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「──お義姉様!」
寮からデイルと一緒に学園に歩いてやってきたグレースは、なんのためらいもなく、校内に入ろうとするオリヴィアの背中を見つけるなり、声をかけてきた。デイルは少しは止める意志はあったようで、手がグレースの背中に向かって伸ばされてはいた。
オリヴィアが、心底うんざりする。こうなる可能性を見越していたとはいえ、まさかあんな別れをしたあとで、何事もなかったかのように話しかけてくるとは。さすがはグレースねと、ある意味、感心してしまった。
「お義姉様、聞いてください。学園の寮って、とても狭いのです。だから、あたしやっぱり、前のお屋敷に戻りたくて」
鬼気迫る勢いでなにを言いだすかと思えば、これだ。デイルがうしろでギョッとしていたが、それは、当然の反応だろう。それでもグレースの性格を知り尽くしているオリヴィアに、鬱陶しさはあれど、驚きはなかった。
(これまでのわたしなら、グレースに頼まれたら、どんなに無茶な願いでも、叶えるしかなかったものね)
それは父親に屋敷を追い出されることに恐怖したからだったが、グレースがこんな風に育ってしまった一端は、自分にもあるのかもしれない。しかしそれについて責任を負うつもりは、もうなかった。
グレースがこれからどうなるのか、もう興味はない。遠慮もいらない。
「グレース様。あのお屋敷はわたしのものではなく、ペルソン伯爵家のものなんです。わたしの一存ではどうにもできません。ご理解ください」
真正面から、淡々と告げるオリヴィアに、グレースが一瞬キョトンとしてから、いやだわ、と笑った。
「たとえ、お義姉様がペルソン伯爵家の養女となってしまっても、あたしがお義姉様を慕う気持ちは変わりません。だからそんな他人行儀なことしなくていいんですよ」
オリヴィアはゆっくりと、否定するように首を左右にふった。
「わたしは、あなたとデイル様と、他人になりたいのです。ですからもう、こんな風に話しかけてこないでください。慕ってこられても、ただ、迷惑なだけです」
そんな返しをされるとは夢にも思っていなかったというように、グレースは目を見開いた。
「ど、どうしてですか?」
なんだか言葉の通じない外国の方と話している気分だわと、オリヴィアはため息をつきそうになった。
とっととこの元義妹から離れたかったが、とりあえず、通じるかはわからないが、どうして、というグレースの問いに、答えることにした。
「まず、あなたには、わたしから婚約者を奪ったという自覚はありますか?」
ここは、校舎の出入り口。登校してくる生徒たちが聞き耳を立てているのは承知の上で、オリヴィアは会話を続けた。遅かれ早かれこのことが噂で広まるのなら、ここで真実をぶちまけておきたかった。
「奪ったなんて、そんな……あたしとデイル様はあくまで、お義姉様のために、密かに想い合っていただけで……それを応援してるなんて騙して勝手に傷付いたのはお義姉様ではないですか……」
瞳を潤ませ、あくまで悪いのはオリヴィアだと主張するグレースに、オリヴィアは、はっきりと告げた。
「あなたたちはあれで隠しているつもりだったのかもしれませんが、ちっとも隠せていませんでしたよ」
「それはお義姉様の思い込みです!」
まだ反論してくるグレースに呆れながら、ちらっとデイルを見た。醜態を晒しているのはあきらかなのに、グレースを止めようとしないデイル。
同じ穴の狢とでもいおうか。
こうなったのはすべてオリヴィアのせいだという点では同意見なのか、デイルが、オリヴィアを睨み付けてくる。やはり、グレースを止めてくれる気配はなさそうだ。
少しでもグレースに話が通じると、そんなグレースをデイルは止めてくれるかもしれないと期待した自分が愚かだったと、オリヴィアはため息をついた。
さて、これからどうしてものか。無視して逃げても、追いかけてきそうだなとうんざりしたとき、後方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「相変わらず、会話が成立しないようで。ですが、ようやく最低な男と別れられたようで、安心しましたわ」
それは、オリヴィアのクラスメイトであり、学友である、伯爵令嬢のポーラだった。




