147話
「なんでもじゃないよ。えーとね、ジンができるのはギャンブルとお酒と煙草に関することだけ。それをポイントと交換でくれるの」
「なんですかそれは」
あきれた声のウミカ。
「なんですかって私に言われても困る。これはそういうものだから」
「これはそういう魔道具なんだよウミカ」
「なんだかすごくガッカリです」
「なんかごめんね」
シロロが少しもうしわけ無さそうに言った。
「こっちこそごめん、なんかウミカが期待しすぎちゃったみたい」
「期待しました。もしかしたら私の希望通りのものを出してくれるかもしれないと思ったもので」
「希望どおりのもの?ウミカは何か欲しいものがあったの?」
一緒にいるけどそれはあまり聞いたことがない。もしできれば知っておきたい。誕生日の時にプレゼントを上げるときに役立ちそうだ。
「うん。世界中の悪人の首を離れた場所にいても一瞬にして刎ねることができる、鎌みたいな魔道具があればすごく欲しかった」
「ええぇ………」
思ってたよりも怖いものだった。昔からそういう感じはあったけども最近のウミカはルール違反とか理不尽に暴力をふるう人とかに対して余計に厳しい考えを持つようになっていると思っていたけど、まさかこれほどまでとは思っていなかった。
「ふふっ」
あ、笑った。
「もしかして冗談?」
「本気」
やっぱそうだよね。
「なんか駄目人間専用みたいな魔道具ですね」
ウミカの言うことは確かにそれはそうだと思う。
「そんなことない!」
シロロの強い口調。
「ギャンブルもお酒も煙草も疲れた心を癒してくれるんだよ。人間生きていれば誰でも心が疲れていくの。それって溜め込んでいくと爆発しちゃうものだよ。そんな荒んだ心を癒してくれるのがこの魔道具」
「なるほど、シロロがいうようにそういう考え方もあるね………」
そう言われてみればそういうものかもしれないと思ってしまったのはシロロの目が理由かもしれない。純粋で真っ直ぐな目をしている。
「わたしはそんなものが無くても困らないんですが」
「それはウミカちゃんにはこんなに格好良くて優しいお兄さんがいるんだもん。だから毎日癒されているから大丈夫なんだよ」
「それは、そうかもしれないですけど」
「ちょっと待って、改めてこうして見てみるとモルンって本当に結構格好いいな」
「あ、ありがとう」
体が熱い。どうしよう、シロロも可愛いよって言ったほうがいいのかな、どうだろう。
「もっと近くで見てもいい?」
「え」
驚いた時にはもうすでに僕とシロロの間にはいつの間にかウミカがいた。
「ふざけないほうが身のためだと思います」
ウミカの髪の毛が逆立っている。
「そんな怒らないでよウミカ、ちょっとした冗談だって」
「ほらウミカちゃん今だよ」
「え?」
「いま心の中にある黒くてズシンとした気持ち。これが毎日毎日積み重なっていくって考えてみて。どう?」
「えっと」
ウミカは驚き戸惑っている。
「こんな気持ちがずっと続くってなったらおかしくなっちゃうでしょ?きっと夜も眠れなくなるよ。そしたらますます心が辛くなっていっちゃうんだよ、想像できる?」
「はい………なんとなく想像できるかもしれません」
「そんな時に助けてくれるのが!ギャンブル、お酒、煙草なんだよ。私の大切な人が教えてくれた言葉があるの。大事なことだからよく聞いて」
「はい」
なんだろうドキドキする。
「「人生ってのは辛いもんなんだ。そのなかで一番の敵は人間、どれだけ富を得ようともその定めからは逃れられない。かといって人間はたったひとりでは生きられない。山の中で仙人みたいに暮らしていくだけじゃ満足できない生き物なんだ。だから俺たちは苦しむとわかっていても人間の中で生きるしかない。苦しさで脳味噌が捻じ曲がりそうになるとき、助けてくれるのはギャンブルと酒と煙草。これで脳味噌を麻痺させて気絶するみたいに寝るんだ。そうやってとりあえず寝ることさえできれば次の日も持つ。そうやって毎日毎日生きていくのが大人ってもんだ」って教えてくれたんだ。いい言葉でしょ?」
いい言葉というより怖い言葉だった。
できれば大人になりたくない。この先そんな運命が待ち受けているかと思うと夜眠れなくなりそうだった。




