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153話 -お願い-

 


「あの町にはいかない方がいいと思います」


 村長が言った。


「それはなぜだ?」


 ここはリシュリーが向かったとされるアウトラインという町の一つ手前にある村。食料と飲み水を確保するしてここで一泊するためにやってきた。ただ思っていたよりも村の規模が小さすぎて、村に1つしかない店では十分なものを手に入れられることができなかったため村長に会いにやってきたのだ。


 野菜。とにかく新鮮な野菜が欲しい。保存食は十分にあるので食べるだけなら困らないがそれだけだと味に深みが出ない。しかも魔獣の死体ばかりを毎日のように見ているので肉よりもむしろ野菜が欲しくなる。


 だから野菜。野菜野菜野菜、だ。だからといって無理やり奪うなんてことをするつもりはもちろんない。駄目だったら諦めるつもりだったが案外簡単に手に入った。


 言われた値段よりも高く買うと言ったからというのもあるだろう。十分な量が手に入ったので満足だ。野菜の値段なんかたかが知れているからマフィアからぶんどった金のことを考えればこんなところで金をケチる必要は全くない。しかも手土産として渡したワインで村民たちの俺たちに対する好感度はかなり高い。


 しかし問題。


 俺たちがアウトラインという町に行くつもりだと言ったら村長の顔色が変わった。


「なんといいましょうか………」


 村長が汗をぬぐう。


 今回の旅は国からの仕事ということになっているので旅の間に起こるであろう厄介ごとを解決するために特別な証文を与えられている。


 これがある限りよほどの権力を持った貴族じゃない限りは俺たちの歩みを止めることができないという、印籠みたいなもの。村長はこれを見せた時から脂汗をかき始めて顔がテカテカになっている。


「あの町は変わった」


「あんたは?」


「村長の娘のアケミ」


「そうか。それじゃあ代わりに話してくれ、何が変わったんだ?」


 教えてくれるならだれでもいい。さっさと喋れ!と思わず恫喝してしまいそうだったのでむしろありがたい。


「前は普通だったんだけどいつの間にか「神」と名乗る者が現れて」


「神?」


「私が仲の良くしてたレノっていう踊り子の娘がいるんだけど、この前久しぶりに会ったら感情が無くなったみたいな顔をしてて話が全然かみ合わなかったんだ。それなのに向こうの村に来て「神」の話を聞くべきだからすぐに来い、みたいなことばっかり何回も言って」


 嫌な予感がする。


「もちろん私たちも向こうの言っていることがプーチャル教の教義と違うことは分かっています。ですから何度も村人には言ってはならないと言っているんですが話を聞くだけで酒やらなにやらをもらえるそうなんです。しかも言ったものは戻ってきません。私が話をしに行ったんですが何も見ていないような目でその神への忠誠を繰り返すのです」


 そういうことか、いま村長がなぜそんなに言いにくそうにしていたのかが分かった。


「俺はプーチャル教にそこまで熱心ではないから王都に帰ったときに自分から異教徒の村だなんてことを言いふらしたりはしないから心配ないぞ」


「そ、そうですか。ありがとうございます」


 はっきりとわかりやすく村長が安堵の表情を浮かべた。この世界で宗教と言ったらプーチャル教、それくらいに力が強い。これくらいの小さな村であればその力に怯えるのも無理はない。


「ケイちゃんはこの村に残して行こうと思う」


 俺は後ろの向かって言った。


「え!?どうして」


「多分そのほうが安全だと思う」


「どういうことだ?」


 クロギンウのリーダーのヒガロが聞いてきた。村長に話を聞くくらいは別に一人でもいいのだが、娯楽が無いくらい小さい村なので他にやることがないからついてきたのだ。


「目的の町、リシュリーがいるところでは間違いなく厄介事が起きるだろう」


 俺はドクロの魔道具を見た。


「それのせいでか?」


「まあ多分」


 物語を起こさせるというわけのわからない力をもつホープ。一番ありがちな展開じゃないか。道中は普通じゃないほど魔物に襲われて最後の村では大ボスが待っている。王道は驚きこそないかもしれないが確かな満足感をもたらさせてくれる。


「けど約束ではこの度の間中ずっと料理を作るっていうことだったんだけど、それはいいの」


「こっちの希望でその通りにするんだから契約としては問題ないよ」


「そうなんだ………けど」


 この村には何もない。


「退屈だけど向こうに行ったら多分危険だと思う。もしかしたら死ぬかもしれないし」


「じゃあ絶対行かない!」


 力強い決心。よかったよかった、旅の間一緒にいたムードメーカーの女が殺され、その怒りによって覚醒した主人公が………とかの展開にはこれでならないようになってほしい。


「俺たちは?」


「何を馬鹿なことを、一緒に行くにきまってるだろ」


「やっぱりか」


「危険だとわかってて突っ込んでいくのかよ」


「うーん」


「やだな」


「しょうがないね」


 口々にお気持ちを表明し始めたクロギンウのメンバー。


「そういう仕事だろ」


 溜息、顔を横に振る一同。


 何のためにいるんだよお前らは当たり前だろ。戦闘職についている男がやられるのは物語としては仕方ない。というかむしろ立ち向かっていってほしい、逃げられたら腹が立つ。戦えよ、って思うだろ物語を見ていたら。


「あのぅ………」


 言いにくそうに村長が口を挟む。


「どうしたんだ?」


「非常に申し上げにくいのですが、皆さまにお願いしたいことがございまして」


「お願いしたいこと?」


「実はここ最近このあたり一帯を荒らしていたいくつかの盗賊がひとつにまとまって盗賊団を作るというということがありました。私どもの村も含めましてとても太刀打ちできないほどの人数なのです。聞けば皆さま方はAランク冒険者の方々だそうで、どうか………」


「断る!」


「ぷりっつ!」


 俺があまりにもはっきりと断言したので、村長はかなり驚いて変な声をあげた。


「そちらの問題はそちらで解決してくれ。俺たちは遊びに来たわけでも人助けに来たわけでもないんだ。ここぞとばかりに厄介ごとを持ち込まれても困る」


「しかし先ほども話させてもらいましたが、とても私たちに太刀打ちできる人数ではないのです」


「だったらほかの村と合同で討伐部隊を作るとか、冒険者なり傭兵なりを雇うとかやり方はいくらでもあるはずだ。俺は重要な仕事を任されてきてるんだ、ほかのことに構ってる時間は無い」


「しかし………」


 突然流れ込んできた冷たい空気。


 ダンッという音と共に扉が急に開け放たれ、そこから見知らぬ若い女が顔を出した。




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