12
「……納得?」
耳を疑う言葉に、オリヴィアは目を吊り上げた。納得した覚えなど、一度としてなかったから。
オリヴィアははじめて、これまで言いたくても言えなかった、抗議の声を上げた。
「あなたがはじめてグレースをエスコートしたとき、わたし、言ったわよね。わたしという婚約者がいながら、他の女性をエスコートするのは止めてほしいって。他の人の目もあるからって。そしたらあなた、なんて言った? 最低、と吐き捨ててから、妹を大切にできない冷たい人間とは別れる。そう言ったわよね?」
デイルとは違い、オリヴィアの言っていることはすべて事実だ。それがわかっているからか、デイルが悔しそうに目を逸らす。
「……い、言ってないっ」
まだ言うか。どれほどわたしを馬鹿にすれば気がすむのかと、胸がムカムカしてきた。これまでためてきたものをすべて吐き出す勢いで、オリヴィアは続けた。
こんなことをデイルと言い合うつもりなどなかったが、もう、止まらなかった。
「わたしがデイルを愛していること、あなたは痛いほど理解していた。お母様を亡くしてから、わたしはずっとあなたを心の拠り所にしていたものね。だから別れると脅されれば、わたしは最終的に黙るしかなかった。それが何度も、何度も繰り返され、いまに至ったのよ」
いままでとは別人のように刃向かってくるオリヴィアが憎く、ベラベラと余計なことしか言わないオリヴィアに対して怒りが頂点に達したのか、デイルはこぶしを震わせ「……ぼくにフラれて、本性を現したな」と、目を剥いた。
オリヴィアを鋭く睨み付け、デイルは声を張り上げた。
「いままで従順だったのに、ぼくと別れると決まったとたんこれか。心から軽蔑するよ。いいか、勘違いするなよ。これまで優しくしてあげていたのは、きみが父上と母上のお気に入りだったからで──っ!」
頭に血がのぼって両親の存在を完全に忘れていたのか、デイルの顔からさあっと血の気が引いていくのがわかった。
ぎこちない動きで、デイルは真横に座るペルソン伯爵夫人にそっと顔を向けた。ペルソン伯爵夫人は、静かな怒りを宿しながら、デイルを射抜くように、見たことのないほどに鋭い視線を向けていた。
「ま、待ってください、母上。よく考えてみれば、誰が悪いかはあきらかでしょう? だって、ぼくはオリヴィアに騙されていたんです。ぼくはオリヴィアが、グレースとの仲を応援すると言ってくれたから真実を打ち明けたのに、ここにきて裏切るなんて、最低だと思いませんか?」
「──あなた、それ本気で言ってます?」
背後に怒りの炎が見えそうなほどの迫力に、デイルが息を呑む。オリヴィアも、ペルソン伯爵夫人の想像以上の怒りに驚いていた。
しかし。
ばちんっ!!
驚くことに、ペルソン伯爵夫人は、デイルの頬まで打ったのだ。他人の子であるオリヴィアのために、愛しい我が子をここまで怒れる親がいるのかと、オリヴィアは目を瞠った。
その無意識の思い込みは、マケラ子爵たちのせいだったが、オリヴィアはこのとき、それが理解できていなかった。
顔を真っ赤にして怒鳴りつけるペルソン伯爵夫人を、オリヴィアが唖然と見つめる。
「オリヴィアの言う通り、あなたはオリヴィアからの愛を自覚していた上で、別れ話を脅迫につかったのよ! それがどれだけ最低なことかわかりますか?!」
デイルが動揺から、視線を上下左右に彷徨わせる。
「……は、母上。で、でも……っ」
「でも、なんですか? 黙って聞いていれば、揃いも揃って頭のおかしなことばかり。非常識さに、言葉すらなくしてしまいましたよ」
それからペルソン伯爵夫人は、マケラ子爵夫妻とグレースを、ぎろっと睨み付けた。
「あなた方の誰もオリヴィアを大切に想っていないことがよおくわかりました。なにが自慢の娘ですか。白々しいっ」
ここにきてマケラ子爵が、慌てて弁明をはじめた。
「ち、違います! 私はちゃんと、オリヴィアの意思を確認しました!」
「そうです! それにこう言ってはなんですが……デイル卿が言うように、私たちはオリヴィアに騙されていたんです! だって、オリヴィアがグレースとデイル卿の仲を認めるというから……っ」
マケラ子爵に続き、マケラ子爵夫人が叫んだが、その内容に、やはりこの人たちは同類なのだと、オリヴィアはあらためて確信した。
そこに。
「──黙りなさい!!」
ぴしゃっと、ペルソン伯爵夫人は喚く人たちを怒鳴りつけ、黙らせた。




