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130話 -アキレス腱-

 


「おいテメェ何調子に乗ってんだよ」


 僕は言われた。


「聞いてんのか細ガリ野郎!」


 5人の同級生に校舎裏に呼び出され、そして囲まれて僕は脅されている。


「細ガリっていうのは意味が重複していませんか?」


 髪の毛を後ろに持って行って固めている一番体の大きな顔の男に言ってみる。


「んだとテメェ!舐めてんのかよあぁ!?」


 舐めてる、のかなぁ?というか舐めるってなんなんだろう、よくわからない。ただこの状況に恐怖を感じていないことは間違いない。


「調子のってんじゃねぇぞ!」


「偉そうに講釈垂れやがって何様のつもりだテメェ!」


 短い髪の毛をツンツン立たせた男と長い髪の男が言った。


 おかしい。少し前なら僕は恐怖を感じていただろう、サブレさんと会う前までの僕は大人たちが怖かった。体が大きくて力が強くて、何もしていないのに急に怒り出して暴力を振るってくる大人が。


 目の前の男たちは大人とは言えないけれど僕より背は高いし体もガッチリしている。そしてなによりも僕に対して威圧して、暴力をふるおうとしている。


 それなのになぜこうも僕は恐怖を感じていないのだろう。


「それで、何の用ですか。もうこんなことはやめてもらいたいんですけど」


 こんなことをするために僕は学校に来ているわけじゃない。せっかくサブレさんがくれたこの機会を無駄にするわけにはいかない。ちゃんと勉強して運動しないといけないんだ。


「んだとテメェ!」


「ああ!?」


 会話にならない。さっきから同じことしか言ってないよこの人たちは。思わず少し笑いそうになってしまった。だけど我慢。もし笑ったりしたらこの人たちはもっと怒り出すだろう。


 けど普通に考えれば怒るのは僕のほうだよね。これだけの人数に囲まれて脅かされているんだから。


「わかりました、これからは調子に乗っているように見えないように気負つけます。それじゃあ僕はこれで」


「テメェ!!」


 帰ろうとした僕の背後から髪を後ろにした男が殴り掛かってきた。


「あっと」


 僕は前に軽く跳ぶことでそれを躱した。やっぱり来たか、という感じで用心はしていた。


「あなた達本当に戦闘特進クラスの生徒ですか?」


 言ったら悪いけど本当に遅い。僕は振り返って5人の同級生たちを見た。


「囲め!」


「調子に乗りやがって!ぶっ殺せ!」


「二度と俺たちにそんな生意気口がきけねぇようにしてやるよ」


 よかった、どうやら武器は持っていないようだ。


「冷静に、冷静に」


 自分では緊張していないように思っていても実際はそうじゃないことが多い。あの黒フードの男の時もそうだった。だから僕はあえて声に出して自分に言い聞かせるようにしている。


「おら!」


「この野郎!」


「をらあ!」


 バラバラに飛んでくるパンチと蹴りをしっかりと見ながら躱す。全然遅い。イゴセさんよりもウミカよりもあの黒フードの男とは比べ物にならないくらいに遅い。怖さを感じない。



 しっかりと考えて正しい行動をしよう。今のこの状況をしっかりと確認しながら情報を集めよう。一番いいと思う行動をするんだ。自分の体をどこに持って行ったらいいのか、後ろに行くのがいいのか、前に行くのがいいのか、それとも横か。ちゃんと考えてから動くんだ。


「この野郎!」


「囲めって!そんなとこいねぇで後ろに回れって!」


「うるせえな!そんなに行きたかったら自分で行けよ!」


「んだとテメェ!」


「おいやめろ!」


 同じだ。


 サブレさんが言っていたのと全く同じ。この男たちはこうやって僕のことを暴力で支配するつもりなんだ。


 サブレさんは言っていた。ここで負けたらこの学校生活の間中、ずっとこういう奴らの下につかなきゃならなくなるんだって。こいつらのご機嫌を伺いながら、暴力に怯えながら過ごさなきゃならなくなるんだって。


「生き埋め公爵」サブレさんが付けられたあだ名。さすがにそこまでするわけにはいかない。かといってこいつらにやられるがままになるのは絶対に違う。


 そんなことをするために僕は学校に入ったんじゃない。そしてこんなことで怯えて、怖がって何もできなくなるような人間だったらサブレさんの役に立つことなんかできない。いざという時こそ、きちんと行動できる人間にならないといけないんだ。


 だから戦おう。


 一気に距離を詰めて長い髪の男の後ろに回り込んだ。ここは他の奴らから攻撃を受ける心配のない場所だ。


「ぐわぁあああ!!」


 倒れ込む男。


「テメェ何しやがった!」


 男たちに広がる驚きと恐怖。


「さあ?」


 わざわざ教えてあげるつもりはない。


「てんめぇ!」


「やれ!ぶっ潰せ!」


 飛び掛かってくる男たちの間を縫って僕はまた背後をとる。そして男のアキレス腱を蹴った。力はそんなに入れていない、蹴るというよりもむしろつま先を当てるという感覚。


「てげぇええええ!!」


 けどそれだけで短髪の男は地面に倒れてもんどり打っている。長髪の男も倒れていたがったまま立ち上ってはいない。人間には筋肉と骨だけじゃなくて腱というものがある。これが切れるとまともに動けなくなるんだとイゴセさんに教わった。だから体を動かす前にはしっかりと準備運動をしなくてはいけない、と。


 けれど切れたからと言って死ぬことはない。今僕がやりたいことは相手にもう二度とこんなことをさせないことだ。もし何もしないで逃げるだけであればこの人たちはまたこんなことをしてくるかもしれない。今度は逃げられないようにしてくるだろうし、人数を増やしてくるかもしれない。


 本当はこんなことしたくない。つま先に感じる腱が壊れる音が気持ち悪いから。だけどやらないとしょうがないんだ。


「そっちから仕掛けてきたんだから」


 これは自分を、自分のやりたいことを守るためにはやらなきゃいけないことだ。


「ひぃ!」


「冷静に、冷静に」


 手足を少しぶらぶらさせて体の緊張をほぐす。


 一気に距離を詰める。


 そして僕は悲鳴を上げた男の後ろに回り込み、同級生のアキレス腱を蹴った。



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