128話 ー教室のシンジー
初登校の日の初めて開く教室の扉を開いたら「むわん」とした視線を向けられた。
うわぁ………思ってたのと全然違う。
戦闘特進クラス。
嬉しいことに僕はこの国立学校セルティックの編入試験に合格することができた。合格通知が届いた時は、ウミカと抱き合って喜んだくらいにうれしかった。だからあまりちゃんと見ていなかったのだけど、そこには戦闘特進クラスに入る様にと書かれていた。
サブレさんはいないし、イゴセさんは学校に行ったことがないから分からないということで、情報が無かったんだけど教室に入った途端に、やっぱりそういうことなんだなと思った。
戦闘という字が頭に入っているように、多分このクラスは普通のクラスとは違って将来のために戦えるようになる、ということを目的とする人たちが入るんだろうな。つまりは冒険者、兵士、あるいは傭兵だとかそういった職業を目指す生徒のためのクラスだ。
なんでだろう?
確かにかなり危険だとは聞くけどそういった職業があるのは事実で、将来その職業に就こうと思うことを否定するつもりは全くない。人には向き不向きというものがあるわけで、戦うのが得意な人はそういう職業に就きたいと思っても不思議じゃない。
けど僕はべつにそういうのを志望してはいない。それなのになぜ僕はそいういう人たちのためのクラスに入ることになっているんだろうか。わからない。なんで?
「おう!おはよう!」
窓際に座っていた人がいい笑顔で勢いよく立ち上がっていった。
「おはようございます」
背が高くて日に焼けた格好いい顔の男の人が明るくハキハキした声で挨拶してくれた。だから少し戸惑いはあったけど僕はそれに答えた。
少しの戸惑いの理由。それはこのクラスの雰囲気にはその明るいハキハキした挨拶が似合っていないように感じたから。なんとなく教室の中は淀んだ感じというかピリついた感じがあった。
「おい皆今日から俺たちの仲間になってくれるモルンの初めての登校だ!元気よく挨拶しようぜ」
見渡して言った。
けれど目立た反応はない。いや、あった。舌打ちが聞こえた。
「おうモルン気にすんなよ、皆まだ照れてるんだ」
照れてる?そうかな、品定めされているような気がするし全体的に陰の雰囲気を感じる。
「どうして僕の名前を知ってるの?」
「知ってるにきまってんだろ、なにせ学校に入り込んだ吸血鬼をぶっ倒して生徒の命を救ったヒーローなんだからさ」
そうなんだ、やっぱりあの話って広まっているんだ。吸血鬼というのは最近世間を騒がせている子供が沢山殺されているという騒ぎからなずけられた犯人の名前。
街中に無造作に放置された子供の遺体からは血が抜き取られている、というのがこの事件の特徴。だから犯人は血を吸う吸血鬼と呼ばれているらしい。そして目撃されている犯人の特徴が全身黒ずくめで黒のフードを被って仮面をつけていること。
あの日、僕の前にあらわれたあいつは全く同じ特徴を持っていたので、吸血鬼事件の犯人と言われている。けどその犯人がもう死んでしまっているから、本当のところは分からないのだけど。
けどもともと大きく騒がれていた事件だったので、あの日のことは大きな話題となっていて、僕も散歩や買い物に外に出歩くときには、そこかしこでみんなが話しているのを聞いていた。
この学校は実際の現場なわけだし、休校日とはいえ先生も生徒もいたので僕の名前もすっかり知れ渡ってしまっているようだ。
「あれはほとんど校長先生がやってくれたんだよ」
「おいおい何言ってんだよ、ゴリマツ先生とお前が協力して女子生徒を守るために吸血鬼の前に立ちはだかったんだってな、そうだろ?」
ゴリマツ先生?
「実際に戦ってくれたのは校長先生だよ」
「あれ、なんか俺が聞いた話と違うな。死闘の末にゴリマツ先生がやられてしまって、それにブチ切れたモルンが金髪になってスーパーパワーで吸血鬼を消し炭にしたって聞いたんだけどなぁ」
「全然違う話になってるよ」
「そうなのか、まあいいさ。モルンが吸血鬼を倒したってのは事実なんだろ?すげぇよな、街の兵士だったお手上げだった連続殺人犯に立ち向かっていって倒しちまうんだからさ、ほんとすげえよ!かっけえよ!」
興奮しながら僕の手を掴んでブンブン振っている。
「なあみんな!みんなもそう思うだろ、格好いいよな!」
静寂。
「気にするなよモルン。みんなさぁ悔しいんだよ」
「悔しい?」
「ここにいる奴らはみんな将来戦闘で飯を食っていこうって考えてるやつばっかりなんだ。いわばライバルみたいなもんだな、それなのにモルンがいきなり本物の殺人犯相手に結果出したもんだからな。負けてたまるか、俺のほうがすげぇって気持ちになってんだよ。けどさぁそんなの関係ねぇよ!みんなでさ、切磋琢磨してみんなで上がってこうぜ!そんだけすごい奴が身近にいるってことはさ、いい目標が近くにあるってことじゃんか!」
拳を突きあげながら熱く語っている。けれどこの人が暑くなれば案るほど周りの温度は下がっていっている。睨みつけるような視線が怖いんだよね、まだ教室に入ってきただけだっていうのにこの感じ。つらい。
そうか、わかってしまった。
この雰囲気。
僕が初対面だから、あの事件にかかわったから、この雰囲気はそれだけじゃないんだ。
「ええと、名前教えてもらっていい?」
「ああそうだったそうだった俺としたことが、噂の同級生に会ったことですっかり自己紹介するのを忘れていたよ。俺の名前はシンジ、よろしくな!」
「僕はモルン、よろしくね」
「おいおい知ってるつーの!なんたって有名人なんだからな」
大きう笑うシンジ。
シンジってすごく明るい。
明るい、明るすぎる。
多分だけど、シンジはクラスのみんなから結構嫌われているのかもしれない。明るすぎて嫌われるってってあるんだな、知らなかった。新しい発見だ。
果たして僕はこの学校でうまくやっていけるだろうか?ものすごく心配だ。




