第16話『公園遊びの女王と、駄菓子屋の死闘』
高校からの帰り道、公園の横を通りかかると、子どもたちがワイワイと遊ぶ賑やかな声が聞こえてきた。
私にも、あんな頃があったよなぁ。
つい最近のことのような気もするし、ずいぶん昔のことのような気もする。
そんなことを考えながら、公園の様子を眺めていると……。
「ミナカちゃん!?」
子どもたちに混じって、無邪気に遊んでいるミナカの姿があった。
私はすぐさま公園に駆け込み、声を張り上げた。
「ちょっと!ミナカちゃん、何やってるの?」
「あら、さわじゃないの。子どもたちのこの遊戯も捨てたものではないわね。なかなか計算し尽くされているわ」
いや、何を偉そうに分析しているのよ。
「ミナカお姉ちゃん!この人、誰?」
周りにいた子どもたちが、不思議そうに首を傾げた。
「私の妹のさわよ。さっ、さわも缶蹴りに参加しなさい」
「いいね!お姉ちゃんも一緒にやろーよ!」
子どもたちに手を引かれ、私たちは急遽、缶蹴りに参加することになった。
「じゃあ、私が鬼ね?」
ミナカが鬼だというのなら、話は別だ。
こうなったら、かつて『公園遊びの女王』と呼ばれた私の実力を見せつけて、ミナカをぎゃふんと言わせてやろう!
「【センソリアウ】。どこにいる……?」
『感知しました。滑り台の裏、入り口近くの木の陰に二人。トイレの裏にも一人います』
「けんた、なぎさちゃん、しょう、こうた、見つけた!」
ミナカは次々と隠れている子どもたちを見つけ出し、缶を踏んだ。
「またすぐ見つかっちゃったよ……。残りはさわ姉ちゃんだけだ!」
「頑張ってー!」
子どもたちの声援を背中に受けながら、私は必死に身を潜めた。
いや、ちょっと待って。
これ、指輪を使っている時点で勝負になっていないんじゃない?
そんな疑念を抱きつつ、植え込みの陰で息を潜めていると、ミナカがこちらをじっと見つめた。
ガサッ。
植え込みが揺れる。
「甘いわね!さわ、見つけ……っ」
『それは、さわではありま……』
「にゃお」
――猫!?
「甘いわね、ミナカ!私の勝ちよ!」
ミナカが反対方向へ走っていくのを確認し、私は一気に缶めがけて飛び出した。
勝った!
そう確信した、その瞬間。
「はい、さわ、見つけた」
いつの間にか、ミナカが私より先に缶を踏んでいた。
「なんでミナカがここにいるのよ!」
「いつから、私があの方向へ走っていったと錯覚していた……?」
「何よ、その死神チックなセリフは! しかも、そのポーズはどこかのスタンド使いみたいじゃない!」
「ふっ。ちょっと普段の加速より強めにした、いわゆるテレポーテーションを使っただけよ」
「何やってるのよ、大人げない!」
「お姉ちゃんなんだもの。妹には負けられないわ」
……地底人って、みんなこんな感じなのかしら。
これじゃあ、地底に住む自信なんてまったく湧いてこないわよ。
「楽しかったー!ミナカお姉ちゃん、さわお姉ちゃん、駄菓子屋行こーよ!」
「駄菓子屋?」
「ミナカお姉ちゃん、知らないの?近所にある『そら屋』だよ。行こうよ!」
興奮冷めやらぬ子どもたちに手を引かれ、私たちはそのまま駄菓子屋へ向かうことになった。
*
「ここがそら屋だよ!」
子どもたちに案内された先には、「営業中」と書かれた赤い幟がはためく、コンテナハウスの駄菓子屋があった。
「懐かしいなー。まだやってたんだね。おばあちゃん、元気かな?」
「はい、みんないらっしゃい!おや?今日はお友達を連れてきてくれたのかい?」
店先に立っていたのは、昔よく見かけたおばあちゃんの面影を残す女性だった。
「あの、もしかして、おばあちゃんの娘さんですか?」
「あら、母の頃によく来てくれていた子かい?今は私が後を継いで、この店をやっているのよ。母もたまに顔を出すから、また会いに来てあげてちょうだい。きっと喜ぶわ」
「はい!ありがとうございます!」
懐かしいなぁ。
そう思いながら店内を見渡して――。
いや、ちょっと待って。
進化してる!?
