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155話

 


「実はこの子、スイセイを私が身籠ったのは空から流れ星が落ちてきたからなんです」


 突然入ってきた女ことアカリが言った。


「話が全くわからないんだが」


「すいません、私人に説明するのがあまり上手じゃなくて」


「ゆっくりでいいんだ、お茶でも飲みながら気軽に話してくれ。粗茶だけどな」


「ありがとうございます」


 そう言ってアカリはお茶を口に含んだ。


「この村の人ならだれでも知っていることなんですけど、数年前から私はずっと体調がよくなくてその日も朝からずっとお腹が痛くて起きあがることができずに一日中横になっていたんです。昼間に眠ってしまったこともあって夜になっても少しも眠くならなくて、でもお腹は痛くて苦しんでいたときに突然ものすごい音がして目の前が真っ白になりました。私が次に目を覚ましたのはその3日後のことでした。相変わらずお腹は痛いんですけど、今までと違って温かいものを感じたんです」


「それで妊娠を?」


「はい………」


 荒唐無稽すぎて全く信じられない話だ。


「信じられないのは分かります。というか私も最初は信じられませんでした。だって私がその時に感じたのは一瞬の光と音だけだったんですから」


「ということは他に見ていた人間がいたということか」


「そうなんです。その時たまたま外で星空を眺めてたアイとモリスのふたりが流れ星が落ちてくるのを見ていたんです。最初はきれいだと思っていたそうなんですが、ふつうすぐに消えてしまうの流れ星がずっとながれたままで、おかしいなと思っていたらどんどんどんどん大きくなっていって慌てて逃げた、って言っていました」


「なるほど」


「あの、うちの村には何もないのでカップルがデートをするとなると星を見ることくらいしかすることがないんです」


「村のデート事情は教えてくれなくても大丈夫だ」


「あ、すいません。それで家の屋根にもものすごく大きな穴が開いていて。でも家の中には何もなかったんです」


「上から何かが落ちてきたのであれば普通は何かが残っているはずだ、ということか」


「そうです。それに穴の真下にいた私自身も、どこにも怪我をしていたりはしていなかったんです。あとこれは言うのが恥ずかしいんですが………私はいまは恋人がいないので妊娠するようなことはなかったんです。昔はいましたよ、昔は。今はたまたまいないと言うだけで。どこかにいい人がいればいいなとは思っていますけど」


 最後のほうのは別に要らない情報だな。


「それで「神様の子」か………」


「教会の人に言ったら怒られるかもしれないですけど、私はそう思っています。だって流れ星に乗ってやって来るなんて神様の子供としか思えなくて」


 ありえない。一番最初に頭に浮かんだのがその言葉。


 けれどそれは地球にいた時の感覚をもとにした考え方。そんなことを言っていたら魔法を始めとしてこの世界はあり得ないことばかりが普通に起こっているし、俺自身も起こしている。過去の常識は捨てる必要がある。


 見られている。


 鮫の目。


 まずはこの女、アカリの言うことを真実だと仮定することから始めよう。信用してもとりあえず俺がなにかを損するということはない。


「教会の連中には言わない方がいいだろうな」


「やっぱりそうですか」


「面倒ごとが起きる予感しかしないな。それよりもアカリさん、あなたはそうやって生んだこの子をずっと育ててきたんだな」


「はい、最初は戸惑いました。だんだんお腹が大きくなっていって、妊娠しているって言われて。すごく不安で怖かったです」


 俺のことをじっと見ているスイセイの頭を撫でた。


「けど時間がたつにつれて、不安さの中に嬉しさとか愛おしさが生まれてきた来たんです」


「ずいぶんと体調が悪そうだがよくひとりで育てられたな」


 アカリは顔色が悪く脂汗をかいている。さっきの話では妊娠する前から体調が悪かったという話だが、日がたっても改善はしていないようだ。


「ひとりじゃありません。去年亡くなりましたが母が一緒に育ててくれました。父が残してくれたお金のおかげで、働きに出なくても生きていくことができました。父にも母にも本当に感謝しています」


「それで、あんたは俺に何を望むんだ?」


 事情はある程度理解できたが、その点については何も言っていない。頼むから面倒くさいことを言うなよ。


「この子を王都に連れて行ってほしいんです」


 面倒くさいことだった。



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