員を探すんだ」
「なんつー条件だ……」
そんな店員いるのかと店内を見渡す。
いた。すぐ見つけた。
「えー、私みたいな年齢に似合うかしら? もう少し若い子の方がいいんじゃない?」
「マジマジ。よく似合いますよ。年齢なんて気にしちゃいけないっすよ。むしろ若者向けの服を着ることで、自分も雰囲気が若くなるというかー」
二十代後半ぐらいの女性客と若い女性店員が会話中。商品を売り込もうとしているのか、店員は似合う似合うとおべっかを使っている。だが、いくらセールストークといっても、接客で使う言葉遣いではない。
エプロンの胸元には『根岸』と名札が張っており、その下にはアルバイトと記載されている。
「ほう。彼女か。確かにあの店員なら色々と喋ってくれそうだ」
明里も烈と同じ店員に目をつけたようであり、根岸が客の対応が終えると話しかける。
「あのー、すいません。あのぬいぐるみについて、ちょっと話を伺いたいのですが」
ぬいぐるみが並べられた棚を指差す明里。
根岸は烈と明里を見比べる。
「君達、双子の兄妹?」




