第5話
烈達は美月の家までの道中、適当に会話をしながら歩く。
「れっちんとあかりんは部活とか入ってないの?」
「俺は入っていない。中学ん時は柔道部に入ってた。全員部活に強制入部だったから」
「柔道の帯って、色が何色かあるんでしょ。れっちんは何色だった?」
「黒」
「黒ってすごいの?」
「持っていれば、色々な場面で評価されるな」
「ほほう。高校では柔道やらないの?」
「高校でもと思っていたけど、うちの高校にはなくてな。他に入りたいものもないし、一年の頃からずっと帰宅部」
「ボクも同じようなもの。中学時代は文学美少女だったが、高校に文学部はなかった。未解決事件捜査部とかあったら、すぐに入るんだけどねえ」
「あはは、何それー」
「ツッキーはどうなんだい?」
「私はダンス部入ってるよ。今日はお休み。ここ最近は週二、三回の頻度でやってる」
清稜高校の生徒に大きなショックを与えた青薔薇の貴公子事件は、今も尾を引いている。精神的な問題から未だに自宅に引き篭っていたり、保健室登校をしている生徒が少なからずいる。一方で午後の授業や休止していた部活動が再開し始め、学校はなんとか立ち直ろうとしている最中。美月が入っているダンス部も少しずつ活動を増やしているようだ。
明里と美月は二人並んで歩き、その少し後ろを烈がついていく。烈は常に視線を巡らせ、周囲を警戒する。
数々の事件事故に巻き込まれる烈は、経験を得て幾つか身につけたものがある。
その一つが、怪しい人間を見分けることだ。
……いた。
烈達の進路上、バイクを路肩に停めて跨ったままの一人のライダー。フルフェイスのヘルメットに、黒のライダースーツを着ている。格好のせいで判別しづらいが、体格からして男だ。一見、小休憩をしているだけに思えるが、おかしな点がある。
バイクの後方についているナンバープレートが跳ね上げられており、更にご丁寧にガムテープでマスキングされている。ナンバープレートを隠すのは、何かやましいことがある人間だけ。
さらにライダーの首が少し左に向けられており、サイドミラーで後ろの様子を窺っている。
ライダーに近づくにつれて、烈の警戒度は増していく。
ガードレールを挟んで烈達が横を通り抜ける瞬間、ライダーのヘルメットが傾いた。濃い色のバイザーの奥にある眼は、明らかに美月を見ている。
烈は咄嗟に顔をライダーの方に向けて凝視。
犯罪者は注目されることを嫌がる。お前を見ているぞとアピールすれば、それだけで大抵は行動を中止する。
烈からいきなり見つめられたライダーは烈の視線から逃げるように正面を向き、慌ただしい動作でエンジンをかけようとする。しかし、うまくかからず何度もエンスト。ようやくエンジンがかかり、信号を無視して走り去っていった。
この慌て様、どうやら相手はかなりの小心者のようだ。
その後も烈は怪しい人間がいないか見張りながら、美月を家まで送り届けた。
「いやー、お見送りありがとね。誰かと一緒にいるっていうのは、安心感があるね。今日は特になにも起きなかったけど、明日もよろしくね」
バイバイと烈達に手を振りながら、家の中へと消えていく美月。玄関の扉が閉まるまで見届けた烈達は自分の家に帰ることに。
「ツッキー、白波さんが狙われているのは本当だったね」
「なんだ、お前も気づいていたのか? あのライダーに」
「そりゃあ、露骨に怪しかったんだ、気づくさ」
「なあ、なんで白波は狙われていると思う?」
「ボクも現状は分からない。ただ、相手は四六時中白波さんを監視しているようだ。注意しないといけない」
「ああ、そうだな」
烈は静かに頷く。
相手の正体と目的が不気味だが、一度護衛を引き受けた以上、やるしかないのだ。




