150話
A級冒険者パーティーのクロギンウは疲れていた。
「おかしい………やっぱおかしいよなこれ」
リーダーのヒグロがオーガの腹に槍を突き立てながら言った。
「マジできつくなってきたな」
ダンクが額の汗を袖口で拭いながら言う。
「たしかに変だけど偶然でしょ?」
ナギックが倒したオーガの群れの中を歩きながら言う。
「もう疲れたよ、ってか腹減った」
座り込んだシグナが言う。
「皆油断するなよ、まだ本当に敵が全員死んだとは限らないぞ」
少し離れた場所で弓を構えたままのロウが言う。
「みんなシグナの言う通りだ、いつまた敵が襲ってくるか分からないんだから油断するなよ」
「そう言いながら寝るなヒグロ!」
「わかってるってほんの冗談だよ」
「けど本当に今回はきついよね。最初は割のいい仕事って言ってたけどあれはどこに行ったの?」
ナギックが笑いながら言った。
「そうだよ。追加料金とか貰ったほうがいいんじゃないの」
「ヒグロどうだ?」
「普通に無理に決まってんじゃん。行きと帰りでいくらって契約だから、出てくる魔獣の数が多くても少なくても固定だし。今回はたまたまいつもよりも出てくる魔獣の数が多すぎるから損したような気がするけど、逆に少なかったとしたら得してたわけだし。っていうか間違ってもアイツにはそんなこと言うなよ契約も理解できない馬鹿だと思われるだけだぞ」
ヒグロがほかのメンバーの表情を見渡す。
「でもなぁなんかおかしいよ今回は」
「まあたまたまってこともあるか」
「終わってみなきゃわからないよ。ここからは魔獣は一匹も出てこないかもしれないしね」
「そうだな。貴族の割には手がかからないからそれだけでもありがたいか」
一同が目を向けると大人の背丈以上の土壁が円形にそびえたっていた。
「貴族じゃなくて特級宮廷魔術師でしょ?」
「しっかし毎度毎度あんなもん造ってよく魔力が持つもんだな。馬車を守るためとはいえやりすぎでしょ」
「俺たちのこと信用してないんじゃないの?」
「まさか」
ナギックが笑いながら言った。
「俺たちだってA級冒険者だよ、そんなことないでしょ。いくらこの国でトップクラスの魔術師とはいってもひとりで何でもかんでもできるわけじゃないって」
「賛成、ただの用心のためでしょ。実際問題、俺たちにしても馬車を失うのは相当つらいし」
「ごめん、考えすぎだった。とにかくA級冒険者のプライドに掛けて依頼人も馬車もしっかり守ろうよ」
「そんなこと言ってシンは馬車の中の食い物を失いたくないだけでしょ?馬車がやられると最悪置いていかなきゃならなくからね」
「それはロウも一緒じゃん。あのワインを結構気に入ってるみたいじゃない」
「お前たち二人とも最初は荷物が多すぎて進むのが遅くなるとか文句言ってたくせに。俺たちにも分けてくれるとなった途端に調子いいのな」
「というかあいつワインには全然手を付けてないな」
「あー、なんか飲めないって言ってたよ」
「そう。あれは俺たちのために持ってきたんだよ」
「へー結構いいところあるんじゃん」
「わけの分からないことを言ってこないだけ良い。覚えてるだろ、前のやつなんか夜中に出てきた魔獣の群れを俺たちが必死で追い返した後に言った言葉覚えてるだろ?「うるさいくて眠れないからよそでやれ!」だぞ。ほかにも何にも知らねえのにいちいち戦い方を指示してくる奴とか、それに比べれば全然いい」
「確かにねー」
「逆に俺たちなんか必要ないんじゃね?って思う時すらあるよね」
「いや多分あいつ実戦経験はほとんどない」
「どういうこと?」
「ありがちなんだよ。安全なところでの練習は一流だけど本当に命をかけて戦ったことがない貴族って。そういうやつに限って俺たちみたいな冒険者を見下してるんだ」
「へーけどあんまり見下されてると思ったことないな」
「それは俺もそう」
「そこまで馬鹿じゃないんじゃない?多分わかってるんだよ、自分の強いところと弱いところを」
「まーなんにしてもやるしかないでしょ。今回は王族を通しての依頼なんだから何があっても完璧にやり通さないと俺たちのパーティーとしての信用がガタ落ちになる」
「疲れるよねーなんで今回は魔獣が多いかなぁ」
「前金も結構貰ってるしな」
「そうだよ。俺はもう使っちゃったから失敗しても返せないよ」
「そうなったらお前も奴隷落ちか」
「ちょっと待ってよ、貸してくれたっていいでしょ。どんだけ一緒にいると思ってんの」
「それは無理でしょ」
「みんなー格好いいーー!」
土壁からぴょこんと顔を出した女が手を振っている。
「かわいいなーケイちゃん」
手を振るヒグロがだらしない顔で言った。
「あいつ女なんか連れてきやがって。しかもあんなにいい女を」
「女って言い方やめてよ。料理人でしょ?」
「あいつこんな男所帯のところにひとりフェロモンの塊みたいないい女を連れてきてどういうつもりなんだ?」
「めっちゃいいよねケイちゃん。多分俺のこと結構好きなんじゃないかな?」
「いやそれはないって」
「なんでよ?」
「だってケイちゃんは俺のことが好きなんだもん」
「ありえないでしょ」
オーガの死体が辺り一帯に転がるなかでAランク冒険者パーティーのクロギンウは男子高校生みたいなやりとりを始めた。




