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「オリヴィア。あなたはどうしたいですか?」
自分のために誰かが本気で怒ってくれたのも、意思を聞いてくれたのも久しぶりで、オリヴィアの目頭がじんと熱くなる。
修道院に行きたい。という、移動の馬車の中で浮かんだ願いがふと脳裏を過ったが、それはあくまで、デイルと、マケラ子爵家から離れる手段として、それしかないと考えたからだ。
どうしたいか。本音は、叶うなら、別のところにあった。しかし、あまりに身勝手なそれに、さすがにオリヴィアは口に出すのを戸惑った。
「……わたし、は」
オリヴィアのその様子になにかを察したのか。ペルソン伯爵夫人が「大丈夫ですよ」と、笑った。
「わたくしは、あなたの味方です」
「……でも。おばさまの子どもは、やっぱりデイルだけだから」
オリヴィアの中で、親が愛し、優先するのは結局血の繋がった我が子なのだという思いが、これまでの年月から強く根付いてしまっていた。
だからオリヴィアは、密かに、マケラ子爵は本当の父親ではないのではないかと疑っていた。だから愛されないのは仕方ないのだと、無理やり納得させるために。そうしてオリヴィアは、なんとか心を保っていたのだ。
「──あら。なら、ペルソン伯爵家の子になりませんか?」
ペルソン伯爵夫人の台詞に、オリヴィアは驚き、目を瞠った。それは、実をいえば、ペルソン伯爵夫人の、どうしたいですか、という問いの、オリヴィアの最適解だったから。
しかし──。
「……なりたいです。けれど、わたしはもう、デイルとは」
オリヴィアは、あくまでデイルと結婚した上で、義理の娘にならないかという話だと思っていたのだが、どうやら違ったようで。
「誤解させてしまいましたね。デイルとなんか、もう結婚しなくてよいのですよ」
オリヴィアが、え、と目を丸くする。ペルソン伯爵夫人は、柔く微笑んだ。
「グレースが王都に行くまで、あなたは、デイルと一緒に暮らせて幸せそうでしたから。あと数年でペルソン伯爵家に嫁いでくるのだからと考えていましたが、こうなれば、話は別です。あなたさえよければ、わたくしたちの養女になりませんか?」
それは決して叶わないと願っていた、まさに最適解で、オリヴィアの胸が期待に膨らむ。
「…………本当、に?」
「嘘などつきませんよ。どうですか?」
それまで驚きに固まっていたマケラ子爵が、オリヴィアとペルソン伯爵夫人とのやり取りに「待ってください!」と、顔を青くしながら待ったをかけた。
「オリヴィアは私の大切な子どもです! そんな横暴、いくらなんでも許されませんよ!」
ペルソン伯爵夫人が、冷ややか視線をマケラ子爵に向ける。
「本当に大切に育てていたのなら、オリヴィアがわたくしたちの元に来たいなどと、言わないと思いますが」
「いいえ。オリヴィアはそんなこと、一言も言っておりません。そうだよな、オリヴィア」
マケラ子爵が勢いよく顔を向けてきたので、オリヴィアは反射的に顔を背けてしまった。怖れたからではない。私の大切な子どもですと、心にもないことを平気で口にできる実父の面の皮の厚さが、心底気持ち悪かったからだ。
「ペルソン伯爵夫人だからとて、遠慮することはない。本音を言っていいんだ」
だが、マケラ子爵の言葉に、オリヴィアの瞳に、希望の光が僅かに宿った。頭の隅では、マケラ子爵の望む答えは理解していた。さらに言えば、この男がオリヴィアを大切な子どもだと言ったのは、単にペルソン伯爵家との縁を絶たれたくないからだということも察していた。
でも、オリヴィアは、マケラ子爵の言葉を、いまだけは、なんの裏を読むことなく、そのまま素直に受け取ることにした。
「……本音、言ってもいいんですか?」
オリヴィアが確認するように問いかける。マケラ子爵が、ほっとしたように口角を上げる。
「ああ、もちろんだ。お前は、私たちが好きだろう? 一緒にいたいだろう?」
いままでのオリヴィアなら、父親に逆らうことはせず、父親の望む答えを口にしていただろう。
それは、捨てられるのを怖れていたから。どんなに本心では嫌いでも、嫌われていても、たった一人の家族だったから。
でも、いまは違う。捨てられることは怖くなくて、むしろ、捨ててほしいと願っている自分がいる。
オリヴィアは早鐘を打ちはじめた心臓の鼓動を自覚しながら、いいえ、と震える声で答えた。




