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悪夢から目覚めたわたしは、気付かないふりをやめることにした。  作者: ふまさ


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「……取り乱したところをお見せしてしまい、大変、申し訳ありませんでした」


 正気を取り戻したオリヴィアが、移動した応接室で、対面に座るペルソン伯爵夫人に頭を下げた。ペルソン伯爵夫人は、とても穏やかに笑っていた。


「いいえ。あなたがこんなに感情を表に出すのを見たのはナタリアが亡くなって以来でしたので、なんだか安心しました」


 温かい言葉に、またオリヴィアはじわっと涙を浮かべた。そんなオリヴィアの頭を、マドリンが優しく撫でてくれる。


 夢みたい。オリヴィアは思った。ここにお母様がいてくれれば、なんてわがままを少しだけ願ってみたが、たとえそれが叶わなくても、オリヴィアは幸せでいっぱいだった。


「──さて、オリヴィア。早速ですが、わたくしがマドリンさんと一緒にここに来た訳をお話ししますね」


 ペルソン伯爵夫人が、静かに口火を切った。そう。なぜかマドリンは、ペルソン伯爵夫人と一緒に、王都に来た。会えた感動でその理由をまだ聞いていなかったオリヴィアは、はい、と姿勢を正した。


 予想ができないので、ドキドキはしていた。でも、ペルソン伯爵夫人が優しい人だということは、もはや疑う余地はなかったので、ただ、なんだろうという気持ちで、言葉を待った。


「マドリンさんを、あなた付きの侍女として雇おうと思うのですが、どうでしょうか」


 にこっと笑うペルソン伯爵夫人に、オリヴィアは目を丸くした。横に座るマドリンを見ると、マドリンもまた、穏やかに微笑んでいた。


 現在、オリヴィアには、専属の侍女がいない。前までいた、マケラ子爵家に雇われていた侍女がいなくなったとき、ペルソン伯爵夫人は別の侍女をあてがおうとしたが、オリヴィアがそれを断ったのだ。


 ナタリアもマドリンもマケラ子爵邸からいなくなって以降、オリヴィアの扱いは、マケラ子爵たちだけでなく、使用人からも、悪くなった──というより、雑になっていった。なにかを頼むと、みんながあからさまに面倒そうにするのが嫌になり、どうしても手伝ってもらわなければならないとき以外は、すべて自分でするようになっていったから、専属の侍女がいなくても、とくに困らなかったのだ。


「マドリンさんには、移動途中ですでに意思確認はしています。どうです? あなたが良いなら、わたくしは正式にマドリンさんを雇うつもりです」


 どうしてこの人は、こんなに優しくしてくれるのだろう。どうしてマケラ子爵に脅されていたとはいえ、デイルの親だからと諦め、助けを求めてこなかったのか。信じられなかったのか。後悔というよりは、ペルソン伯爵夫人に対して、申し訳なくなってきた。


「良いのですか……?」


 ペルソン伯爵夫人が、少しおどけでみせる。


「あら。わたくしが提案しているのですよ? 良いに決まっているじゃありませんか。旦那様の許可も、ちゃんと得ていますしね」


「…………っ」


 オリヴィアは、感極まってまた泣いてしまったが、それでも「……はい、はい。お願いします」と、ペルソン伯爵夫人に返答した。


 その様子を誰もが温かく見守っていたが、その場には、デイルとグレースと一緒に、この屋敷で暮らしていたときのオリヴィアを見ていた使用人たちもいた。


 最初は、ペルソン伯爵家からデイルが除籍され、オリヴィアが養女となったことに混乱し、内心でオリヴィアを快く思っていなかった者も、少数ではあったが、いた。


 デイルがオリヴィアよりグレースを優先するようになっていったことや、デイルのオリヴィアへの対応が、段々と軽く、冷たくなっていた過程など、ある意味誰より身近で見ていたのもあって、デイルに非があるのはわかっていた。


 ペルソン伯爵夫人によって直々に、オリヴィアを養女とした理由も、デイルを除籍した理由も聞いたが、それでも、不満を持ったペルソン伯爵家の使用人たちにとっては、幼いころから傍にいて、仕えていたのは、デイルだったから。


 旦那様と奥様は、厳しすぎるのではないか。そう不満を持っていたある日。母親の肖像画を抱き締めて眠るオリヴィアを目にした。目に涙をためて眠るオリヴィアの姿に、不満を持っていたメイドは固まった。


 ペルソン伯爵夫人から、オリヴィアに肖像画をあげた理由をきちんと聞かされていたにもかかわらず、はじめてみたオリヴィアの涙に、その光景に、十も年が離れたこの子が、可哀想に思えてきた。


『元愛人と隠し子を突然連れて来られて戸惑うのはわかるが、みんなにあんなに優しくしてもらっているのに、どうしてあんなに悲劇ぶるんだか』


 かつてデイルはそう憤慨していたが、はたしてそれは正しかったのだろうかと、メイドは疑問を持ち始めた。


 思えば、養女となったオリヴィアは、あきらかに遠慮するようにこの屋敷で暮らしている。いくらデイルが最低な男でも、騙して押しのけて、無理やり養女になるなんてと思っていたが、オリヴィアに対しての怒りは段々と薄れていき、もっと頼ってもいいのにとすら、思うようになっていった。

 

 だから、ペルソン伯爵夫人に対して、お願いをするオリヴィアの姿に、はじめはオリヴィアを快く思っていなかった使用人たちも含め、全員がどこか、ほっとしていた。


 

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