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142話 -南門-

 


「連れ去られた!?」


「そうだ、大柄で髭を生やした傭兵の二人組だ。ワシは後ろからいきなり後頭部を殴られて………あいつらは北門のほうに向かっていった。王都から出られたら厄介だ、モルン、ウミカ、今すぐ追いかけてくれ」


「傭兵の二人組ですね?」


 北門までは結構な距離がある、間に合うだろうか。


「ああそうだ。門には兵士がいるから傭兵が子供3人を連れたままでは、そうすぐには出られないはずだ」


「わかりました、行こうウミカ!」


「ちょっと待って」


 ウミカの声は静かだった。


「どうしたのウミカ、早くいかないと逃げられちゃうよ」


 街の中だったら人が多いから聞いて回ればいいけど、外に出てしまったらそれができない。


「いつものイゴセさんの声じゃない」


「え?」


 ウミカが何を言っているのか理解できない。


「声?それはたぶんついさっきまで気を失ってたからだよ。だからいつもの感じじゃないんだよ」


「違う、そういうことじゃない。すごく気になるの」


 真剣な表情で言う。


「いつもと声が違うって、それっていま大事なことなの?」


「大事」


 はっきりと言い切った。


 ウミカは鋭いところがある。今まで一緒にいて気になる、といえばいつも何かおかしなことがあった。


「どうした何が気になるんだ?」


 イゴセさんも早く子供たちを連れ戻したいだろうに、辛抱強く聞いてくれる。


「傭兵って言ってたけどどんな格好をしていたの?」


「どんなって………えーとそれは、いかにも傭兵っていう感じの男たちで………」


「髪型は?身長はどれくらいだった?」


「いや、それは覚えていないな。とにかく傭兵の男二人だったとしか思い出せない」


「そんなのおかしい」


 ウミカが言う。


「何がおかしいもんか!」


 いきなり横から全然知らない男の人の声がした。


「俺もしっかりとこの目で見たぞ、子供たちをさらったのは確かに傭兵だった。はっきり傭兵だった」


 野次馬をかき分けて、目の細い出っ歯の人が現れた。というか誰ですか?


「俺もそのときたまたま現場を見ていた。傭兵の連中が子供を攫うってのはよく聞く話だ。あいつらは人が死ぬのが当たり前みたいな職業だから自分達の部隊を維持していくためにそうやって人数を確保してるんだ。子供の時から育てたほうが傭兵の仕事をしっかり覚えれるからな」


「見ていたんですよね?」


「俺の名前はンゴシってんだよろしくな」


 呼びずらい名前だなぁ。


「ほら聞いたでしょウミカ。ンゴシさんも見たって言ってるんだよ」


「ンゴシなんてどうでもいい」


「えぇ………」


 どうでもいいってなにさ。


「イゴセさん、相手の身長を覚えてないっておかしいよ」


 目を見据えて言った。


「だってイゴセさんが言ってたんだよ。戦うときには相手の身長とか体格をしっかりと観察してから戦うようにって。それで相手の間合いが変わるから重要なことだって言ってたじゃない」


「確かに!どうだったんですかイゴセさん?」


「思い出せない………」


 イゴセさんの顔に困惑が浮かぶ。


「相手の陣形はどうでした?ふたりとも正面から来たんですか?それとも回り込んできたんですか?」


「わからん、思い出せない」


 これはおかしい。ウミカの感じた違和感がはっきりと形になってきた。


「つまりどうやって後頭部を殴られたのか覚えていないっていうことですか?」


「おかしい、ワシの頭はどうなってるんだ、確かにこれはおかしいぞ。ワシの頭の中にあるのは傭兵ということだけで具体的な情報が何も残っていない。身長も体格も武器も利き手も何も覚えていない」


 イゴセさんははっきりと自分が言っていることのおかしさに気が付いたらしい。一般の人ならともかくとしてずっと剣術をやってきたイゴセさんが戦った相手のことを何も知らないというのはおかしい。


 考え、観察しながら戦う。それはイゴセさんが僕たちに教えてくれたことだ。


「それに気絶していたはずなのにどうして犯人が北門へ向かって言ったことが分かったの?」


「そうか!」


 体が痺れた。


「イゴセさん!気を失ってたのなら犯人がどっちの方に逃げたのなんか見えているはずないんですよ。ウミカが言う通りおかしいです、何か普通じゃないことが起きています」


「多分そういうスキルだと思う」


 ウミカが言った。


「そうだ!子供たちをさらった犯人はスキルを持っている。そのスキルのせいでイゴセさんは辻褄の会わないことを言わされているんです」


「ああ、そうらしい。今になってようやくわかった」


 驚きと恥ずかしさと怒り、イゴセの顔にはそれがごちゃ混ぜになった表情があった。


「騙された。ということは犯人は傭兵の二人組でもないし北門にも向かってない。ワシが言ったことはすべて犯人によってそう思い込まされた言葉だ」


「そうです。だから私たちが向かうのは北門じゃなくてあっち。南門」


 ウミカはビシッと南を指さした。


「そうだな。犯人は自分が捕まらないように嘘の情報を教えたはずだから真反対の方に逃げたに違いない。そうだ、その通りだ」


「いやだから違うって!何言ってだよ、俺ははっきり見たんだよ傭兵の二人組が北門に向かって歩いていくのを!」


 ンゴシが吼える。まるで仲間みたいな距離でウミカの話を一緒に聞いていたのにちっとも理解していないようだ。


「俺を信じろ!お前たちは北門に行け、子供たちを助けたいんだろう。一刻の猶予もないぞ、さあ行け!」


 まるで指揮官だ。というか見てないで助けてくれればよかったのに。


 それはさておき、ウミカのおかげで気が付くことができた。今はウミカの言っていることが正しいことだとわかる。たとえほかに何人もの人がンゴンゴさんと同じことを言ったとしても従うことはしないだろう。


 これは犯人が仕組んだ罠だ。


「ふたりとも、見てみろこれを」


 そういってイゴセさんは地面から拾い上げたものを見せる。


「もしかしたらこれがヒントかもしれないぞ」


 僕たちは南門へ向かって走り出した。


 犯人がどうやって不自然じゃなく子供を連れてこの人の目の多い王都から逃げようとしているのか、その方法に気が付いた。



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