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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
最終章

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最終話

「ここだな」

 ある土曜日の早朝、烈は明里と共に公営墓地に来ていた。二人の目的は、萌絵の墓参りと事件の報告である。

 逢蕾花が逮捕されてから、墓参りに来るまで一週間ほど期間が空いてしまった。

 この一週間は烈達を含めた大勢の人間にとって、まさに激動の日々。

 逢蕾花を気絶させた後、烈達は警察に通報すると共に、学校に事情を説明。春野校長達は理解が追いつかず、警察が到着するまで呆然と固まっていた。駆けつけた警察の中には神谷と三浦がおり、烈達から逢蕾花が青薔薇の貴公子だと説明されても、中々信じず。二人がかき集めた証拠を目にして、ようやく納得。警察も被害者が全員女性であることや、世間の呼び方に引っ張られ、犯人は男性だと思い込んでいたようだ。

 逢蕾花逮捕の情報は瞬く間にメディアや世間を駆け巡り、その日のテレビ局達はこぞって特番を組んだ。翌日以降もの話題で持ちきり。被害者の遺族が、しかも当時中学生だった女性が青薔薇の貴公子だと判明したのだから、センセーショナルに報じるのも当然。

 逢蕾花は取り調べに素直に応じており、事件一つ一つの詳細を話している。自身が犯した罪を自覚し反省している、というわけではない。

「私の考えを世間の皆に知ってほしいんです。他の人が私の考えを理解して、新しい青薔薇の貴公子となってくれるように。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私は少し休ませてもらおうかしら」

 そう話す逢蕾花の姿は清々しいもの。取り調べを担当したベテラン刑事はこのような犯人は初めてだと、気味悪がっていたそうだ。

 逢蕾花は大勢の人間を殺害しており、おそらく死刑は免れない。逢蕾花もそのことを自覚しており、他の誰からに跡を託そうと考えているのだろう。

 自分の末路に納得しているかもしれないが、彼女の周りは生活が激変し、苦しい思いをしている。

 逢蕾花の親戚のもとにはマスコミが殺到し、取材を試みている。苛烈な取材攻勢によるメディアスクラムが発生し、どの親族もまともな生活を送れないようだ。

 記者の中には実父の居場所を見つけ突撃した猛者もおり、実父は「うるせー、離婚したから俺には関係ねえ!」と取材陣に暴力を振るい、逮捕。その際は実父のせいで歪んでしまうのも仕方ないと、逢蕾花を擁護する声も少ないながらあった。

 逮捕の影響を受けたのは、親族以外もだ。

 逢蕾花が通っていた大学は記者会見の場に強引に引き摺り出され、記者達から相当なバッシングを受けた。連続殺人鬼を教育実習生として、高校に送り込んだ、と。烈も会見をテレビ中継で見ていたが、言いがかりにも近い記者からの質問に対し、涙ながらに頭を下げる大学学長の姿には、流石に同情を禁じ得なかった。

 一方の、烈の高校に対するマスコミ達の対応はというと、大学とは打って変わってかなり好意的である。

 烈達の氏名など詳細は伏せられたものの、萌絵の同級生が逢蕾花を青薔薇の貴公子と見抜き捕まえたという情報が、警察関係者からリークされたからだ。友の仇を討つというは、日本人好みのストーリー。マスコミは批判よりも敵討ちの美談を流すことの方が、世間に受けると計算したのだろう。

 烈は事情聴取で警察署を訪れた際、神谷に誰かリークしたのかと聞いた。神谷は「さあ、分からないな」と笑っていた。肯定も否定もしなかったが、烈は神谷がリークしたと思っている。きっと春野校長がこれ以上批判の矢面に立たないよう、マスコミの反応を予想して流したのだ。それに烈達を守る意味もあったのだろう。学校内で逮捕されたという情報だけではマスコミや世間は好奇心の飢えを満たせず、独自に調査をする可能性が高い。そうなれば、烈達へとたどり着き、色々と面倒なことになったはずだ。

 烈達は墓石の間を歩き、ようやく萌絵の墓を見つけた。

 大理石で作られた、白くて立派な墓。真新しい墓は掃除の必要はなかったが、せめて草むしりはしようと周りに生えた雑草を毟る。ある程度整備した後、線香を供えた。

 烈は手を合わせてから、墓石に優しく語りかける。

「なあ、花咲。お前の命を奪った奴、俺達が捕まえたぜ。ついで一発、殴っておいた。お前の代わりだ。これでお前の気も少しは晴れたよな?」

 長々と話しかけても、墓石からの返答はなし。その寂しい事実に、烈は虚しさを感じる。

「烈くんはボクが幸せにする。そして、幸せにしてもらう。だから、花咲さんは安心して天国で過ごすといい」

 烈は何を言っているだと疑問に思ったものの、スルーした。墓前で騒ぐのは、褒められた行為ではない。もっとも萌絵ならば、烈達の(たわむ)れる様子を笑って見ているかもしれないが。

「じゃあ、俺達、そろそろ行くよ。お盆の時とかにまた来る」

 烈達は萌絵に別れを告げ、バス停で帰りのバスに乗り込んだ。まだ午前中の早い時間帯ということもあり、乗客は烈と明里の二人のみ。並んで席に座っていると、明里が「……なあ、烈くん」と話しかけてきた。

「なんだ?」

「君は花咲さんのことが好きだったのか?」

「それはどういう意味だ?」

()()()()()いう意味だ」

 烈は自身の胸の内に聞いてみる。答えはすぐに返ってきた。

「あいつに恋愛感情を持ったことはない。ただ、友人としては好きだ。あいつと冗談を言って(じゃ)れ合うのは楽しかった。今思えば、学校行って花咲と会うことを、楽しみの一つにしていたな。だから、あいつのために、あいつの仇を取るために犯人探しをした」

 烈の回答に、明里は微笑む。

「ボクもだよ。花咲さんは周りの人間を笑顔にする、魅力的な女の子だったね。この先も生きていれば、きっと魅力に磨きがかかり、たくさんの友人を作って、素晴らしい男性と結婚して、温かい家庭を作っただろうね。それ故に、実に()()だ」

 そう、残念である。

 人生は清く正しく生きていれば、平和で穏当な生活を送れるとは限らない。他者の身勝手な欲望、妄想で簡単に破壊されてしまう。萌絵の事件がまさにそれだ。逢蕾花の独りよがりの妄想によって萌絵が歩んだであろう、楽しい未来は閉ざされてしまった。ただ生きているだけなのに、大事なものを奪われてしまう。それが社会の理不尽さ。

 だから、烈は事件事故が嫌いだ。人を不幸にする事件事故が。

 しかし、事件に巻き込まれるという自身の体質に関しては、うんざりとしているが、()()()()()()()()()

 事件に遭遇するということは、裏を返せば当事者の一人として、被害者を助けることができるのだから。

 それが萌絵の言っていた、烈の優しいところなのだろう。

「そうそう、烈くん。君と一緒に捜査したい事件があってね。知っているかい? 最近、巷では不幸なヌイグルミという都市伝説が囁かれているんだ。君とボクで解き明かそうじゃないか」

「……勘弁してくれ。マジで。俺は普通に平和に暮らしたいんだ」

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