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指輪で空を飛ぶ自称エリートエルフ型地底人ですが、グルメのために地上の女子高生の家で居候始めました  作者: 空気人形


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第18話『黒い帝王と、最高の相方』

ついに来てしまったわ……。


富山市内。昔ながらの商店や飲食店が軒を連ねる一角に、その店はあった。


ひっそりと佇んでいるにもかかわらず、圧倒的な存在感を放つ店構え。


その前に立つミナカは、小さく息を吸い込み、気合を入れるように拳を握りしめていた。


「私には、いずれ立ち向かわなくてはならなかったのよ……!富山グルメの原点にして頂点!幾多の猛者《チャレンジャー》たちを返り討ちにしてきたという、この漆黒の魔城に!」


――話は、数日前にさかのぼる。


大学のサークル部室でのことだった。


「ねえ、ミナカちゃん。富山に住んでるなら、当然あそこのブラックラーメンにはもう挑戦したよね?」


サークルの先輩が、何気なく口にしたその一言。


しかし、それはミナカのエリートとしてのプライドに火をつけるには十分だった。


「……私に、負けなど存在しないわ」


「いやあ、あれはなかなか手強いよ。俺も最初はギブアップしかけて、助けを借りたくらいだからね」


先輩は、どこか遠い目をしながら語った。


「ブラックラーメンを制覇して、ようやく一人前ってところかな」


「そうそう。初見であの味に立ち向かうのは、なかなか厳しいよ」


先輩たちから次々と浴びせられる言葉。


それは、彼らなりの助言だったのかもしれない。


だが、ミナカの耳には、もはや挑戦状としか聞こえていなかった。


こうして彼女の中で、ブラックラーメンとの対決は、いつしか絶対に負けられない運命の決戦へと昇華されていたのである。


*


「いらっしゃいませー!」


威勢のいい掛け声に迎えられ、ミナカはごくりと生唾を飲み込みながら、古びた引き戸を開けた。


「お一人様ですか?カウンターの端へどうぞ!」


「は、はい……!」


店内には、醤油の香ばしい匂いが立ち込めていた。


カウンターの向こうでは、店主が手際よく麺を茹で、巨大な平ざるで湯切りをしている。


その鮮やかな職人技に目を奪われながらも、ミナカは意を決して手を挙げた。


「す、すみません……!ブラックラーメン、ひとつお願いします!」


注文を済ませた瞬間から、心臓の鼓動が早鐘を打ち始めた。


料理が運ばれてくるまでの時間さえ、古代の迷宮に足を踏み入れたかのような緊張感に満ちている。


――我が故郷の神秘的な魔導具の精製に比べれば、造作もないはず……。


しかし、この「食文化の壁」は、いったいどれほどの高さなのかしら……!


「お待たせしました!ブラックラーメンです!」


威勢よく目の前に置かれた一杯。


立ち上る熱々の湯気の向こうで、漆黒のスープがミナカを挑発するかのように輝いていた。


「なっ……!?」


思わず息を呑む。


丼の中のそれは、ただのスープとは思えなかった。


まるで溶けた黒曜石。あるいは、夜の闇そのものを閉じ込めたかのような、深く黒々とした色合い。


その中から顔を覗かせるのは、硬めのストレート太麺。


濃口醤油の濃厚な色と香りをまとい、粗切りのネギと粗挽き黒コショウが、ただならぬ存在感を放っている。


さらに、しっかりと味の染み込んだメンマと、存在感のあるチャーシューまで鎮座していた。


まさに、王者の風格。


「……ふっ。受けて立つわ!」


ミナカは割り箸をパキッと割り、気合を込めて麺をすくい上げた。


漆黒のスープをまとった太麺から、香ばしい醤油の匂いが立ち上る。


そして、一気に口へと運んだ。


瞬間――!


