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154話 -目-

 



「どうしたんだアカリ!ノックもせずいきなり入ってきて」


 村長が目を丸くして言った。怒っているというよりは驚いていると言った感じだ。


「村長さんごめんなさい。ただ王都からすごく偉い方が来ていると聞いていてもたってもいられなくなって」


 突然入ってきた女が言った。


「いまは大事な話をしているんだから後にしなさい」


「後では駄目なんです。私には時間がないんです」


 女の髪の毛はぐっしょりと濡れているし汗をかいている、顔色も悪い。どうやら病気というのは医者でなくても分かる。村長も顔から後頭部まで脂汗でピカッているがこれはただの緊張からくるもので不健康さは無い。というか脂で顔がテカっているいる男は、なぜ性欲が強そうに見えるんだろう。


「これもあんたのせいなのか?」


 Aランク冒険者クロギンウのリーダーのヒガロが聞いてくる。


「なにか事件が起きたとしてもそれは俺のせいじゃなくて、この呪われた魔道具のせいだ。そこは勘違いしないでくれ」


「あんたがつけているんだから同じじゃないか」


「全然違うぞ」


 俺はあくまでも被害者だ。


「聞いてください!」


 女が俺をまっすぐに見据えていった。


「なんだ?」


「実はどうしてもお願いしたいことがあって」


「それはできない」


「そんな話くらい聞いてくれても」


「俺たちが王都からわざわざここまで来たのは仕事を依頼されたからだ。各地の困りごとを解決するためじゃない。自分のことは自分で解決するか、神様にでも祈るんだな」


「スイセイ、こっちに来て」


 女は俺の言ったことなんかお構いなしとばかりに振り返って声を掛けた。ドアの向こうの外に向かってだ。


 目だ。


 何も言わずに入ってきた青いぱっつん髪の少女の目に既視感を覚えた。


「鮫の目だ………」


 鳥肌が立った。


 戸惑っているようには見えない。まるで心ここに在らずのような顔でトコトコ入ってきた少女は、女の横まで来て立ち止まった。


「実はこの子、神様の子供なんです!」


 嗚呼。


 始まった。


 ドクロの指輪を見る。物語を起こす、この呪われた魔道具ホープが言っていたことあの時の声が脳内で再生される。でまかせとは違う確かな質量を伴った声。


 けれど「物語」が来るのはもう少しだけ時間があると思い込んでいた。やはり神様というやつは性格が悪い。


 これは神の試練、だ。


 この仕事が普通に終わるわけがないというのは分かっていた。逃げ道のない仕組まれたこの状況はいかにも神の試練だ。


 だからこそ必要以上の戦力であるAランク冒険を護衛として雇った。適正と言われるCランク冒険者のベテランなんかを連れてきたら俺はとんでもない苦労をしていたことだろう。それこそ夜も眠れないくらいに無限に湧き出る魔物と戦う羽目になっていたはずだ。


 クロギンウのやつらはいつもとは比べ物にならないくらいに敵が多いと文句を言っていたが「試練」がその程度で済まされるはずがない。神がそんなに優しい存在であるはずがないんだ。


 けれど、とんでもないことが起きるのは物語の最終地点、リシュリーがいる場所だと思っていた。それなのにまさかその手前で試練が訪れるとは思わなかった。


「話を聞かせてもらおう」


 え!?っという感じでその場にいる少女以外の全員の視線が自分に突き刺さるのを感じた。


 体が熱い。


 しょうがないだろ、分かってしまったんだよ。これは雑に片づけてしまっていい案件じゃないということが。ここで対応の仕方を間違えると後々に因縁となって俺に襲い掛かって来るという、重要な分岐点なんだ。


「ほら、立ってないで座ってくれ。体調が悪いんだろう?」


「いいんですか?」


「もちろんだ。村長!!」


「パッパイヤ!」


 驚いた村長が飛び上がった。ちょっと大きな声を出したくらいで大げさだぞ。けど今はそんなことに構っている場合じゃない。


「こんな固い床に病人を座らせるつもりか!座布団的なものを持ってこい、座布団的なものを!」


「は、はい!」


「すまないな、気の利かない村長で」


「え、あ、はい………」


「村長!さっさとしろ!」


「はひっ!」


 部屋の中をうろうろ探してしていた村長だが小さく飛び上がって隣の部屋へと小走りで向かって言った。


「全く座布団がどこにあるくらいは把握しておけよ、自分の家なんだから。使えないやつだな、あんな奴が村長で大丈夫なのか心配になるぞ。大丈夫か、辛かったら布団を用意させるぞ」


「いえ、大丈夫です」


「気を使わないで正直に言ってくれよ」


「ありがとうございます」


 女は戸惑っている。ええい、みんなしてそんな目で俺を見るな。自分でも分かっているんだよ突然態度が急変したってことくらいはな。けどそれどころじゃないんだ。


「俺の名前はサブレだ」


「あ、私はアカリといいます。この子はスイセイです」


「のろまな村長が戻ってきたらちゃんと話を聞かせてもらうから少し待ってくれ」


「ありがとうございます。本当にすいません、急に押しかけてきてしまって。大事な話をしているというのは分かっていたんですけど、いてもたってもいられなくて。これは私たち親子にとって本当に大事な問題で、こんな時に王都から偉いかたがこられているなんて、神様が与えてくださった奇跡に違いないと思ったらすぐに行動しないといけない、と思ったんです」


「神………」


 やはり神の試練だ。


 スイセイがじっと俺を見ている。一度も瞬きをしていないんじゃないかと思う位に見ている。俺の心の中を覗こうとしているのか?


「どうかしましたか?」


「いやいやなんでもないから気にしないでくれ。それにしてもまったく何をしているんだ村長の野郎は。座布団ひとつでどれだけ時間がかかっているんだ、まったく」


「あの、仕方ないと思います。この村はそれほどお客さんがたくさん来るようなところでもないので、他のお家から借りに行ったのかもしれません」


「なるほど………」


 あの目、ウミカと同じ目。


 鮫の目だ。


 ビリビリ感じる緊張感とスリル。まるで重要な試験に準備万端で臨むときの興奮だ。気を引き締めてかかれよサブレ。ここは間違いなく勝負所だぞ。下手に出る必要はないが邪険にはするなよ、誠実な対応を心掛けるんだ。


 わかってるんだろサブレ。


 あれは将来、お前を殺すかもしれないやつの目だ。


 そしてこの女。


 間違いなくこの女がキーポイントだ。


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