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「おはようございます、ポーラ様。いつからそこにいらしたのですか?」
オリヴィアが少し安堵したように問うと、ポーラは、最初の方からですわ、と笑った。
「とはいえ、状況はあまり理解できてはいませんけれど。とりあえずは、あなたがペルソン伯爵家の養女になったこと。そして、そこの愚かな二人と他人になれたというのは、聞き間違いではありませんよね?」
本当に最初から聞いていたようだと、オリヴィアは、ええ、と笑った。ポーラが、もう、と頬を膨らます。
「学友であるわたくしに黙って、水くさいですわね。夏季休暇のあいだに、いったいなにがあったのですか?」
「ふふ、ごめんなさい。王都に戻ってきたのが、昨日だったものですから。それに……わたしも、本音を言えば、こんなことになるなんて思っていなくて、実感があまりないのです」
オリヴィアのストレスのない口調に、ポーラは「いろいろあったみたいですわね。もちろん、あとで詳しく、お話は聞かせてくれるのですよね?」と、腕を組んだ。
「当然です。むしろ、ポーラ様には一番に聞いてほしいです。ポーラ様はいつも、わたしの代わりに怒り、そして、心配してくれていましたから」
「そこの伯爵令息と子爵令嬢には、いつも腹が立って仕方がありませんでしたもので」
「ああ、ポーラ様。いまのデイル様は伯爵令息ではなく、男爵令息です。まずはそこだけ訂正しておきますね」
「あら、まあ」
なにかを察したように、にやっと口角を上げるポーラに、オリヴィアがにこっと微笑む。それからオリヴィアは、グレースに視線を戻した。
「あなたはもう、なにも理解しなくていいですから、とにかくもう、二度とわたしに近付かないでください」
「……どうしてそんな酷いことが言えるんですか? あたしのこと、本当は嫌いだったんですか?」
目を潤ますグレースに、オリヴィアは嘘をつくことなく、はい、と答えた。グレースは目を瞠り、わあっと泣き声を上げながらデイルの胸に飛び込んだ。
そんなグレースを、デイルが強く抱き締める。可哀想にと、グレースの頭を何度も撫でる。
「……お前みたいな姉でも、まだ慕おうとしてくれているグレースに、なんてひどいことを……っ」
睨み付けてくるデイルに、けれどオリヴィアは、もう、なにも感じることはなかった。
「デイル様。あなたはグレース様と、とてもお似合いだと思います。どうか、お二人でお幸せに。そしてグレース様のためを想うなら、彼女に、もうわたしとかかわらない方がよいときちんと説得しておいてください」
「……ああ、よくわかったよ。きみがどれだけ最低な人間か、よく言って聞かせるとするよ」
「それから、学園の寮が狭いからと、ペルソン伯爵家の別邸に住みたいなどという無茶な願いも、もう言わないようにきちんと言い含めておいてください」
「……あれはぼくの屋敷だ! お前のじゃない!!」
「ええ、わたしの屋敷ではありません。ですが、あなたのものでもありません。あれは、ペルソン伯爵家のものです」
「よくも平然とそんなことを……この冷徹女めが……っっ」
ポーラに「言葉遣いには気をつけなさい」と注意されると、デイルは奥歯を噛み締めた。デイルは男爵令息で、オリヴィアはいまや、伯爵令嬢だ。
理解せざるを得ないデイルは、すみませんでした、と不本意だというように呟き、グレースを連れてその場を去って行った。
♢♢♢
教室に着くと、クラスメイトでもあるポーラに、オリヴィアは夏季休暇のあいだに起こった出来事を語った。教室内だったので、これらの話は、他の生徒の耳にも入っていたが、それはむろん、わざとだった。
グレースが王立学園に入学してから、少しずつ、グレースを優先するようなっていったデイル。あげく正式の場で婚約者であるオリヴィアを放ってグレースをエスコートしたデイルに、ポーラはオリヴィアの代わりに強く憤ってくれた。
しかしオリヴィアから、グレースに強く出られない理由──少し複雑な家庭の事情を聞かされていたポーラは、グレースに下手な口出しができず。
また、学園を卒業すれば、きっとデイルはまた、わたしだけを愛してくれるはずと、馬鹿みたいに信じ、依存していたオリヴィアが言うものだから、ポーラはデイルにも、ろくな注意ができずにいた。
思い返せば、見捨てられても仕方ないほど、ポーラには心配と苛々を長らくさせてしまっていた。依存から解き放たれたオリヴィアは、あらためて、ポーラに謝罪と礼を述べた。
ポーラは呆れ、少し怒りながらも、それでも最後は良かったですわと笑いながら許してくれた。
温かな心に、いかに自分の視野が狭くなっていたか、オリヴィアはあらためて思い知ったのだった。




