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悪夢から目覚めたわたしは、気付かないふりをやめることにした。  作者: ふまさ


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 オリヴィアだけでなく、デイルまで変わってしまったことに耐えられなくなったグレースは、次の日、誰にも、デイルにさえなにも言わず、黙って学園から姿を消した。


 婚約者であるデイルは、教師から呼び出され、なにか心当たりはありますかと聞かれた。デイルは「両親のところに帰ったのだと思います」と、なんら慌てることなく答えた。


 その根拠は、昨日。


『……お父様とお母様に会いたい』


 そう、グレースがもらしていたからだったが、おそらくは正解だろう。グレースが頼れる者など他にいないのだから。


 グレースが黙っていなくなったことについて、デイルは自分でも驚くほど、冷静だった。心配などの感情は、一切湧いてこなかった。どころか、せいせいしていた。


 グレースがいなくなって、学園で話しかけてくる者は誰もおらず、真の孤独を味わうことになったデイル。遠巻きに、何度かオリヴィアを見たが、オリヴィアはもう何年も見たことがなかった、懐かしい笑顔で、学友たちに囲まれていた。


(……ぼくは、グレースのいいところしか、見ようとしていなかったんだな。そして反対に、オリヴィアのことは、悪いところしか見えなくなっていたのかもしれない)


 放課後。寮の自室で一人、デイルは、ぼんやりと思った。

 

 グレースが明るかったのは、両親にとことん甘やかされ、愛されていたから。


 対してオリヴィアは、実母を亡くし、その実母のなにもかもを捨てられたあげく、乳母まで奪われていた。そしてグレースとは違い、そんな両親に心を許すことなどできなかっただろうに、それでもグレースのわがままをすべて聞いていたのは、両親が怖かったから。


 だからオリヴィアは、デイルに依存し、縋っていた──と、いまさらながらに、理解ができてしまった。


 グレースは満たされていたから、純粋無垢でいられた。明るかった。元平民だから友だちができないといつも嘆いていたが、王立学園の生徒の中には、元平民の者も、数は少ないがいるにはいる。


 確かに、差別し、蔑む者がいるのは事実だ。しかし、全員がそうではない。元平民であろうと、友だちがいる者はいる。


 そんなことに、オリヴィアと別れ、グレースと婚約してから、ようやく気付いた。


 元平民だからと、最初から卑屈になっているやつと、誰が友だちになりたいと思うのか。これでは母親を亡くしてから、いつも泣いてばかりいたオリヴィアより、ひどいではないか。


「──ああ、くそっ!」


 いままでオリヴィアが引き受けていたグレースのわがままが、そっくりそのままデイルに降りかかってくるようになり、グレースの本性のようなものが、徐々に見えてくるようになっていった。


 その最たるものが、試験勉強だ。グレースが王立学園に入学してから、二回の試験があったのだが。


『あたし、勉強は苦手で……』


 はじめは、そんなひと言からはじまった、勉強会。オリヴィアが自分より勉強が得意なのは──不本意ながら自覚していたので、グレースに時間を割くことで、オリヴィアが少しでも成績を落としたらいいのにと密かに願っていたデイル。馬鹿な男のプライドからくるものだった。


 三人一緒に勉強をしていても、デイルは自分の勉強に集中していた。けれどオリヴィアは、ずっとグレースにつきっきりで、勉強を教えていた。何度も何度も、同じ説明をするが、グレースは一向に理解した様子がない。


 それでも、何度教えても理解できないグレースより、どうしてかデイルは、オリヴィアに苛ついた。教え方が悪いと、本気で思った。ときには声に出して叱った。結果、一年のときと比べて、大幅に成績を落としたオリヴィアを、落ち込むその姿を見ても、なにも思わなかった。


 最低じゃないか、とはじめて思った。だって、グレースがあんなに馬鹿だとは思わなかったからと、言い訳をする。誰より二人を、間近で見ていたくせに。


「……どうしていまごろ気付くかな」


 ため息交じりに、デイルは独りごちた。これからグレースと、どう向き合っていけばいいか、わからなくなっていた。でも、グレースとの婚約解消はきっとかなわない。マケラ子爵が、それを許すはずがない。


 たとえグレースが婚約解消を望んでも、他にグレースと婚約したいと願う貴族令息はいないからだ。


 学園では完全に孤立し、貴族令嬢としての教養も知識もない。なにより、性格が終わっている。いくら顔がよくても、あれでは駄目だろう。


 それに、養子先を探してもらった恩もある。きっと、逃げられない。


「女子寮でもすぐ泣いて問題を起こしているって言うし……ぼくの評判も、グレースのせいでもう地の底だな」


 ♢♢♢


 それからグレースは、そのまま、追試を受ける日になっても、王立学園に戻ってこなかった。


 グレースの学力では、たとえ追試を受けたとしても、結果的には留年していたかもしれないが、それでも学園中で、前代未聞だと噂が広まった。


 その婚約者であるデイルも、好奇の目にさらされ、耐えられなくなったデイルは、学園を休むようになった。


 心配して、誰かが──オリヴィアかフィルが訪ねてこないかと密かに期待したが、誰も来ることなく、一週間がむなしく過ぎ去っていく中、デイルは一つ、大きな決断をした。


 

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