156話 ー提案ー
「私たちを王都に連れて行ってください、の間違いだろ?」
「いえ間違っていません、この子だけです」
真っ直ぐに見据える。
「子供一人を王都に連れて行ってどうなると思っているんだ」
「この子を養子にしてもらえませんか?」
何を言っているんだこいつは。
「意味が分からない」
「この子は、スイセイは冒険者とか傭兵の才能があると思うんです。大きくなったらそういう仕事をして御恩はお返ししますので、どうか考えてもらえないでしょうか」
「王都で冒険者にさせたいならあなたが一緒に来てそうさせればいい」
「それはできないんです」
「できない理由があるのか?」
「あります」
だったら最初にそれを言えよこの野郎。やばい、なんだかイライラしてきた。落ち着け、落ち着くんだサブレ。好青年に見せて悪意を買わないようにするんだ。ほらいまもずっとあの鮫の目が見ているぞ。
「まずはお金の問題です。さっきも言ったように私たちは亡き父が残してくれたお金で生活していますが、残っている金額はもうそれほどないんです。王都でまっとうに生活していこうとするならばまず最初に王都の都民であるための許可証のようなものを買わなければいけないと聞きました」
「それは………そうだ」
今まで気にしたことはなかったが知っている。そうでなくては誰も彼もが王都に住みたがるから街がパンクしてしまう。ただでさえ住む場所は限られているのでそうやって簡単には移住できないようにしているんだ。
「私が話に聞いたその金額はかなりのものなので、私とスイセイの二人分のお金を払うことがまずできないんです。だから私はこの村に残ります、私が王都に行ったとしても多分体調が悪くて寝ていることしかできないと思います。それだったらスイセイの助けになるようなお金の使い方をしたいんです」
「まあ話としては理解できる」
「本当ですか!」
「けど俺にそのつもりはない」
「どうしてですか?身分の高い方が養子をとられるということはよくあることだと思いますが」
「俺は結婚もしていないんだぞ、それなのに養子だけはいるというのはおかしいだろ。大体にして今までのは全部あなたの意見だ。本人はどうなんだ?いきなりひとりで王都に行って知らないやつの子供になれと言われても、理解できるはずないだろう」
「私が教えます。それがこの子のためだと私は思っているんです、この子もきっとわかってくれるはずです」
「そうは思えない」
一言もしゃべってないし。
「めったに喋らないんですけど頭のいい子なんです。それに優しい子なのできっとわかってくれるはずです」
違う。親というのは自分の子供のことを実像以上に素晴らしいものだと思い込んでやたらと褒める生き物なんだよ。それについては経験済みだから間違いない。
「とりあえずそれは一旦置いておいてさっきあなたはスイセイが冒険者か傭兵に向いていると言っていたがそれはどういうことなんだ?普通に考えれば戦闘能力に優れているやつが目指す仕事なんだが。今現時点でそれだけの力を持っているということか?」
ここが重要。
「そうなんです。この子はこんなに小さな体なのに大人の男の人を簡単に倒してしまうくらいの力を持っています。きっと神様がこの厳しい世界を生き抜くために与えてくださった力に違いないと私は思っています。そうだ、そうですよね。最初に見て頂けばよかったです。そうすれば私がただ無茶なことを言っているだけじゃないということが分かっていただけると思います」
「是非見てみたいな。もしそれが本当であればさっきの話についても考える余地が出てくる」
「本当ですか!わかりました。スイセイあれをやってみて」
アカリが娘に向き合っていった。柔らかい笑顔ではあるがそこには緊張感があるような気がする。
「………………」
「今だけはやっても大丈夫よ」
「………」
「本当よ」
どうやら会話をしているらしいが、俺の耳にはスイセイの声は全く聞こえていない。一体どうなってるんだ?親子間だけで使えるテレパシーか?
スイセイは立ち上がった。
俺が見て大したことがないと判断すれば終わりだぞ。この少女が力を持っている、もしそれがただの親の贔屓目であるならばお前たちに用は無い。さっさとこの話は終わらせて明日に備えるだけだ。この旅の間中、新しいことを試していたがまだ全く完璧じゃないんだから無駄なことをやってる時間は無い。
俺がここまでお前たちの話に付き合っているのは恐怖故。俺の勘が本当に正しいのか教えてくれ。ここからの数分間はお前たち親子の行く末を決める数分間だぞ。
その目が本物かどうか見せてみろ。
力を示せ。
鮫。
スイセイは親指と人差し指を立てて俺に向けた。
これは………まさか。
爆発。




