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機械王の内蔵・毒入りスープ③


 神日さんの誘いで来たのは、同じ開かずの鉄扉の前だ。

 シオンが見やすいように私から目を近づけ、何がなんだかサッパリな機械の前に顔を出す。


『へー。 結構古びてるけど、これなら全く問題ないね。工具はいらないし。素手でもやれるよ』

「え?」


 突然、私の腕の感覚がなくなる。

 まるで乗っ取り操られたみたいに腕に力が入らなくなったかと思えば、私の意思と反し、勝手に手が機材へと赴く。


「うぇ……!」


 機械油に塗れた機材に素手で触ってしまった。

 感覚はないのだけれど、私の手が黒く汚染されていく様は見るに耐えない。

 

『ちょっとお姉さん、ちゃんと見て。貴女が見てなきゃ分からないでしょ』


 嫌がる目を無理にでも手に向けさせる。もう手の甲まで廃液でベッタリと黒ずんでしまい、酷い有り様であった。


『私とシオンが戻ってその分、魔力も増したからかしらね。前より貴女の身体を扱いやすくなった感じがするわ』


「それ……四人戻った時に、私の身体が完全に乗っ取られるってこと?」


 ミコトの無言が確信を裏付ける。


「ねぇ、あと二人って大丈夫なの?」


『ま。私の言葉には逆らいはしないだろうから安心して……いいかな?』

 

 私の不安も半ばに、5分ほどして配線の修理が完了。鈍い駆動音をたて、ゆっくりと電熱炉が動き出す。


「おぉぉ。すっごいシオンちゃん」

『凄かったわよシオン』

『えへへへっ』


 乃愛さんの言葉にはピクリとも反応しなかったのに、ミコトの言葉となったらまるで反応が違う。あまり姉以外の人物に興味はないというか、ミコトもその扱いに慣れている様子。


「可愛くないなこの子は」


 私がポツリと呟くが、すっかり無視された。


「まぁ、お姉ちゃん子なんて可愛いじゃないですか。私の妹なんて、中学生だけど本当に可愛くないですし」

「反抗期真っ盛りってやつだな。アマテ嬢ちゃんは兄弟いるの?」

「一人っ子だけど……小学生の頃からミコトがいたし、姉が一人いたって感じはする」

『あ。そーいえばクロナ姉様とレイラちゃんはいないんだ?』


 確かミコトの姉妹は四人いた。

 あの日、私の前に現れてミコト以外は全員消滅していた筈だけれど流石に悪魔ともなれば人間の常識で一々推し量れない何かがあるのだろう。


『えぇ。貴女が最初。てっきりあの時、死んだものと思ってたけど……よく生きててくれたわね』

『えへへへっ。じゃあ、お姉様今だけ独り占めできるね』

『やっぱ離れて』

『えー』


 そんなやり取りを交わしていると、ようやく機械王の胃袋が音を立てて開く。

 何年も臭気をこの中に閉じ込めていたのだろう、解き放たれた空気が酸の匂いと混じって肉の腐った匂いが私たちへ一気に遅い来る。


「おぇ……!」


 まともに鼻で吸ってしまい、鼻腔に殺虫剤を直接吹きかけられたような刺激に目眩すらした。喉の奥から吐き気がこみ上げて、乃愛さんに至っては戻してしまった。


「おいおい、大丈夫か?」

「乃愛。大丈夫!?」

「私は……なんとか」


 無理もない。おおよそ日常生活で嗅いだことのない激臭。臭いで死ぬことはないだろうと思っても何時間も吸ったらきっと気が狂ってしまうに違いない。


「僕がここで見てますから、皆さんはどうか先へ」

「おぉ。妙な化け物が近づいてきたら教えろよ、その時はお嬢さん連れて奥に走れ」

「はい」


 二人を残し、袖で鼻を抑えながら入ったその先はこれまでとかわらず、今にも朽ち果てそうな黄ばみと錆び色に染まった厨房だった。

 電気が通っているお陰か、他と比べて明るいのがどことなく嫌らしく、見たくもない汚いものまでよく見えた。

 水道があって、手を洗いたかったけれどここの水で洗うくらいなら溝に手をツッコんだ方がまだ衛生的だ。


「確かスープのおかわりあります。だったっけ?」


 鼻を抑えて濁った土夜さんの声。


「えぇ。それと銀のスプーン」


「銀って毒に反応するんだっけ?」

「そうよ。中世の時代、毒による暗殺を防ぐために使われていたと言うのは知ってるんじゃないかしら?。オカルト的にも銀は神秘の象徴として色々とメジャーなのよ。その白い輝きから無垢・月の象徴として崇められていてね」

