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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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120/123

120話

町中での掃討を終えた私は、軍の半数と一緒に貧民街へと戻って来た。

広い空き地には、焦げた匂いと血の匂いが広がっている。


微動だにしない倒れ伏した人影。

私の足元で、何かが砕ける音がした。

視線を落とすと、黒く焼けた欠片が散らばっていた。

シグレインとアンスペクトたちは、目の前のその惨状に言葉を失っている。


空き地の中央にシオルが佇んでいるのが見えた。

「……シオル」

呼びかけると、いたわる様に目元を和らげ私を見つめた。


「大丈夫か?」

「……うん」


たった一言だったけれど。

シオルの優しさを全て含んだ一言だった。


「ナギ、おそらくこれが……」

そう言ってしゃがんで視線で何かを促す。

そこには米粒よりはるかに小さい、黒ずんだ結晶。

「核の破片だと思う。空き地の至る所に落ちている」

「まだ危険性がある?」

「正直、今は何とも言えないが……回収するのがベストだろう」

「そうだよね……」

「直接触れるのは危険だ。ウェブスターを呼んで、糸による回収をしよう」

「うん」


厳しい目線で核を見つめるシオルの横顔を見つめながら、ずっと気になっていたことを聞く。


「番狂いって……何?」


私の一言に、彼はハッとした表情を浮かべた。

二人の間に沈黙が落ちる。


「そうだな……又ゆっくり出来る時間に話そう。姉の事も」

「フェリアさんは、記憶がないんだよね?」

「ああ。だからなのか姉とは全然性格が違ってしまった……」

「そうなの?」

「少なくともあんな感じには──」


シオルの視線の先には、犬のようにしおれた顔でフェリアの背後に立つ聖王の姿があった。

当のフェリアは全く後ろを気にすることなく、マーニャと何かを話し込んでいる。

周囲にレオンハルトとドルガンは見当たらない。


「姉は優しく、穏やかな……花の妖精のような人だった」

シオルが私の手を軽く握り、ポツリと呟いた。

「……おっとりし過ぎていたがな」

懐かしむように、優しい目で記憶を辿っているようだった。


「聖王国は特別な場所とされてきた。聖王の石棺もそうだが──」

「石棺以外にもあるの?あ、神託の玉の事とか?」

シオルが頷くと、ゆっくりと空を見上げた。

「結界があるのにすり抜けるように、神託の玉は降りる──不思議だろう?」

「そういえば……」

「実際は結界に穴を開け、徐々にその穴を広げるのが目的だったようだ」

「!?」


「今回そこから使徒が入り込んだと思われる」


シオルのその言葉に、今回の騒動がとてつもなく長い時間をかけて準備されてきたと気付く。


「そんな……それじゃあ」

「使徒の手によってあの王女は用意され、聖王を傀儡化し結界を無効化することが狙いだっただけ……ならば良いのだが」


私たちは未だに馬車の前で動かない、件の王女を見つめる。


「もしかして、別の目的もあった?そのために周到に準備を重ねて、神託の玉を降ろし続けて……やっと使徒が入り込めるぐらいの大きさの穴を開けたってこと?」


では、その穴が完全に開いたのは──


「ああ。タイミング的に考えて、魔王の……私の討伐成功を知らせた玉だろう──」


空き地をゆるく風が通り抜けた。


「もし……そうなら」

思いの他私の声が低くなってしまった。


「使徒は、シオルの死を待って動き出したように見えるよ?」


シオルを握る手に力が込められた。


「……私は一度村に転移して、ウェブスターを呼ぶ。ナギは王女の件はどうする?」


シオルが話題を変えた。

つまりそういう事だと──


私は一度ゆっくり息を吐いた。

考えなくてはいけないことが、きっと沢山ある。


でも今は。

「私は、今回の使徒のたくらみは、失敗だったんだと思ってる」

「?」

シオルが不思議そうに私を見た。

「おそらく王女もそれを分かってる」

「使徒を追ったレオンハルトたちを待つか?」

「そうだね。それかフェリアさんから、あっちの様子を聞くか……」


私の視線を感じたのか、王女が顔をあげた。

その目が。


「王女から話を聞けそうだね」


静かに何かを決意した目だった。



少し離れた場所で、かすかな音がする。

振り向くと、あの時に助けた姉弟がこちらを見ていた。

目が合う。


二人が駆け寄って来て、姉の方が、震える声で口を開いた。


「……お母さんたちは?」


私は、シオルから離れて幼い姉弟の側に近寄った。

周囲に転がる“それ”の中に、

彼らの両親が混ざっているかもしれない──でも。


「軍の人たち連れてきたから、……きっと、見つけてくれる」


楽観的かもしれない。

現実はそう甘くないと私も気づいている。


「誰か、そばにいてくれそうな大人の人はいる?」


そう言うと、姉が弟の手を強く握った。

何かを堪えるように、唇を噛みしめている。


私は視線を巡らせた。

アンスペクトがそれに気づき、こちらに歩いてくる。


聖王国は──結界を失ったことで、その脆弱性が露見してしまったかもしれない。

今までは強力な防護があった。

故にそれに甘えていた部分がきっとあったのだと思う。


「お母さんとお父さんが身に着けていたアクセサリーとかある?」

思考を振り切るように、幼い姉弟に聞いてみる。

この世界は夫婦でお互いの色を模したアクセサリーをつける習慣があるからだ。


二人は一度顔を見合わせると、

