第21話『揚げたての正義と、ジタバタする地底人』
放課後、あやちゃんが私の机までやってきた。
「さわちゃん、一緒に帰ろ!」
「ちょっと待って。これを職員室に持っていけば、今日の提出物は終わりだから――よし、行こっか!」
私は最後の書類を手に、教室を出る準備をした。
「あ、そうだ。今日は部活も休みだし、いつものところに行かない?最近行けてなかったし、そろそろあそこの味が恋しくなってきたんだよね」
あやちゃんの提案に、私はすぐにうなずいた。
学校からの帰り道を少し外れたところにある『モリマート』。
ここは、地元の人々に愛されている個人経営のスーパーだ。
店の奥には精肉と鮮魚のカウンターがあり、お肉をグラム単位で買えたり、その場で揚げてもらえる惣菜があったりする。知る人ぞ知る、学生にとって心強い味方なのだ。
店に入ると、揚げ物の香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「ああ、この匂い!これだけでお腹が空いてくるね!」
「わかる。おばちゃん、こんにちは!」
「あら、お姉ちゃんたち、いらっしゃい。今日は何にする?」
「いつもいい匂いですね!私はコロッケお願いします。さわちゃんはどうする?」
「私も同じく、コロッケで!」
「はーい、ちょっと待っててね。先にレジでお会計してきてちょうだい」
金額の書かれた紙を受け取り、レジで支払いを済ませてカウンターへ戻る。
「はい、お待ちどうさま!」
おばちゃんから、揚げたてのコロッケが包まれた紙袋を受け取った。
私たちはそのまま店先の軒下に陣取る。
「いただきまーす!」
あやちゃんと声をそろえ、さっそくかぶりついた。
サクッ!
軽やかな衣を噛みしめると、中からしっとりとしたじゃがいもの甘みが広がった。揚げたての熱気とともに、香ばしい匂いがふわりと立ち上る。
「んんーっ、やっぱり美味しい!この衣の香ばしさと、じゃがいものホクホク感がたまらないよね!」
「あー、幸せ……。ねえ、もう一個いっちゃう?」
「……私は、次はメンチカツにしようかな」
「いいね!私も!」
私たちは顔を見合わせると、再び店内へと戻った。
「おばちゃん、すみません!さっきの追加と、あとお土産用にメンチカツとコロッケを一つずつ包んでもらえますか?」
おばちゃんは注文を聞きながら、にやりと笑った。
「おやおや、お家にお土産かしら?」
「はい。食いしん坊がうるさいので」
あやちゃんがくすっと笑う。
「さわちゃんは本当にお姉ちゃん子だよねぇ。私もお姉ちゃんか妹がいたらよかったな」
「いやぁ、あんなのに振り回されて大変だよ」
「でも、さわちゃん、すごく楽しそうに見えるけど?」
「……そうかな?」
思わず言葉に詰まる。
あやちゃんは何も言わず、意味ありげな笑顔を浮かべていた。
やがて追加の揚げ物が出来上がり、私たちは包みを受け取った。
さっそくメンチカツを手に、再び歩き出す。
「はぁー、コロッケも美味しかったけど、このメンチカツも大正解……!」
サクッと衣を噛み破ると、熱々の肉汁がじゅわっとあふれ出した。
「衣はサクサクなのに、中はジューシー!噛むたびに肉の旨味が広がってくる……!」
「あー、わかる!モリマートの揚げ物はマジで正義だわ……」
二人して、しばらく幸せを噛みしめる。
お腹も心もすっかり満たされ、私たちは満足感に包まれながら家路についた。
「ただいまー」
「おかえりなさーい!」
リビングの扉を開けた途端、待ち構えていたかのようにミナカが飛びついてきた。
「はい、お土産。モリマートのコロッケとメンチカツだよ」
「わぁ……! 食べてみたかったのよね!いつもさわが自慢するから……!」
「自慢なんかしてないでしょ!事実を語っただけ!」
「まあ、細かいことはどうでもいいわね。いただきます!」
ミナカは両手に持ったコロッケとメンチカツを交互に見つめた。
どちらから食べるべきか、一瞬だけ真剣に悩んだあと、まずはコロッケにかぶりつく。
「――っ! な、なにこれ……!サクッとした衣と、じゃがいもの優しい甘さが絶妙に融合しているわ……!口の中で一体感が……モゴモゴモゴッ!」
「コラ、食べながらしゃべらないの!はい、お茶」
私は慌ててお茶を差し出した。
「ありがと……。ゴクゴク……。ぷはぁ……。では、次はメンチカツね!」
今度はメンチカツにかぶりつく。
「こっちは衣の香ばしさと、肉の旨味のコラボレーション……!噛んだ瞬間にあふれる肉汁!そして、その旨味を吸い込んだ衣の愛おしさは何なの、これ……!」
ミナカは目を輝かせ、ひとしきり感動の食レポを繰り広げた。
ところが、次の瞬間。
すっと真顔になったかと思うと――。
バタッ!
リビングの床にうつ伏せになり、両手足をジタバタと暴れさせ始めた。
「さわは、ズルい!ズルいっ!」
「なんでそんなに暴れるのよ! ちゃんとお土産を買って帰ってきたでしょ?」
「そうじゃないの!」
ミナカは床に頬を押しつけたまま、じたばたと手足を動かす。
「揚げたての、あの熱々の感動を……!私を置いて、現地で独占していたなんて……!」
「独占してるわけないでしょ!ミナカちゃんも行けばいいじゃない……」
「だってぇ……!」
今度は腹ばいのまま、オイオイとわざとらしく泣きまねを始めた。
それでも、ときどきこちらをちらちらとうかがっているあたり、どう見ても演技である。
「だって……!」
ミナカは床からひょこっと顔を上げ、潤んだ瞳で私をじっと見つめた。
「……だって、さわと一緒に、あの揚げたての感動をその場で分かち合いたかったんだもん!」
(……くっ! なんだろう。ミナカ、ずるい気もするけど……可愛いところもあるじゃない……)
私は思わず口元を緩めてしまった。
こうして、いつの間にかすっかり丸め込まれた私は、
「今度は一緒にお店へ行こうね」
と約束してしまうのだった。