「銀には退魔の力があると信じられていて狼男を倒すことのできる唯一の武器、銀の弾丸なんかも有名ね」

「あ……その、えと」


 興味ある話が来ると途端に口が早くなるタイプ。

 放っておいたら永遠に話し続けていそうだ。


「古くから言えば、魔除け厄除けの力も信じられて」

「ちょっと、時間もあんまないんでその辺でその辺で」

「あぁ、そうね」


 自分に自信たっぷりで自分の趣味を信仰して疑わないのだろう。音黒さんにはある意味、いや結構羨ましいところがある。


「必要ないとは思うけど、スープのお代わりも少し持ってく?」

「あるなら貰ってっても損はないだろな」


 おかわりと言えば、やはり数十人分のスープも盛れそうな寸胴鍋か。


「……開ける?」

「開けるしかないだろうな」


 コンロの上に蓋をかけて乗せてあるが、こう中身の隠れている物は大概懲りて来ている。開けたら化け物が飛び出てきたり、と言うことはなさそうだけれど決して迂闊に開けて平気ということはない筈だ。


「おっ。良いものあった」


 ただの一挙一動、日常的行動を起こすのにも不安に駆られていた私へ壁に立てかけられた鉄の棒切れが光明を与えてくれた。


「随分慎重だね」

「用心し過ぎるに越したことないとは思うけどよ、流石に慎重過ぎやない?」

「……放っといて」


 一生のうち、こんなアクションを起こす機会が何度あるだろうか。

 3m離れた位置から、棒の重みで手首がプルプルと震えるのを抑えつつ、鍋の取っ手に棒を引っ掛け、ゆっくりと持ち上げる。


 鍋の蓋が開いた。

 中から化け物は飛んでこなかったが、やはり恐る恐ると慎重に土夜さんが忍び寄っていき適当な皿に、サッとスープを掬うと手で蓋を戻させて元に戻す。


「中に何入ってたんですか?」

「愛情」

「見なくていいものって事ですね」

「助かるよ」

「はい。銀色のスプーン」


 私がイマイチな活躍をしてる間にも、音黒さんはしっかりと自分の仕事をこなす。 

 こんな汚らしい部屋にあって余計にハッキリと目立つ銀色の鮮やかな光沢を放つスプーン。


「おっ、仕事早いな。お嬢さん」

「そのお嬢さんってのやめて、私は音黒だから」

「音黒嬢ちゃん」

「子供扱いしてくれて……」

「そんで? 後はこれを書物庫へだっけ? あと何分あるかな」

「私、ちょっと時計見てくる」


 唯一の時計は最初の部屋にあった時計だけ。

 体感、一時間経った気はしないけれど、もう大分経っている筈だ。


「あ。後20分でしたよ」


 急ぐ私の前に現れた乃愛さんがいきなり、時刻を教えてくれる。


「乃愛さん、大丈夫なんですか!?」

「私だけいつまでも参ってられませんから。時計係くらいの役には立ちますよ」


 なんだか胸がピリピリと痛む気持ちだ。

 私だけ、と言う疎外感。

 しかし、四の五の言う暇もない。今、乃愛さんが言った時間からしてもう大分タイムリミットが迫っていると聞いて皆の足が早まっていく。


「ちょっと走ったほうがいいかな」


 例の化物の足音と咆哮がだいぶ近い。

 バキバキっと言う何かを噛み砕く音も相まって、とにかく急がねばという焦りの気持ちばかりが強くなっていく。


「こっちです。書物庫!」

「急かすな急かすな。あ、神日。お前これ持ってて、スープのお代わり」


 さっきは立ち寄らなかった書物庫へとやってきた。

 中は厨房と打って変わり、つい先日まで人がいたのではと思わせるほど整った内装であった。


「えーっと。なんだっけ?」


 二階建て構造の小さな書物庫であったが本がギッシリと詰まっている。

 この中から、一冊一冊捜していたらとても時間内に終わりそうもないが事前に神日さんが分かりやすくテーブルの上に置いてくれたようだ


「スープの夢……?」


 イマイチ意味のわからないタイトルだけが綴られた無地の黒い本。

 ほんのりと花のような甘い香りが漂っており、本全体がじっとりと何かの液にまみれているのか濡れているかのようでもあった。


「素手で触っても問題ありませんが、決して外に持ち出さないでください。すると本が怪物になって襲い掛かってきますので」


 そう言って、彼はずっと黙っていた手の甲の包帯を見せる。

 

