↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
指輪で空を飛ぶ自称エリートエルフ型地底人ですが、グルメのために地上の女子高生の家で居候始めました  作者: 空気人形


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/24

第22話『休日のレトロ散歩と、小さな張り合い』

「今度、岩瀬の古い街並みに行ってみたいんだけど、一緒に行かない?」


サークルの部室で、あんこちゃんがスマホの画面をひょいと見せてきた。


「岩瀬?何があるの?」

「何があるってわけじゃないんだけど、古い街並みの中に、すっごく美味しいものがあるのよ!ミナカちゃんも絶対好きだと思う!」

「なるほど。それはぜひとも街並みを見学して、美味しいものも食べなくちゃね」

「もちこちゃんは?」

「楽しそうだから、私も行くよ。いつにする?」

「じゃあ……」


そんなわけで――。


私たち三人がやってきたのは、レトロな風情が残る東岩瀬駅。


駅を降りると、さっそく古い街並みを目指して歩き始めた。


「それで、本当に美味しいものがあるの?」

「もちろん!少し歩いたところに『天保』っていう素敵な食堂があるのよ。まずはお昼にしましょ!」

「まだ十一時よ?ちょっと早くない?」

「人気のお店だから、早めに行かないと混んじゃうの」

「私は準備万端よ。どこでもウェルカムだわ。もちろん、デザートの分までお腹は空けてあるわよ」

「さすがミナカちゃんね……って、ほら!もう行列ができてる!」


しばらく歩くと、目当ての食堂が見えてきた。


開店まであと十分もあるというのに、入口の前にはすでに十人ほどが並んでいる。


「ほらね、言ったとおりでしょ?」

「なるほど。人気店というのは本当のようね」


やがて開店時間になり、私たちは店内へと案内された。


足を踏み入れた瞬間、ミナカが店内を見回して目を丸くする。


「――なかなか趣があるわね」

「築二百年の土蔵を改装したお店なんだって!」

「それはすごいわね……私よりずいぶん年上だわ」

「そりゃそうでしょ!比べるまでもないでしょ!」

「私たち三人の年齢を足しても、まだ敵わないね」


 もちことあんこが、からかうように笑った。


「ふふん。歴史ある建物というのは、それだけで価値があるものよ。地上人にしては、なかなか良い趣味をしているわね」


ミナカはどこまでも偉そうだった。


席についてメニューを広げると、さっそく料理選びが始まった。


「チャーシューが名物みたいね。でも、せっかくなら海の幸も食べたいのよね……」

「それなら、チャーシュー盛りをみんなで頼んで、あとはそれぞれ好きなものを注文するのはどう?」

「それ、いいね!私は海鮮丼にしようかな」

「じゃあ、私は煮魚定食!」

「私は今日暑いし、冷やしとろろ蕎麦にするわ!」

「「「決まり!」」」


注文を済ませて待っていると、店員さんが冷たいお茶を運んできてくれた。


「今日は暑いですよねぇ。よかったら、こちらもどうぞ」


そう言って、人数分の一文字うちわを置いていってくれる。


「わあ、うちわまであるんだ!」


もちこが手に取って、ぱたぱたと顔をあおいだ。


「あっ、見て見て!近くの競輪場でイベントをやってたみたい。昨日は有名なYouTuberの『はじめしゃちょー』が来てたんだって!見たかったなぁ……」


「プリキュアのイベントもやってたみたいだよ!」


「えーっ、それも見たかった!一日早く来ればよかったね」


あんこが残念そうに言うと、店員さんが笑顔で答えた。


「昨日はすごく混んでいたみたいですよ。今日みたいに、すんなり入れなかったかもしれませんね」

「あ、それもそっか!じゃあ、今日で正解だったね!」


三人で顔を見合わせて笑う。


そんな話をしているうちに、注文した料理が次々と運ばれてきた。


「お待たせしました。海鮮丼です!」


