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悪夢から目覚めたわたしは、気付かないふりをやめることにした。  作者: ふまさ


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6

 いつもより寝台に入る時間は遅かったものの、寝る前にうだうだと悩み、無駄に哀しんでいたこれまでとは違い、悪夢のおかげでどこか吹っ切れたオリヴィアは、久しぶりに熟睡することができた。


 おかげで早起きができたオリヴィアは、紅茶をゆるりと味わいながら、食堂にて、デイルとグレースを待っていた。


 窓の外を見上げれば、空は晴れ渡っていて。グレースが王都にきてから、こうして大好きな紅茶をゆっくり味わうことも、天気を眺めることも忘れていた自分に、気がついた。


 ただの夢なのに。思い出すだけで、家族とデイルを、嫌悪できる。そしてどうしてあそこまで冷たくされながら、デイルに依存、執着できていたのか、もうわからなくなっていた。


 我ながら単純だとは思うが、これでよかったと、常にあった胸の中の、嫉妬などのどす黒くて重いものが消えたことから、心から思えた。


 やがて。


 食堂に二番目にやってきたデイルが、どこか気まずそうにあいさつをしてきた。一応は、オリヴィアに対する罪悪感があるのかとも思ったが、もはや、どうでもよかったので、なにも聞かなかった。


「おはよう。よかったわ、先にあなたが来てくれて。これから、昨晩の話をグレースにもしようと思っていて。いいわよね?」


「そ、そうか。でも……グレースがぼくを想ってくれているかどうか。それに、彼女は優しくて、きみのこと大好きだから、気持ちを隠そうとするかも……」


 どこまでいっても心配するのはグレースの方なのねと、オリヴィアは冷えた心で思った。


「きっと大丈夫よ。当事者のわたしが、二人のことを応援しているんだから」


「……そうかな。そうだといいけど」


 うじうじするデイルに、若干、オリヴィアが苛ついてきたとき。


 がちゃ。

 食堂の扉が開いたのは、そのタイミングだった。


「へへ。今日はあたしが最後だったみたいですね」


 舌をぺろっと、淑女にあるまじき行いをしながら、グレースがテーブルに近付いてくる。そこで、グレースは、はてと首をひねった。


「お義姉様。そこはあたしの席ではありませんか?」


 そこ、とは。デイルの真正面ではなく、いつもグレースが座っていた、デイルから見て左斜め前の席だった。オリヴィアは始めから、そこでお茶をしていた。


 配膳をする使用人にも、そこでよいのですかと聞かれたが、オリヴィアは、ええ、と笑い「後でわかるわ」とだけ答えていた。


 だからだろうか。使用人たちが、オリヴィアたちの会話に耳をすませているのが伝わってきた。


「そうね。でもね、今日からあなたの席は、ここになるのよ」


 そう言って、オリヴィアはデイルの正面の席を指差した。


「え? どういうことですか?」


 オリヴィアはそっとデイルの様子をうかがったが、デイルは下を向いたままだったので、早くすませたかったオリヴィアが、仕方なく口火を切った。こんなに情けない男だったのねと、内心でため息をつきながら、ではあったが。


「グレース。わたしはね、あなたとデイルには、絶対に幸せになってもらいたいの」


 グレースが照れたように、きゃっと両手で自身の頬を包んだ。


「やだ、お義姉様ったら。突然どうされたのですか?」


「わたし、気付いてしまったの。グレースとデイルが、想い合っていること」


 グレースはぎょっとしたように、全身を揺らした。動揺から、目を前後左右に動かす。なんてわかりやすいのかしら。オリヴィアは胸中で呟いた。


「そ、そんなこと」


「昨晩、デイルの気持ちを確かめたわ。そしたら、デイルはあなたを愛していることを、正直にわたしに打ち明けてくれたの。わたしはそれが、とても嬉しかった」


 グレースが、目を大きく瞠る。なんで、と首を捻っている。


「……嬉しかったのですか?」


「ええ。だってそれは、わたしを信用してくれている証だもの。嘘をつくことだって、できたはずなのに」


「……でも」


「そうね。二人はわたしを傷付けまいとしてくれていたのよね。でもわたし、二人の幸せの邪魔をしたくないの」


「じゃ、邪魔だなんて思ったことないです!」


「ありがとう。その言葉だけで充分よ」


 グレースが「お、お義姉様……」と、ぐすっと鼻をならす。下手な芝居を見ているようで、オリヴィアの心が冷えていく。しかし、笑顔は決して崩さない。


 この気持ちの悪い二人との会話を、一刻も早く、終わらせたかったから。それには、二人が愛し合っているという言質が、この場で、どうしてもとりたかった。


「いくらわたしたちが貴族でも、やっぱりお父様とお義母様のように、愛し合う者同士が一緒になったほうが、みんなが幸せになれると、わたしは思う。グレースはどうかしら」


 優しく、優しく問いかける。警戒心を抱かれないように気をつけて。するとグレースが「……はい」と、悦に入ったように、胸の前で手を組んだ。


「あなたは、デイルを愛している。そうよね?」


 オリヴィアの質問に、グレースが、はい、と重ねる。次にオリヴィアは、デイルを視線を移した。


「デイル。あなたも、グレースを愛しているわよね?」


 デイルは顔を上げ、ゆっくりと、迷いながらも、最後には幸せそうに、ああ、と答えた。



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