13
「あなた方はオリヴィアの話をきちんと聞いていたのですか? 二人の仲を認めざるを得なくしたのは誰です? 答えてみなさい!!」
デイルとマケラ子爵が、顔面蒼白で俯く。マケラ子爵夫人は悔しそうにしながらも唇を噛んで黙っていたが、みなの代わりのように、グレースが口を開いた。
「デイル様たちを叱らないでください! 悪いのは、デイル様を好きになってしまったあたしです。でも、これだけは信じてください。あたしは、お義姉様のことも、デイル様と同じぐらい好きなんです! それは本当なんです!!」
「オリヴィアがデイルを愛していると知りながら、あなたがそれでも、デイルにエスコートされたのはなぜです? オリヴィアのことを思うなら、断るのが普通ですよね? それに、デートにも遠慮せずについていったとか。あなたはそれらについて、なにも感じなかったのですか? 罪悪感は?」
すかさずペルソン伯爵夫人に詰められたグレースは、うっと詰まり、だって、としゅんと肩を落とした。
「……元平民だからって、王立学園のみんなが差別してきて、お友だちができなくて……あたしには、お義姉様とデイル様しか頼れる人がいなかったから……だから」
「なるほど。あなたはそうやって、自分の行いを正当化してきたのですね」
真顔でぴしゃりと吐き捨てるペルソン伯爵夫人。そんな対応には慣れていないうえ、甘やかされて育ったグレースが「……そ、そんな言い方しなくたってっ」と涙ぐむ。そんな我が子の様子に、マケラ子爵夫人は怒りを剥き出しにして、ペルソン伯爵夫人を睨み付けた。
「……だから貴族は嫌いなのよ。そうやってすぐ人を見下してっ」
信じられない言葉遣いに、無礼過ぎる内容に、マケラ子爵がギョッとし「ば、馬鹿っ」と、もう遅いと痛感しながらも、マケラ子爵夫人の口を慌てて塞いだ。けれどペルソン伯爵夫人は、別にかまいませんよ、と冷たく告げた。
「マケラ子爵家との縁は、これまでのようですから」
一番怖れていた事態に、マケラ子爵は青い顔をしながら「お、お待ちください!」と声を張り上げた。
「オリヴィアの本心がわかった以上、デイルとグレースとの婚約を押し進めるつもりはありません! この話はなかったことに……っっ」
それに待ったをかけたのは、マケラ子爵夫人だった。マケラ子爵の右手をなんとか口から離し、抗議する。
「あなた、どうしてですか? デイル卿とグレースは愛し合っているのですから、そんな酷なことっ」
マケラ子爵は、マケラ子爵夫人に、お前は黙っていろと、鬼気迫る勢いで、小声で怒鳴りつけた。
「ペルソン伯爵家との縁が切れてしまうことがどれほど深刻なことか理解できないなら黙っていろ! ただでさえ、お前を娶ることにどれほどまわりから反対されたことか……っ」
「そ、そんな言い方しなくたって」
「それほど私はお前たちと一緒に暮らしたかったということだろうが。どうしてそんなこともわからないんだ。説明されなくても察しろ! 少しは頭をつかえ!」
「なっ……!」
ペルソン伯爵夫人が「夫婦喧嘩ならよそでやってください」と冷たく吐き捨てると、マケラ子爵は我に返ったように、ペルソン伯爵夫人に急いで向き直った。
「と、とにかく、そういうことですので……お騒がせしたことは、お詫びします。あとできちんと、オリヴィアには言って聞かせますので、どうか」
頭を下げようとしたマケラ子爵に、ペルソン伯爵夫人が、片眉をぴくりと動かした。
「──オリヴィアに、ですか?」
混乱したまま、深く考えずに言葉を発し、ペルソン伯爵夫人に対しての失言をしてしまっていたことに気付いたマケラ子爵が「あ、いえ。も、もちろんグレースにも、きちんと注意しておきます」と言い直していたが、グレースにも、というところで、本音が出てしまっていた。
ようするにこの男も、デイルたち同様、すべてはオリヴィアが悪いと思っているのだろうことが容易に想像ができてしまったペルソン伯爵夫人は、大きくため息をついた。