「まぁ今さら何があっても驚かねぇけどよ」


 土夜さんはスプーンの先を本に充てがう。

 すると、銀色のスプーンはまるでじわじわと喰われているかのように黒ずんでしまった。


「お、いい感じじゃね? どうすか先生」

「えぇ。銀が反応してる証拠よ。ところで貴方、普通に人の名前を呼べないの?」

「すみません。彼はこういう方でして」


 なぜ神日さんがと言うのもさておき、ここまで来たら後は流れ作業みたいなものだ。

 最初の部屋に戻ってスープを飲むだけ。


『さっき私が出てくるまでは絶望しきった顔してたのに、なんか随分余裕になってるね』

『それが人間ってものよ。都合の悪い時は暗い顔するけど、良いときはとことん調子に乗る身勝手な生き物よ』

『でも、希望って言う糸さえあればそれがどれだけ拙くても、それを頼りに精一杯這い上がろうとする強さ……じゃないかしらね?』


 スプーンの毒をスープに流し込む。

 すると、血液の色が一瞬鈍い銀色を発したがすぐまた元の赤々とした色に戻る。


「多分、これでいいのよね」


 毒入りスープは完成。

 しかし、作ることにばかり気を取られていたが、指令は「飲め」であった。


 そこで全員の行動が示しあったように止まる。さすがの土夜さんでも、毒の入ったスープをおいそれと口に含もうとはしない。


「はてさて、どうしたものか」


 やることは分かっているのに、後一手なのに踏み切ることが出来ない。


「思ったんだけど、この毒入りのスープでグール倒せなかったですかね?」


「グールは肉しか食べないらしいから、スープには目もくれないんじゃないですかね?」


「じゃあ、ぶん投げてみる? それか上手く食べるよう誘導するとか」


「貴重な一杯だ、やめとけ。それに毒が今さら腐った胃袋に効くとも分からんし」


 私から、乃愛さんと神日さん、土夜さんへリレーして喋ってスープを飲むことから話を遠ざけているのは飲みたくない現れか。私だって、出来るなら飲みたくはない。

 

