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オリヴィアは幸せだった。実母が生きていたときを除けば、いまが一番幸せだと自信を持っていえた。王都にまだグレースが来る前の、デイルと一緒にペルソン伯爵家の別邸で暮らしていたときより、オリヴィアは満たされていた。
おそらくどこかで、デイルがオリヴィアをずっと鬱陶しく思っていたことをうっすら感じていたのだろう。ただ、それすら気付かないふりをしていただけで。
(実母のものを捨てられ、マドリンと引き離されたことも話せず、小さい頃は依存して、泣いてばかりいたものね。いま思えば、デイルがグレースに惹かれてしまったのも、仕方のないことだったのかも)
あれからデイルとグレースは、話しかけてもこなければ、近付いてもこなくなった。時々、グレースがなにか言いたげにこちらを見てくることはあるものの、デイルがそれをやんわりと止めていた。
正直、それはとてもありがたかったので、オリヴィアは心の中で、素直にデイルに感謝していた。
マドリンの甥っ子であるフィルとは、時々、マドリンを交え、お茶をしている。これまであまり接触しない方がいいからと、オリヴィアとの会話を意図的に避けていたが、もうその必要もなくなったからと、学園でも頻繁に会話をするようになった。
お互い恋人も婚約者もいないので、なんの気兼ねもいらなかったから。
そして、グレースが来てからというもの、学園で少し浮いた存在になりつつあったオリヴィアだったが、夏期休暇のあいだにデイルとは婚約を解消し、グレースとも家族ではなくなり、物理的にも距離をとるようになったオリヴィアに、クラスメイトたちは以前のように、オリヴィアに話しかけてくれるようになっていった。
いろいろあって、心が折れそうになったこともあったが、結果的に、こうなって良かったと、心から思った。
──いた、のだが。
♢♢♢
夏季休暇が終わってから、はじめての試験が行われた。数日間続いた試験が終わり、その結果が、学園の廊下に大きな紙で張り出された。
オリヴィアは緊張しながら、学友のポーラたちと結果が張り出されている廊下に向かった。張り出された大きな紙には、各学年の、各クラスの、上位十名の者の名前が書き連ねられていた。
「すごいわ、オリヴィア様! ほら、九位ですわよ!」
「……っ!」
ポーラが、自分のことのように喜んでくれる。オリヴィアはその結果にほっとしつつも、喜びと感謝で目頭が熱くなった。
(……ああ、良かった。マケラ子爵家から離れるのがあと少し遅れていたら、取り返しがつかなかったかもしれない)
ポーラだけでなく、他のクラスメイトたちも、良かったですねと、すごいですわと、褒めてくれる。
そんな中。
「え、うそ……追試の人がいる。こんなの、はじめて見ましたわ」
成績優秀者の名前が書かれているものとは違い、それは一枚の、よく見る書類の大きさの紙で。以下の者は追試とする、と書かれた下には、一人の名前があった。
──グレース・マケラ、と。
まわりの生徒たちがざわつく。確かにオリヴィアも、追試とされる人を、学園に入学していらい見たことはなかったが、そこまでの驚きはなかった。
なんとなく、そんな予想はしていたから。
遅れて、話題の人物であるグレースとデイルが、連れ立ってやってきた。そして、追試の者の名前が書かれた紙に気付いたグレースが「……?」と、その紙を二度見していた。言葉にしないまでも、なんで、と顔にありありと書いてあるようだった。
デイルはといえば。驚きより、呆れたような、苛ついているような、そんな表情をしていた。
オリヴィアはそんなデイルの様子を見て、なにかを察したように、同情した。それと同時に、やっぱりこの人はなにもわかっていなかったのだという失望と、少しはあのときのわたしの苦労を理解してくれたのかしら、ということを思った。




