152話 -クリームスープ-
「これは契約の話だ」
「なにがだ!」
「なにがだ、じゃなくて契約の話だって言っているんだよ。今回は王族を通してお前たちに仕事の依頼をした。俺のことを王都からアウトラインまでの往復の護衛の仕事だの依頼だ。そしてそれをお前たちは引き受けた、別に無理矢理引き受けさせたわけじゃなく自分たちで引き受けると決めて引き受けたんだろう、それなのになぜ俺に文句を言うのかさっぱりわからない」
「自分で言ったことを忘れたのか!それは災いを呼ぶ呪われた魔道具だっていっただろ。なぜそのことをあらかじめ言わないのかと聞いているんだ!」
「俺はお前のお母さんか?」
「はあ!?」
「そんなものは契約を結ぶ前に自分たちで調べろよ、なんで俺がいちいち教えてやらないといけないんだよ」
「それは!そんなこと知るわけないだろ!」
「呪いの魔道具というものが存在しているなんて思わなかったってことか?」
「馬鹿にするな、そんなもん知ってるに決まってんだろ」
「だったら調べろよ」
「ぐっ………」
「呪われた魔道具を身に着けている依頼人が嫌なら調べたうえで契約を結べばいいだろ。なんでそれをしないんだ?」
「誰がするんだよそんなこと!」
「お前が言ってることはおかしい。呪われた魔道具があるということは知っている、呪われた魔道具を身に着けている依頼人の仕事はしたくない、それなのに依頼人が呪われた魔道具を身に着けているかどうかは調べない。おかしいだろ」
「それは、それは、、」
「今回は王族を通した仕事だぞ。お前たちにとっても失敗は許されない仕事だろ?下調べはしっかりしておけよ。引き受けた時点で大成功以外は自分たちの経歴に泥を塗ることになるんだぞ」
「なんで俺が説教されているんだよ」
「それはお前たちの仕事に対してのリスペクトだ」
「はぁ?」
「さすがはAランク冒険者だといつも見て思っていたんだよ。ここの能力の高さと連携のうまさ、傍から見ていても無駄がなく素早い。いい仕事だよ」
「あ、ああ………」
「だからこそ忠告したいんだ。下調べはきちんとやったほうがいい、依頼人がすべてをさらけ出すとは限らないということだ」
Aランク冒険者のクロギンウのメンバーは苦いものを食べたような顔をして顔を見合わせたりしている。
いまサブレが言っていることは冒険者を始めるときにギルドの古株から言われた言葉そのままだったからだ。疾風のような勢いで冒険者として駆け上がってきたクロギンウだったが、戦い以外ではまだまだひよっこと言われたような気分だった。
「普通は自分の不利になるようなことは言わないものだぞ。それで払う金が多くなったり断られたりしたくないからな。そんなのは当たり前のことなんだよ」
「ぐぬっ」
「お前はこの国の法律というものをちゃんとわかっていて言ってるか?」
「ほ、法律?」
「そりゃあそうだろ。今回は俺とお前たちだけじゃなく間にギルドと国が入ってる正式な契約書を交わした仕事なんだぞ。当然ながら法律というものが適用される。ボスに言われるがままに暴れるだけのチンピラとはわけがちがうんだよ」
「そんなことは分かっている!」
「本当にわかっているとは思えないな。それならこれも知ってるか?契約をする際には法律上相手に告げなければならないこと、というのが定められているんだ。どうだ、知ってるか?」
「知らない」
奥歯を噛みながら言った。
「契約をする上で重要なことだぞ。それは病気のことであったり犯罪歴のことだったり他にもいろいろとあるが、呪いの魔道具を付けているかどうかについては無いんだよ。決まりがない以上は自分が不利になるなら伝えないだろ、そういうものだ。したがって俺が今回そのことを言わなかったとしても法律上は全く問題がないんだよ。わかるか?」
「ぬぬぬ………」
「それに俺はこのドクロの指輪を隠してなかったぞ。始めて会った時から今までずっとつけたままだ」
クロギンウの5人は顔を見合わせる。言葉は無くともそうだったか?と互いに確認しあっているのは明らかだ。
「あ、そういえば私も最初に会った時からドクロの指輪してるなーって思ったたんだった」
「ほら、ケイさんだって出発する前から気付いてたんだぞ、それなのに何をいまさら」
「ケイちゃん、って呼んでっていったでしょサブレちゃん」
怒ったように頬を膨らませた。
「あ、ごめんケイちゃん。えーと………お前らにとって呪われた魔道具がそんなに重要なことならとっくに気が付いてなきゃならないだろ、ずっと目の前にあったんだからな。ドクロが付いた魔道具は怪しいっていう話は魔道具を扱う奴らにとっては常識なんだから5人もいて誰も気が付かないなんて油断以外の何物でもないぞ。冒険者の冒険は冒険に出る前からすでに始まっているんだ」
「う………」
ダンクの声には力がない。もし今のことをギルドに戻って話せば古株のギルド職員にも同じことを言われる未来を感じ取ってしまっていた。
冒険者としてのランクが上がるほど、法律だとか契約だとかを勉強するように、ということは今までさんざん言われてきてはいたが面倒くさすぎて誰もそんなことをしてこなかった。そんなものを知らなくとも力さえあればなんとかなってきたのだ。
消沈。
ダンクがもうすでにギブアップ状態なことは誰の目にも明らかだった。
「法の下で生きる以上は法律の勉強はしっかりとしておいた方がいいぞ。あんたたちはAランク冒険者だ、しかも王族からも仕事を依頼されるようなな。もう普通の冒険者じゃないんだよ。文明があるところでは法律は力だ。知っているのと知らないのじゃ大きな差になる。納得いかなくても今回は勉強だと思ってあきらめるんだな」
サブレはひとつ大きく伸びをした。
「さぁ朝ご飯にしよう。ケイちゃん、俺の皿にもスープをくれ」
「あ、うん」
一瞬ビクッとした後でケイは動き始めた。
「今日のスープはどんなの?」
「今日はねぇ、野菜と鶏肉のクリームスープにしてみた。パンにはやっぱりクリーム系のスープが合うな、って思って。あとはいつものパンとベーコンをカリカリに焼いたやつ。サブレちゃんがいっぱい食材持ってきてくれたからいろいろ作れて私も楽しいよ」
朝の空気に朝食のいい香りが合わさって一日の始まりの匂いとなった。