「っっっ――!?」


脳天をガツンと殴られたかのような衝撃が走った。


強烈な醤油の塩気が、舌の上に容赦なく押し寄せる。


さらに、粗挽き黒コショウの刺激が追い打ちをかけた。


「しょ、しょっぱい……!でも……なに、これ……!」


思わず顔をしかめる。


それなのに、ミナカの箸は止まらなかった。


強烈な塩気の奥から、豚骨や鶏ガラの深い旨味とコクがじわじわと広がってくる。


しょっぱい。なのに、美味しい。


そして、気づけば次の一口を求めてしまう。


「はふっ、熱っ……!しょっぱ……美味しい……っ!」


ミナカは夢中で麺をすすった。


しかし、食べ進めるにつれて、唇が乾いていくのを感じた。


たまらず、グラスの水を一気に飲み干す。


そのときだった。


ミナカの脳裏に、先輩たちの言葉が鮮明によみがえった。


――あれは単品で完結する料理じゃない。


――白米と一緒に食べてこそ真価を発揮する、いわば不可分の相棒《バディ》なんだ。


「……なるほど。そういうことね」


ミナカの瞳が、はっと輝いた。


「ラーメン単体でも完成された料理。しかし、ライスと組み合わせることで、真の力を発揮する……!つまり、相方が必須の構成だったのね!」


彼女はすかさず、カウンターの向こうの店主に手を挙げた。


「すみません!ライス、追加でお願いします!」


「はいよ!ライスお待ち!」


すぐに運ばれてきたのは、湯気の立つ真っ白なご飯だった。


その瞬間、ミナカの中で何かのタガが外れた。


――覚醒。


まずはレンゲでスープをひと口。


濃厚な醤油の旨味を確かめた直後、熱々のご飯を頬張る。


「……っ!」


思わず目を見開いた。


塩気の強いスープと、噛むほどに甘みが広がる白米。


それぞれ単独でも美味しい二つの味が、口の中で合わさることで、互いの魅力を引き立て合っている。


「こ、これは……!」


続いて、スープの旨味を吸ったチャーシューを頬張る。


そして、ご飯。


麺をすすり、スープを味わい、またご飯をかき込む。


「美味しい……!美味しすぎる……ッ!」


炭水化物と塩気が織りなす、抗いがたい美味しさの連鎖。


先ほどまでミナカを苦しめていた強烈な塩気は、白米という最高の相棒を得たことで、むしろ食欲を刺激する魅力へと変わっていた。


「ふふふ……これこそが真骨頂……!」


もはや、先ほどまでの緊張感はどこにもない。


ミナカは夢中で箸を動かし続けた。


麺も、チャーシューも、メンマも。


そして、茶碗に盛られた白米も。


一口たりとも無駄にはしない。


その食べっぷりは、まさに独壇場だった。


これは私の完全勝利ね!


そう確信しかけたミナカの目に、ふと気になる文字が飛び込んできた。


「……生卵?」


メニューに書かれたその文字を見つめ、ミナカは首を傾げた。


(何かしら?ラーメンに生卵を落として、月見うどんのようにするのかしら?)


気になったことは確かめずにはいられない。


ミナカは店員に声をかけた。


「すみません!生卵って、どうやって食べるのかしら?」


「ああ、溶き卵にして、すき焼きみたいに麺をつけて食べるんですよ。味がまろやかになるって人気なんです」


「なるほど……!それはぜひ試してみたいわ。生卵をお願いします!」


危うく、最高の出会いを逃すところだったわ……。


ほどなくして運ばれてきた生卵を、ミナカは手早く溶いた。


そして、麺を箸で持ち上げ、卵にくぐらせてから口へ運ぶ。


「……っ!」


思わず、目を見開いた。


醤油の強烈な塩気が、卵のまろやかさによって和らいでいく。それでいて、ブラックラーメンならではの濃厚な旨味は、しっかりと感じられた。


(この塩気があるからこそ、卵の優しさが際立つのね……!)


味わいを損なうことなく、食べやすさまで引き出してくれる。


「なるほど……!舌にも、初心者にも優しい。よく考えられた食べ方だわ!」


ミナカは感心しながら、再び麺を卵にくぐらせた。


白米との組み合わせだけでも十分に感動していたのに、こんな楽しみ方まであったとは。


富山ブラック、恐るべし……!


やがて、丼の底に描かれた文字がゆっくりと姿を現す。


「ふうっ……!」


ミナカは満足げに息を吐き、そっと箸を置いた。


「……ごちそうさまでした!」


見事、ブラックラーメンとの真っ向勝負を制したのだ。


心の中で勝利の旗を高々と掲げ、ミナカは誇らしげな足取りで店を後にした。


夕暮れの富山市内に、彼女の満足そうな笑みが溶け込んでいく。

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