目の前に置かれた丼には、色とりどりの海の幸がたっぷりと盛られていた。


十種類ほどのネタが宝石のように輝き、どれも見るからに新鮮そうだ。


「うわぁ、すごい!どれから食べようかな……」


あんこが迷いながら箸を伸ばす。


プリプリとした魚介の食感に、ほどよい酸味の酢飯がよく合う。ひと口ごとに違う味わいが楽しめて、箸が止まらない。


「これ、タラかな?」


あんこが煮魚を口に運び、感心したように声を上げた。


「味がめちゃくちゃ染みてる!淡白な身に甘じょっぱい醤油の味が絡んで、ご飯が進むよ!」


ふっくらとした身をほぐし、ご飯と一緒に頬張る。これだけで、どんどん食べられそうだ。


一方、もちこは冷やしとろろ蕎麦を堪能していた。


「んーっ、冷たくて美味しい!とろろが蕎麦によく絡んで、つるっと食べられるね。今日みたいに暑い日には最高だよ!」


それぞれが自分の料理を楽しんでいると――。


「お待たせしました!名物のチャーシュー盛りです!」


「「「わぁ……!」」」


テーブルの中央に置かれた大皿には、食欲をそそる色合いのチャーシューがたっぷりと盛られていた。


三人は、さっそく箸を伸ばす。


そっと持ち上げただけで崩れてしまいそうなほど、肉はほろほろに柔らかい。


そして、一口。


――三人の動きが、ぴたりと止まった。


豚肉には、甘辛い醤油の味がじっくりと染み込んでいる。適度に脂がのっているのに、しつこさは感じない。


噛むたびに肉の旨味と脂身の甘さがじゅわっと広がり、口の中でほどけるように消えていく。


「なにこれ……すごいわね……」


ミナカが目を見開いたまま、もう一口頬張った。


「お肉なのに、口の中で溶けていくわ……!この柔らかさと、醤油の奥深い味わい……!長い年月をかけて磨き上げられた、食の技術の結晶ね!」


「ミナカちゃん、まだ一口目だよ!?」


もちこが笑う。


「一口目だからこそ、分かることがあるのよ!」


ミナカは胸を張ったものの、すぐに次の一切れへと箸を伸ばした。


「これ、何枚でも食べられそう……!」


「「「美味しい……っ!」」」


結局、三人とも夢中になってチャーシューを堪能した。


海鮮丼も、煮魚定食も、冷やしとろろ蕎麦も、もちろんきれいに完食。


「ごちそうさまでした!」


大満足で店を出ると、入口の前には先ほどよりも長い行列ができていた。


「ね? 早めに来て正解だったでしょ?」

「ええ。あのチャーシューを食べられただけでも、ここまで来た価値があったわね」


ミナカは満足げに頷いた。


「さて、次は甘いものよ!この先に名物のどら焼きがあるの!」


あんこに案内され、私たちは再び古い街並みを歩き始めた。


数分ほど歩いたところで、お目当てのお店が見えてきた。


「ここ!『大塚屋』!名物の『三角どら焼き』のお店よ!」


店先には、香ばしく甘い香りが漂っている。


小さな行列に並んで順番を待ち、私たちは無事に三角どら焼きを手に入れた。


店内には、お茶を飲みながら買ったお菓子を楽しめるスペースも用意されていた。


「お店の中でお茶までいただけるなんて、至れり尽くせりね」


ミナカは感心したように頷き、さっそくどら焼きを手に取った。


一般的などら焼きとは違い、生地がくるりと巻かれた三角形の形をしている。


ミナカは興味深そうに眺めてから、一口かじった。


「――これは、いいわね……」


ふわりとした生地の香ばしさ。その内側から現れる、しっとりとした粒あんの存在感。


生地の風味と、あんこの上品な甘さが絶妙に調和している。


「この形だからこそ、あんこの味わいが引き立つのね……!見た目の個性だけでなく、味にもきちんと意味がある。素晴らしいわ!」


ミナカは感心しながら、もう一口。


そして、あっという間に食べ終えてしまった。


「……もう一度並んで、さわにも買って帰らなくちゃ」


「ミナカちゃん、親バカならぬ姉バカを発揮してるよ」


もちこがくすくすと笑う。


