127話 -初戦の決着-
長道具と戦うときには位置が重要、イゴセさんが言っていた。
僕が使う武器はナイフ、これは極めて近い距離でしか攻撃することができない。かたや剣や槍はナイフの何倍もの距離の攻撃範囲がある。けれどもそれはナイフでは剣に勝つことができないというものではない。
長道具は武器の長さが長いほどにその内側が最も弱い。そしてその武器を振るった瞬間こそが無防備となる瞬間。
だから飛び込め。
ナイフを武器とすることと決めたのなら、ナイフを持って相手を倒したいのならばそれしか道はない。
怖いなどとも考えるな、ただ無心で相手に飛び込んでいけ。一歩でも躊躇すればたちまち相手がもっとも力を発揮する位置にお前はいることになる。
勇気を持って飛び込むことだけが僕を勝利に近づける。
敗北がもたらすものは自分の死、だけではない。自分が守りたいものすべてを失うことを意味する。だからこそ勝たなくてはならない、勝つことだけが自分の意志を通す術。
僕の後ろにはミカンさん、メロンさん、イチゴさんがいる。学校の中に避難させたと言っても安全ではない、ただ危険から遠ざけただけ。僕たちが負ければその程度の安全は一瞬で瓦解する。守りたいなら勝つしかないんだ。
だから緊張するな、脱力しろ、体の力を抜け。それこそが自分の体を最も早く動かす。視野を広く持て、周りをよく見ていま何が起きているのかを観察しろ。それこそが適切な行動をさせる。
冷静に、冷静に。
意外にも僕は練習通りに飛び込むことができていた。
けれど相手はイゴセさんよりも機敏だった。先生と打ち合いながらも、背後から一気に距離を詰めた僕のこともちゃんと警戒していて、さっきの僕と同じように後方へ跳んだ。
迷った。
一度体勢を立て直してから仕切り直した方がいいかもしれないと思ったけど僕はさらにもう一度相手に飛び込むことを選んだ。そっちを選んだが方が相手にとっては嫌な戦い方なんじゃないかと思ったからだ。
僕と男、互いに跳ぶことを選んだが僕のほうが速かった。距離があっという間に縮まった。
僕の間合い、ナイフの間合いに入った。
手首。
武器を持った相手をできるだけ怪我をさせたくない時に狙う場所。普通のナイフと違ってノアは当たっても斬れない。だからナイフみたいな使い方じゃなくて鈍器みたいに使う。
攻撃範囲の短い鈍器、使う意味は十分にある。試してみたところ自分の手で殴ったり、あるいは普通の騎士なんかで殴るよりもノアを使ったほうがはるかに威力が出ることが分かっている。
だから飛び込める、当たりさえすれば十分な威力を持つとわかっているから僕は安心して飛び込める。
剣を持てなくするつもりで振るった腕は思った通りには動かなかった。右腕は滑らかに相手の顔の方へと向かっていき顎を捉えた。そして僅かな質量と嫌な感触を伴って男をはるか後方へと弾き飛ばした。
そこから先はゆっくりと時間が動いていった。
土煙を上げながら転がっていく男。しばらくしてその勢いが止まると男は口から血を流しながらも立ち上がろうとしている。
唸り声。
しかしその体は酔っぱらいのように足元が定まっていない。支えにして立とうとした手も力が入らず崩れ落ちる。
そして男はその手に何も持っていない。あのおかしな剣は男よりも遠く離れた場所まで飛んで行っていた。そこに向かおうとしているのか、それとも逃げようとしているのか必死に立ち上がろうとしている。
怨念の重い視線が僕に対して一心に注がれる。
そこに向かって歩いていく校長先生。男から少し離れた場所まで言って立ち止まり、刃を下に向けた槍を両手で高く上げ振り下ろす。
汚泥の中に足を入れるみたいな音がして、槍は男の首にしっかりと突き刺さっていた。
まるで夢の中。
乾いた校庭の土に赤黒い血が流れて広がっていく。
男は仮面の中から僕のことをずっと見ている。
僕を見ている。
ずっと。
ずっと。




