表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/128

114話

そこは、激しく損壊した建物の中のようだった。

がれきであふれる室内を、ぐるりと見渡す。


――真っ白い羽の紋様が刻まれた石のかけら。

見覚えのあるそれに、それが石棺の一部だと察した。


「ここは『大聖封祠』か?」


久々に自分の声を聞いた気がした。

あれからどれぐらい、たったのだろう?


そして自分の周囲には、かなり強力な防御魔法が展開されていた。

まるでここから逃さないと言わんばかりの――。


「聖王?」

聞き覚えの無い女性の声に、入り口の方に視線をやると。

黒髪をゆるやかに靡かせ、白金色の装具を纏った女性が立っていた。

その後ろには、こちらを厳しい表情で見つめている背の高い男性がいる。


「何者だ?」

僕の問いに、二人は顔を見合わせてから『大聖封祠』内に入ってきた。


「簡単に自己紹介するなら……」

女性は黒光りする大きな目を和らげて、

「あなたの義弟と、その伴侶です」ニッコリと微笑んだ。


「何を」心の声が出てしまったが仕方がないだろう。


「彼は、聖王妃――あなたの妻だった女性の弟にあたります」

女性が振り返って示した男性が、先ほどからこちらを刺すような目線で見つめていた。


「…女神は……?」

僕の声に、弟だと紹介された男性は更に目を険しくさせた。


「死んだ」


分かってたはずだった。

目の前でオルフェーリアの首が刺し貫かれて、夥しい血を自分は浴びたのだから。


それならもう――



自分も死のう。

そしたらいつか、生まれ変わった世界で出会えるかもしれない。


胸に刺さっていたナイフを一度抜き、もう一度刺そうと構えた時、


「今は止めた方がいい。貴様は死んだら、もう姉には絶対に会えない」

「どういうことだ?」

「禁忌を犯しただろう?貴様の魂は肉体が滅んだ瞬間、消去される」


禁忌?魂の消去――?


「姉はそれを防ぐために、この結界装置で貴様を護る道を選んだ」


そんな話は聞いていない。知らなかった。禁忌とは何だ?

オルフェーリアは何も言わなかった。


でもそれでは……。


「オルフェーリアには……どうやったら再び会える?」


静かに言葉を零す僕を、女性は痛ましそうな表情で見ていた。


「番狂いの呪いで姉は穢れてしまっていた」

「番狂い?」

始めて聞く単語に思わず聞き返す。


「番からの想いを得られなかった時、発動する呪いだ」

「想いを得られない?何を馬鹿な」

「だが実際に発動しただろう?貴様の目の前で姉は竜水晶に貫かれたはずだ」

「!」

「貴様がどう想うかではない。愛されていると姉が実感していたなら、これは発動しない」

「……まさか……」

茫然と聞き返す。


――オルフェーリアは僕に愛されていないと、そう思っていたというのか?


「そんな……」

目を見開き、全身から力が抜けた。両ひざを突いて地面に手をつくと、何かが指にあたった。

オルフェーリアの魔力が込められていたはずの、石の欠片。


僕は――愛していた。

誰よりも、何よりも。


なのに、なぜ。

なぜ彼女は、そう感じなかった?


……僕は、何を見ていた?