「あのね……僕たちの家はお金なかったの」

弟の方が私の顔を見つめながらポツリと話す。

「お母さんもお父さんも、いつも何も欲しがらなかったから。だから私たちがほどいた服から糸を編んで、手首に結ぶ紐を二人にプレゼントしたの」

姉は弟の手をしっかりと握りながら、これも作った紐だよ、と言って見せてくれた。

それは私の世界のミサンガのように、色々な色が丁寧に編み込まれた紐。


「……分かった。それを軍人さんたちに話しておくね」


二人に笑いかけ、振り返ってアンスペクトにそれを伝える。

合わせて、今回この姉弟のように孤児になってしまった者、襲われて命は助かったが重傷を負ってしまった者がいる。彼らの保護を神殿に依頼してもらえないか聞いてみた。


「分かりました。神殿に確認をすぐにとりましょう」

アンスペクトが部下に指示を出そうとした、まさにその時。


「ナギ!!」

それは、聖女服を靡かせながら、全力でこちらに駆け寄ってくるエリシアと、その後ろを必死に追ってくるヴェルディだった。


「え?エリシアさん?」

「聖女様!?」

私が驚いて声を上げるより、遥かに大声で驚愕の声を出したのはアンスペクトだ。


エリシアが私に抱き着くと、涙を浮かべた。

「良かったですわ。無事で」

「エリシアさん、どうしてここに?まだ療養が必要でしょう?」

「あの人が軍を動かす指示を出してたから……心配で心配で」


私の背後にいる幼い姉弟に気づいたヴェルディが、ここが落ち着くまで神殿で預かると言って、二人の手を優しく引いていった。

その後ろ姿をじっと見つめている一人の護衛騎士──。

そしてその護衛騎士を、静かに観察しているような眼差しを向ける王女。


「相変わらず未練タラタラですわね」

エリシアがその護衛騎士を睨んでいる。

「手厳しいね」

思わず苦笑する私の顔を見て、エリシアがその可愛い顔を赤くし、頬をプクリと膨らませた。

「ヴェルディの夢でしたのよ。ずっとずっとそれだけを願って来た姪の夢を打ち砕いたのだもの」

「……それが彼の意思ではなかったとしても?」

私の言葉に一瞬エリシアは目を見開いた。

「恐らく彼は、王女の言葉に強制的に誘導されただけで、気持ちは本物だったはずなんだ」

「……」

「結界の効果もあの時はあったでしょう?王女の発言に従う人々が多かったはず」

「……」

「だからと言って、彼の事を許してあげて、とは言わないけどね」

私がそう言って若干困ったような表情を浮かべると、エリシアが意外そうな顔をした。

「彼に隙があったのは事実だろうから」

「隙?」

「意識支配に関する魔術は、対象者の心に隙があれば、かかりやすいんじゃないかと思ってる。全員が引っかかってないでしょう?王族も一部は王女に捕まってしまってるみたいだけど」

「第二王子ね?確かにあの子ちょっとメンタル弱いですわ」

エリシアが眉を八の字にして、

「あの人の補佐をするべき立場なのに、今回の件で難しい状態になってしまったわ」

「ああ~、皇太子も大変だね……」

ねぎらうように、二人で顔を見合わせて笑う。


「神殿の方針が決まりましたの。それで王宮に報告に向かったのだけれど」

「方針?聖女の体制のこととか?」

「ええ。聖王も復活し、結界の維持もなくなりました。わたくしたち聖女の逆行魔法の行使も必要なくなったわ。だから聖女という称号は今代限りになる予定ですの」

「それを世界に公表する、という事だね?」

「ええ。その報告をあの人にしたら……」

「皇太子、喜んだんじゃない?」

ニヤリと私が笑うと、エリシアは顔を真っ赤にして、また頬をプクリと膨らませた。

「だって、全然奥さんと一緒に居られなかったんだから。そりゃ嬉しいと思うよ?」


初代に次ぐ神聖力を所持するエリシア。

彼女は聖王国の侯爵家の娘だった。

幼い頃から次の聖女だと、早くから明かされており、神殿がそろそろ預かろうと様子を伺っていた頃、王宮で開かれた皇太子──当時の第一王子の誕生日パーティーで彼がエリシアに一目ぼれする。


彼の動きは早かった。

速攻でエリシアを囲い込み、婚約を結んでしまう。


神殿側は唖然としたらしい。

先代の教皇は一応、王家に抗議した。


そこで、第一王子は何でもないことのように告げる。

『我が妻が聖女で何の問題がある?神殿にはここから通えば良い』


先代の教皇は国王を恨めし気に見た。

国王は黙って首を横にふるのみだったという。


エリシアが正式に聖女となったのは8歳の時。歴代最年少だった。

そこからさらに8年後、16歳で第一王子と結婚式をあげる。

翌年、第一子を産み、以降続々を子宝に恵まれ、実は4人の子持ちである。

一番下の子供が7歳になった時、私が召喚された。

彼女は世界を救うために、皇太子妃であるにも関わらず、私の元へ駆けつけてくれたのだ。



今回の『大聖封祠』の騒動は皇太子にとって、魔王討伐に行ってしまった時よりもこたえていたらしい。

石棺の側で、見たことのない異形に絡めとられそうになっている妻を直に見て。

何もできない自分に──

何度も『大聖封祠』の入り口から中に入ろうとする彼を、部下たちが必死で止めていたそうだ。


聖女システムが終わる、『大聖封祠』は無くなった。

もうあんな妻の姿を見なくてもすむのだ。

さらに、きっとこれからは自分との時間がもっと出来るに違いないと。


「今頃浮かれてるんじゃないの?」

私の言葉に、顔を真っ赤にするエリシア。

無言で私の腕をパシパシ叩いている。


その私たちの側に近寄る影があった。


「お話中、大変申し訳ございません」


そう言って声をかけてきたのは件のアリア王女、その人だった。


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