私が子どもの頃には見かけなかった商品が、棚にずらりと並んでいる。
『沼るカスタードキャンディ』に、『大人のねるねるねるね』……。
駄菓子の世界も、時代とともに進化しているらしい。
「これが駄菓子というものなのね! こんなに安価なのに、この緻密なラインナップ……。子どもにとって、まさに天国と言っても過言ではないわね……!」
ミナカは目をキラキラさせながら、棚の商品を食い入るように見つめていた。
その様子を見て、私はふと思いついた。
「ねぇ、ミナカ!私たちで二回戦を始めない?」
「二回戦?」
「そう!題して、『駄菓子300円で子どもが最高に喜ぶ構成対決』!もちろん、指輪は使用禁止ね!」
「さわも懲りないわね。いいでしょう。お姉ちゃんというものは、いついかなる勝負でも勝つからお姉ちゃんなのよ!」
「何それ!絶対に負けないからね!」
こうして、私たちの熱い追加バトルが、再び幕を開けたのだった。
*
「買い終わったよ!」
「私もよ。では、お互いのリストを確認しましょうか」
「まずは私からね!」
私は自信満々に、買った駄菓子を並べていった。
うまい棒(めんたい味)、ベビースターラーメン(チキン)、ポテトフライ(フライドチキン味)、キャベツ太郎、蒲焼さん太郎、ブラックサンダー、ヤッターめん、ふ菓子、コーラシガレット、さくらんぼ餅。
「どう?これぞ王道!子どもたちの心をつかむ、鉄壁の布陣よ!」
まずは、スナック四天王!
うまい棒、ベビースター、ポテトフライ、キャベツ太郎。駄菓子界の主役級が勢揃い。ピリ辛、チキン、ソース、香ばしさと、それぞれ違った味わいを楽しめる、まさに隙のないラインナップだ。
そして、甘味と酸味の絶妙な緩急!
しょっぱいスナックの合間には、ブラックサンダーの濃厚なチョコレートとザクザク食感。ふ菓子の優しい黒糖の甘さ。コーラシガレットの爽やかな風味が待っている。
さらに、さくらんぼ餅の甘酸っぱさが加われば、最後まで飽きずに食べ進められる味のループが完成する。
もちろん、味だけではない。
ヤッターめんには、当たりが出るかもしれないというドキドキ感がある。コーラシガレットをくわえて、ちょっと大人になった気分を味わう楽しさもある。さくらんぼ餅を爪楊枝で一つずつ刺して食べる、あの小さな喜びだって忘れてはいけない。
つまり、私の構成は――。
「味覚だけじゃない!ワクワクと懐かしさまで詰め込んだ、子どもの夢と大人の計算が完璧に調和したラインナップなのよ!」
我ながら、完璧なプレゼンだ。
さて、対するミナカはというと。
どこか得意げな笑みを浮かべながら、自分の戦利品を並べ始めた。
うまい棒(コンポタ味)、テキサスコーン(たこやき味)、カットよっちゃん、餅太郎、モロッコヨーグル、フエラムネ、ブタメン(カレー)。
「ふふん。私のセレクションのコンセプトを教えてあげるわ」
ミナカは腕を組み、堂々と胸を張った。
「まずは、粉もん・ソース・スナックの圧倒的安心感!テキサスコーン、餅太郎、うまい棒のコンポタ味。『これぞ駄菓子!』という香ばしいスナックを網羅した、満足度の高い構成よ!」
うん。確かに、駄菓子らしいラインナップではある。
「次に、酸味と甘味のアクセント。カットよっちゃんの甘酸っぱさと、モロッコヨーグルの独特のコクが、スナックの塩気や油っぽさを和らげてくれる。フエラムネの優しい甘さも加わって、味に変化をつけているわ」
なるほど。ちゃんと考えているらしい。
「さらに、音と遊びの要素も抜かりない!フエラムネをピーピー鳴らしたり、モロッコヨーグルを小さな木のヘラですくって食べたり……。味だけではなく、体験そのものを楽しめる仕掛けも押さえてあるのよ!」
ミナカはそこで一度、言葉を切った。
そして、最後の一品を指差す。
「そして、締めはブタメンのカレー味!駄菓子の枠を超えたスパイシーさまで楽しめる、まさに最強の構成よ!」
「なるほど……」
悔しいけれど、なかなか筋が通っている。
「さて、この300円の小宇宙。どちらの勝利になるかしら?」
ミナカが子どもたちに問いかける。
子どもたちは二人の駄菓子を見比べ、顔を見合わせた。
そして、声をそろえて答えた。
「「「どっちもおいしいから、どっちも勝ち!」」」
「……ふふっ」
思わずミナカと顔を見合わせ、笑ってしまった。
そっか。
どちらが勝つかより、みんなで好きな駄菓子を選んで、こうして盛り上がることのほうが大切なのかもしれない。
「ということは、お姉ちゃんポイントの差で私の勝ちね!」
「なんのルールなのよ!」
……やっぱり、そんな殊勝なことを考えた私が間違っていた。
「次の対決は、鬼ごっこかしら? 私の影分身が唸るわよ!」
「ミナカ!また勝手に私の部屋に入って漫画を読んだでしょ!」
「さわのものはお姉ちゃんのもの。お姉ちゃんのものはお姉ちゃんのものよ!」
「はぁ……もう、いいです!」
日の沈みかけた公園に、私の絶叫が響き渡った。




