第14話
深夜、とある町外れの廃工場。
バブル時代に自治体に誘致され建てられたこの工場は、バブル崩壊以降の不景の波に押されてあっけなく潰れた。買い手は現れず、取り壊し費用もかかることから長年放置されている。外壁はボロボロに剥がれ落ち、スプレーによる落書きがそこかしこに。窓ガラスの多くは破られ、置き去りにされた機械は茶色く度ついている。
工場は近づき難い雰囲気を発しており、そして、このような場は人目を避けたい人間達の絶好の溜まり場となる。
「や、やめてくれえ!」
廃工場に男性の悲痛な叫び声が響き渡る。声の主は、今日の日中に水鏡を襲っていた暴漢の男。男を複数人の若い男女が取り囲み、殴る蹴るの暴行をひたすら加えている。
「お前ら、下がってろ」
とある一人の男がそう指示すると、リンチしていた若者達は手を止める。男はこの若者グループのリーダーである。リーダーは金属バットを肩に担いだまま、暴漢の男の前で腰を下ろした。
「なあ、寺島……」
暴漢の男、寺島は地面に踞ったまま、怯えた目でリーダーを見上げる。
「アレ、欲しいか? 欲しいよな?」
アレというものは、寺島にとって一つしかない。寺島は痛みを堪えながら正座の態勢へ。首を縦に振る。
「そうだよな。アレがないと辛いよな。今すぐ必要だよな?」
寺島は首をもう一度縦に振る。先ほどよりも激しく。
「だが、お前は購入するための金がない。だから、交換条件として依頼する仕事を達成すれば、アレを報酬とするって話だったよな?」
今度の寺島は、弱々しく頷いた。
リーダーは目を吊り上げる。
「だったらよ……ヘマこいてんじゃねーよ!」
リーダーは立ち上がり、金属バットを寺島の頭目掛けて横に振るう。ゴンという鈍い音が工場内に鳴り響き、寺島は地面に倒れた。寺島は激痛に泣きながらひたすら謝罪するも、リーダーはバットを振り続ける。
「せっかく、チャンスを、やったのに、失敗、しやがって! しかも、サツも、出てきやがった!」
リーダーは何度も何度もバットを寺島に向かって振り下ろす。寺島は痛々しい悲鳴を上げ、その様子を周りの若者達は嘲笑していた。まるで壊れかけで奇妙な音を奏でる玩具を眺めているかのように。
リーダーが十回目の振り下ろしをした時、寺島の頭部に勢いよく命中。寺島は悲鳴を漏らすことすらせず、地面に這いつくばる。瞳孔は完全に開いており、ぴくりとも動かない。
「あー、死んじまったか。お前らはそれをてきとうに片付けておけ」
寺島の死体処理を命じられても、若者達は「ういーす」と軽い返事。慣れているのだ。人間の死も、死を隠すことも。
リーダーは「おい!」と、とある人物を怒鳴りつけた。リーダーから鋭い目を向けられたのは、一人の若い男。男はびくりと肩を振るわせ、恐る恐るリーダーと目を合わせる。
「な、なんでしょうか?」
「なんでしょう、じゃねんだよ。今回のことは、お前がそもそもの発端だろ。例のものをなんとしてでも取り返してこい! もし、取り返せなかったら、お前もあれと同じになるぞ」
リーダーはバットの先を、仲間達が運んでいる寺島の遺体に向ける。殺すと言っているのだ。
「どちらにしろ、警察の手に渡ったら俺達は破滅だ。今から取り戻しに行ってこい。分かったな!」
「は、はい!」
男はもつれさせながら立ち上がり、工場の外へと走っていった。