「当然よ。妹に美味しいものを食べさせるのは、姉の重要な責務だもの!」


ミナカは当然のように言い切った。


まったく……。私がその場にいなくても、相変わらず姉ぶりを発揮しているらしい。


 もっとも、お土産を買ってきてくれるのは嬉しいけれど。


 店を出てすぐのところで、あんこが向かいのお店を指さした。


「あっ、見て!『酒商 田尻本店』に甘酒って書いてある!飲んでいかない?」


「待ちなさい、あんこ!私たちはまだ未成年よ!飲酒はダメだわ!」


 ミナカがぴしっと人差し指を立て、いかにも姉らしい口調で注意した。


「ミナカちゃん、甘酒にはアルコールが入っていないものもあるんだよ。そういうものなら、私たちでも飲めるよ!」


「なるほど!もちこは物知りね。よし、頭を撫でてあげよう!」


 ミナカがすっと手を伸ばす。


 しかし、もちこはひょいっと身をかわした。


「えへへ、残念でした!」


「むっ……!なかなか素早いわね……!」


「いや、普通に避けただけだからね?」


 あんこが呆れたように突っ込む。


 そんなやり取りをしながら、私たちは店内へと入った。


「すみません、甘酒ってどんな種類がありますか?」


 あんこが尋ねると、店主さんが今日用意されている甘酒を紹介してくれた。


「せっかくだから、三人で違うものを頼んで、少しずつシェアしない?」

「いいね!いろいろ飲み比べてみたい!」

「賛成よ。未知の味を比較するのは、知的好奇心を満たすうえでも重要だもの!」


こうして、それぞれが違う甘酒を選ぶことになった。


「あんこは、どれにするの?」

「私は地元・福井のお米、『いちほまれ』を使った甘酒にする!」

「じゃあ、私はなめらかな口当たりが特徴の『シルキー糀甘酒』にするね」

「私は富山の『昔ながらの麹あま酒』にしようかしら」


小さなカップに少しずつ分けてもらい、三人で飲み比べを始めた。


まずは、あんこが選んだ福井の『いちほまれ』。


ひと口飲むと、お米の豊かな旨味と上品な甘みが広がった。ほどよく残る粒の食感も心地よく、米そのものの美味しさをじっくり味わえる。


「わあ、これ、お米の甘みがしっかりしてる!すごく贅沢な感じがするね!」


あんこが嬉しそうに笑った。


次は、もちこが選んだ『シルキー糀甘酒』。


口に含むと、その名のとおり、絹のようになめらかな舌触りが広がる。


「本当にシルキーだね!すっと飲めて、後味もすっきりしてる。これなら、普段から気軽に楽しめそう!」


もちこはカップを傾け、残りの甘酒も味わった。


そして最後は、ミナカが選んだ富山の『昔ながらの麹あま酒』。


こちらは、もち米ならではの深いコクと自然な甘みがじんわりと広がる。


どこか懐かしさを感じさせる、ほっとする味わいだ。


「……これは、体に染み渡るような優しさね」


ミナカはカップを両手で包み、しみじみと呟いた。


「甘さの中に深みがあって、飲み終えたあとも余韻が残る……。歩き回って疲れた体に、ちょうどいいわ」


「「「どれも全然違う……!」」」


三人は顔を見合わせた。


同じ北陸のお米から作られた甘酒でも、原料や製法によって味わいも口当たりも大きく変わる。


お米の旨味をしっかり感じられるもの。絹のようになめらかなもの。そして、深いコクと懐かしさを感じさせるもの。


それぞれに個性があり、どれも甲乙つけがたい美味しさだった。


もちろん、三人とも心の中では、自分の選んだ甘酒が一番だと思っていた。


それでも、口から出てくるのは同じ言葉。


「美味しいね!」


顔を見合わせた三人は、思わずくすっと笑い合った。


こうして私たちは、岩瀬の古い街並みと北陸の味覚をたっぷり満喫した。


美味しいものを食べて、街を歩いて、新しい発見をして。


そんな贅沢な小旅行は、最後まで和やかな笑顔に包まれていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。