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悪夢から目覚めたわたしは、気付かないふりをやめることにした。  作者: ふまさ


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「な、なんでここに……」


 近くに誰もいないことを確認していたからこそ、デイルはオリヴィアに強く出ていたのだろう。だからこそ、急に現れたフィルに、動揺を隠せない様子だった。はっと我に返ったデイルが、オリヴィアの手首から慌てて手を離す。


「お前が怒りの形相で、一人で図書館に向かうのを見かけたから、気になってな」


 フィルの台詞に、デイルはぎくりとした。図書館に向かうオリヴィアの背中を見つけたとたん、どうしようもない怒りがわき、ひと言だけでも文句を言ってやらないと気がすまないと、デイルは一人、オリヴィアを追いかけた。


 それは寮への帰り道で、グレースと一緒だったが、忘れ物をしたと嘘をつき、グレースには図書館の近くにあるベンチで待ってもらっている状況だった。


「……あとをつけてくるなんて、悪趣味だな」


 自分のしたことを棚に上げるデイルが唸るように呟く。フィルは呆れを交えた怒りを覚えたようだった。


「お前が言えた義理か。あとな、男爵令息。僕はきみとの縁は切ったはずだが?」


 暗に言葉遣いをあらためろと本日二度目の忠告を受けたデイルは、悔しさから、こぶしを強く握りしめた。


 フィルはそれを──デイルが男爵令息になったことを、噂で知ったのではない。デイル本人から、聞いたのだ。


 自分が悪いと思ってはいなかったからこそ、デイルは、唯一の学友であるフィルに、夏季休暇のあいだに起こったことを、馬鹿みたいにありのまま、すべてを話した。


 それを聞いたフィルは、きっぱりと言い切ったのだ。お前が全面的に悪い、お前とはもう縁を切る、と。


 デイルは訳がわからず、ぽかんとするしかなかった。なぜ縁を切られたのかわからないまま、それでもまた、すべてをオリヴィアのせいにした。


「……身分の差で友だちをやめるなんて、それこそ最低だと思いますけどね」


 見当違いなデイルの台詞に、なにもわかっていないのだとあらためて察したフィルは、目を吊り上げた。 


「お前との縁を切ったのは、起こったすべての出来事は自業自得なのに、反省するどころか、それでもオリヴィア嬢が悪いとお前が言ったからだ」


「……ぼくは悪くない! フィル、お前はなにを聞いていたんだ! ぼくはこいつにはめられて、家族をとられたんだぞ!!」


 フィルは大きく、深く、ため息をついた。


「デイル。お前はいったい、なにを望んでいたんだ。婚約者以外の女性を好きになり、優先し、婚約者には冷たくあたり、それでも貴族でいたいから、仕方なくオリヴィア嬢と結婚するつもりだったのか?」


「……そうするつもりだった。でも、オリヴィアがグレースとの仲を認めてくれたから。それなら、父上と母上に認められたうえで、好きな人と結婚できるかもしれないと思って」


「オリヴィア嬢に責められ、捨てられるとは、少しも考えなかったのか?」


 デイルがぐっと、唇を噛み締めた。


「オリヴィアはぼくに依存するほど、ぼくを愛していた。だから裏切るなんて、考えもしなかった。オリヴィアを信じたぼくが馬鹿だった」


 わかってはいたが、あらためてデイル本人に言葉にされると、悪夢を見る前の自分の愚かさと、デイルへの怒りで、オリヴィアの全身がぶるりと震えた。


「──人のせいにするな」


 静かな怒声は、フィルのものだった。


「なあ、デイル。こうならないためにも、オリヴィア嬢への態度をあらためた方がいい。愛情に胡座をかくな。大切にしろ。お前の婚約者はオリヴィア嬢であって、グレース嬢ではない。僕は何度も注意したな。何度も、何度も」


 フィルから激しい怒りを感じたオリヴィアは、驚いていた。そこまで関係が深くなかったフィルがここまで怒ってくれていることもそうだが、オリヴィアが知らないところで、デイルを注意してくれていた人がいたなんて、知らなかったから。


「……仕方ないだろ。だって、オリヴィアといるより、グレースといる方が、楽しいと思ってしまったんだから」


「なんの言い訳だ。勝手にもほどがある。愛する人とは結婚したいが、貴族でもいたい。お前は平民の子どもか? むしろ、あれだけオリヴィア嬢を蔑ろにしてきたのだから、こうなるように仕向けたのは貴様だろう」


「違う! 違う!」


「しかも、ペルソン伯爵家から除籍されるぐらいなら、我慢してオリヴィア嬢と結婚していた、だと? どこまで上から目線なんだ。呆れてものも言えん」


「ぬ、盗み聞きしていたのか?!」


「僕が近付く足音にも気付かないほど、興奮していたお前が悪い。それにあれだけ叫んでいたんだ。聞いていたのが僕だけとは限らないかもな」


「ぼくのせいにするな!」


「そっくりそのまま、お前に返す。いい加減、その口調をあらためないと、容赦しないが、いいか?」


 圧をかけられたデイルが、悔しそうに奥歯をぎりっと噛み締める。そんな二人のやり取りを、オリヴィアは少し距離をとって見ていた。


 あくまでデイルの──婚約者の学友という距離感での付き合いでしかなかったこともあり、フィルという人物のことを、オリヴィアはあまり知らなかった。なのにここまで感情をあらわにして怒ってくれるなんて、なんて正義感の強い方なんだろうと思った。


 でも、違っていた。


 オリヴィアはこのあとすぐに、フィルの怒りの訳を、知ることになる。



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