「何故、姉がそう感じてしまったのかは分からない。ただ……」

そこで躊躇う用に言葉を噤んだ。


「ただ、何だ?」

「姉は自分の命より貴様を優先していた」

「……僕の、……?」

「最後の力でここの結界装置を完璧に起動させた」

「……」

「そして転生を繰り返し、石棺に定期的に神聖力を流すことが出来る聖女を探し、導いてきた」


番狂いで穢された魂は――浄化すれば生まれ変わる。

たが姉はそれを選ばなかった。

浄化は魂のリセットだからだ。記憶も失われてしまう。


「記憶をギリギリの状態で繋ぎ、穢されたままの状態で転生を繰り返せば、魂は摩耗する」

男性の言葉に嫌な予感がした。


「私が姉の魂をやっと見つけて保護した時は、小さな妖精だった」

「妖精?ではオルフェーリアは生きて」

「死にかけてはいたが」

「……無事なのか?どこにいるんだ?」


縋るように、手を伸ばす。


「貴様との記憶もおそらくない可能性が高い。姉は潜在意識で聖女を探し続けていただけだった」


それは自分に課せられた使命を全うするかのように、オルフェーリアは転生を繰り返してきた。

外界の様子をつぶさに観察しながら。


「石棺の逆行魔法を発動させるため、神聖力を流すことが出来る聖女を探し、ここへ導く役目を負い続けてきた」


そう言って男性が振り返った先には


「フェリア」


神官の服を着た女性が立っていた。




◇◇◇




聖王国の結界が解けてから5日後――


「王女殿下、お久しぶりです」

ネッドが爽やかに騎士として礼をした。


王城内の中庭――東屋の一角で、件の王女アリアが花がほころぶように笑顔を浮かべた。

「ネッド!」

そのまま周りの目を気にする様子もなく、ネッドに抱き着いた。

「謹慎が解けたのね!良かったわ」

周囲の騎士たちも、貴族の令息たちも、邪魔をすることなく二人を眺めている。

その中で。

冷たい視線を送る面々がいた。

金髪の青年、リュートもその一人だった。


「ネッド、ここに座って!話したいことが沢山あるの!」

ネッドの手を取り、自分の隣に座らせる。

「それから、戻ってきたら渡したいと思ってたの」

どこから出したのか、小袋を一つネッドの手に乗せる。

「邪気を弾くお守りなの。出来ればいつも持ってて欲しい」


アリアから渡されたそれを、ネッドは一瞬目を細めて見つめ、

「……光栄です。頂戴いたします」

そのまま懐にしまう。

その様子をリュートはじっと見つめていた。


自分の謹慎の解除を、無邪気に喜ぶアリア。

その様子を見つめながら、ネッドは必ずこの王女の正体を掴むと決心していた。


俺からヴェルディとの未来を奪った者――


ネッドの心は激しい憎悪の炎で燃え盛っていた。

絶対に許しはしない。


街の魔道具店で、人の意識を誘導する魔術について聞いてみた。

状態異常に近い魔術なのであれば、効くかもしれないと店主に渡されたのは、騎士としてはあまり付けられない指輪タイプの魔道具だった。

その為、鎖に通して首から下げている。

果たしてこの指輪に効果はあるのか分からないが。


上にはあの時、何が自分に起こったのか報告した。

再び意識を持っていかれるような事があれば……

それが有事の際には、自分を斬って欲しいとお願いしてある。


周囲に佇む騎士仲間に視線を移すと、全員が固い表情でこちらを見ていた。

ネッドの決心を知っているのだ。


――王女の正体を掴む。必ず。



そのネッド達の様子を、回廊から見つめる影があった。

ゾグートとシグレインだ。

結界が完全になくなってから、 周辺国が“先制的に介入”する口実を与えるわけにはいかないため、日々情報戦を繰り返していた。

王家側と大神殿とで、周辺国の疑念を晴らす最もな理由を擦り合わせた結果――


2000年の眠りから聖王が復活し、聖王自ら展開していた結界を解いたこと。

関所の封鎖は、誤った情報が洩れることを恐れ、念のため外交を閉ざしていた為とした。


この内容で各国大使とのやり取りを続けている。

漠然としている感は否めないが……。


信ぴょう性を高めるため、聖王復活祭なるものまで予定されているという。


「あの王女が次、何をしかけてくるのか……」

シグレインが厳しい目のまま呟く。

「聖王をもう一度狙うか、別の標的に切り替えるかってこと?」

柱の影から腕を組んだまゾグートがシグレインに質問した。

「さっき渡した小袋を見たか?」

「元婚約者の坊やが受け取ったアレ?」

「そうだ」

もしあれが……聖王の石棺に仕掛けられた物と同一ならば。


「あれは死者だけでなく、生者にも呪う道具だということになる」

シグレインの言葉に、ゾグートはその目を更に細めた。

「どこから入手してるんでしょうね?」

「もしくは、元から持って王宮入りしたか、どちらかだな」

「元から?そんなこと出来るかしら?」


「……出来るだろう。王女そのものが死者なのだから」


シグレインは王家に連なる女性を片っ端から調べ上げ、ついに三代前の時代に該当する王女がいたことが分かった。

いわゆる愛妾の娘で、王宮ではなく離宮で育った姫君だったらしい。

癒しの力も持っていたが、それほど強力ではなく、流行り病であっけなく亡くなっていた。


「身体の中に仕込まれて、王宮入りしていたとしたら――」

その言葉にゾグートは背筋が凍った。


「あの死体の中に何が隠されているのか……まだ分からんぞ」

二人は無邪気に笑顔を振りまく王女をじっと見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