129話 -教壇-
「ふぅん………お前がモルンか。私は担任のレノアだ、よろしくな」
「レノア先生よろしくお願いします」
赤髪で背の高い美人の先生が僕のことを品定めするように上から下まで遠慮なしの視線を浴びせた。僕はこの学校に来てから品定めされてばかりだ。洗いたてのきれいな服を着てきたつもりだったけど、本当にちゃんとしてるのかがすごく気になる。
「なんだ、吸血鬼に自分から向かっていったっていうからどんな向こう見ずな奴かと思ったら随分と大人しいじゃないか」
「僕だって出来れば戦いたくは無かったんです。あれは仕方なくそうしたつもりでした」
「仕方なくだって?なんだ面白いな、どんなことを考えてわざわざ危険な相手に自分から向かっていったのか皆の前で話してみろよ」
「ええぇ!?」
「これも授業の一環だ。お前らよく聞いておけ、実戦でモルンが何を考えて行動したのかってのは物凄く勉強になるぞ。お前たちはこの戦闘特進クラスに来るくらいだからひとりひとり自分の戦い方に自信を持ってるんだろうが、そんな自信なんか実戦で使えなきゃ何の意味もないんだぞ」
教室がピリついた空気になる。
「ほらモルン、教壇に立って話してやれよ」
「えぇ………そこでですか?」
「なにいってんだよ、喋るのはどこで喋たって同じだろ。別に大したことを言うことはないんだよ、ただその時何を考えて行動したかのかを一言二言言えばいいだけなんだからさ」
それはそうなんだけど教壇で喋るというのは緊張感が全然違う。そもそもなんというか敵意とまではいわないけれど、この教室に入った時から嬉しくない目を向けられているので、できれば目立ちたくないんだけどな。
「わかりました」
どうせやらないといけないのなら、早く終わらせてしまうのがいい。と思って教壇に立ったけど、一段高いところに立っただけで緊張感が増す。みんなの視線を真正面で受け止めている感じがする。
「おう!モルン、さすがモルンだ!頑張れ!」
なにが「さすが」なのか分からないよシンジ。
「ええと………」
何を考えて行動したか、か。
「あの時はとにかく一緒にいた女子生徒をなんとか助けたい、というかひどい目に会ってほしくないということを考えていたんだと思います、あまりあの時のことははっきり覚えていないんですけど」
まだそれほど時間がたっていないのに夢の中の出来事だったような気がする。覚えていることは覚えているけど詳しくは思い出せないんだ。
「後は思い出していました。教えてもらったことを思い出してそれをちゃんとできるようにしようということを考えていました。一番気を付けていたのは体の力を抜くこと、ですね。緊張でガチガチになると体が思うように動かすことができないというのは普段の練習から理解できていましたので。手足をぶらぶらさせて何とか自分の体から力を抜くようにしていました」
そうだ思い出した。あの時ノアのことを強く持ちすぎて怒られたんだ。やっぱりあんまりうまくできなかったな。
「後は心を落ち着かせて冷静になるということです。周りの状況をよく見て何をするのが自分にとって一番いいことなのかを考えるように、と。これはなんとなくなんですけど自分のことを自分の目で見た景色で判断するんじゃなくて頭の上から見るような感じで考えるといいような気がします」
そうだった。僕はあの時そんなことを考えていたんだった。そうやってやると前だけを見るんじゃなくて横とか後とかできるだけ全部の状況が見えるようにって。
「あの時黒いフードの男に向かっていったのはそれが一番有利だと思ったからです」
今考えてもあれが一番良かったと思う。
「すでに校長先生があのと男と戦ってくれていたので、一緒に戦えば僕ひとりで相手に勝つ必要はありません。普通に戦えば相手のほうが強かったと思いますけど2対1なら勝ち目はあります。少しでも相手を引き付けることができれば先生が何とかしてくれると思っていました。相手の動きは先生のおかげで見ることができていたので失敗さえしなければ避けたり逃げたりすることはできるんじゃないかと思っていました」
今考えると結構無謀だったかな。
「それにはサブレさん、ええと、僕の恩人というか師匠、みたいな人に教えてもらった訓練が役に立ちました。そのおかげで身体強化を使って自分の体を動かすということだけは毎日やっていましたし、道場でも剣を使った攻撃は何度も見ていたので驚くほど相手の攻撃が鋭いとは思いませんでした」
道場では木刀だしイゴセさんとは振り方も違ったけど、けどウミカの剣よりは早くなかったからパニックにはならなかった。ウミカについては最初からすごかったけど、一緒に練習することで毎日毎日強くなっていっているというのが分かるくらいにすごい。
「なので相手の間合いに入らないようにちゃんと距離をとってしっかりと攻撃を見るようにしていました。相手が攻撃してきたときこそが飛び込むチャンスなのでその機会を間違わないようにだけ考えて………。ええと、それくらいですね。最後は先生が止めを刺してくれましたし、先生がいなかったら僕一人じゃ勝てなかったと思うので先生には感謝しています」
僕は一礼して教壇を降りた。