「それもそうか……」

「じゃあ、飲むしかないか」

「ねぇ。ミコトはどう思う?」

『呪いは専門外なのよね……下の妹が詳しかったんだけど』

『ただ。ここは明らか貴女の住んでいた世界とはズレた歪みのような空間だから、一度死んで次元をずらす必要がある……ってとこかしら』


 ミコトにも確証が持てないとなれば、後は全員の意思一つ。


「これで本当に死んだらどうする……?」

「その時はその時じゃね?」


 あと三分。 そろそろ覚悟を決めなくてはという時期に、フッと土夜さんがため息をついて


「この前の大学の石崎先輩の騒ぎの時、俺はさ。本当は神日にもしも剣先輩が離れても合図があるまで動くなって言ったんだよね」

「な……なんですか。そんないきなり」

「ほら、剣と有彩ちゃんが先にクリニックに来たろ?」

「俺、正直。アレでもう剣先輩が犯人だなって疑惑から確信を得たのよ、付き合いは長かったし、あの人。テストの日間違えて単位落として留年するくらいウッカリしてるから」


 突き止めようとすればもっと確信をつけた証拠、私の知らない剣の細かい癖や仕草もあったのだろう。


「じゃあなんで早く言わなかったのよ」

「泳がしとくつもりだったんだよ。あの女医も剣先輩も、あの呪いを授けた大元がいる筈だとな」

「え……じゃあ私」


 余計なことをしたんじゃないかという私の言葉へ手のひらを見せつけて止める。


「いいや。アマテ嬢ちゃんに当ててもらえて良かったよ」

「でなきゃ、俺は。他に無用な犠牲出してたかもしれないってのに、黒幕のことで躍起になってて、三人の身の安全を二の次にしてた。口であんなこと言ったのにな」

「だから三人を守ろうとするのは俺にとっての禊なんだよ」


 ここまで異様なくらい私たちへ見せた気遣いも全部、罪滅ぼし。

 私たちは思わず唖然としていた。


 無論、怒る気持ちも少なからずあったけれど、いつもの薄ら笑みを浮かべた顔が消えた初めて見せる彼の表情にそんな気持ちもどこかへ吹き飛んでしまった。


「……なんでそんな話したわけ?」

「もしかしたら最後かもと思ったら未練残したくないからな」

「ふざけないで、一歩間違えてたら貴方」


 突っかかろうとする音黒さんを引き止め、乃愛さんが思わぬ行動に出る。


「未練とか……ちゃんと五人で帰るんですから。未練とか喧嘩とかそんなことしなくていいんですよ!」


 乃愛さんは、意を決して一番にスープへ手を出して飲み下してしまった。最初、驚きもあったが彼女の突発的な行動にはただ皆驚くばかり。

  

「ふぅ……最初からそう言ってくれてればよかったのに。素直じゃない人は損しますよ」


 相当な苦痛を体現した青ざめた表情、加えて女性がやってはいけないような引き攣った顔がスープの惨状を物語っている。


「それもそうですね。禊しなきゃいけない相手はまだまだいますし」


 そう言って神日さんも続く。


「……ハハッ」

  

 ただその光景をぼけっと見守っていた私たちだったが、もうここまで来たらヤケになって乾いた笑いが出てきた。


「ごめんなさいね。乃愛のこととなるとどうも」

「いや、こっちこそ」


 それぞれ皿を回してスープを飲み干した。

 鼻につく鉄と黴の臭い。

 お世辞にも美味いとも言えず、毒なんて入ってなくても死にそうな味だ。


「ぐぇ……げほっ!」


 乃愛さんなんて、耐えきれなくなってまた吐き出してから、もう一回余ってた分を飲む。

 

「予備あって良かったよ」


 私も、目を閉じ出来るだけ何も考えないでこの胃と舌が拒絶するこの液体を無理やり喉の奥へと運ぶ。


 胸を通って食堂へと落ちていった。


 あぁ、もう後には引けない。


 毒を飲んでしまった。


 みるみるうちに四人の顔が青褪めていく。毒がきいている証拠だ。もはや意識も朦朧とし、立つこともままならず目も霞んでいることだろう。


 かくいう私も、もう意識が持たない。

 ここで意識は途絶えた。



ーーーー


 人間とはどれだけ弱い生き物だろう。

 心臓を少し傷付ければ良くて重傷、最悪死に至る。

 挙げ句、たった数口の毒を飲んだくらいで心拍数が下がり、段々と呼吸が弱くなっているではないか。


『これで大丈夫なの? お姉さん動かなくなったけど』

『死ぬことが呪いを解く条件。そんな呪いを聞いたことはあるけど』

『聞いたことないな、どこ情報?』

『アマテの読んでた漫画』

『本当に大丈夫なの?』


『えーっと、……元々はチャウグナーフォーンって神様の仕掛けるゲームのような物だったよね? クリア条件は満たした筈なのに、迎えに来る様子もないよ』

『あの毒の入ったスープ……そして本来と異なる舞台を敢えてゲームと擬える意味が分からないのよね……』

『え? つまりどういうこと?』

『クロナがいたらもう少しハッキリと分かるんだけどな』


 ミコトにもハッキリとした確証の取れない中、静寂を突き破ってグールが乱入してくる。


「グルルル……!」

『なによ、あいつ。さっきよりでかくなっているじゃない』


 剣に何かしらの細工を施され強化されたようだ。

 壁も天井も構わず食い散らす暴走状態。


『最初から返す気なんてなかったのね。そりゃ返す理由もなさそうだけど』


 まだアマテたちが完全に生命活動を停止するまでに間がある。グールは身体の端々まで裂けるほどの大口を開け、その前に喰らってしまおうという算段だろう。

 

「ガッ!?」


 しかし、本来動かないはずであったアマテの体が突然起き上がりだしたかと思えばグールの頭めがけて鉄の塊を投げつけた。


『お姉様、私がいくよ。久々に暴れたくて暴れたくて仕方ないの』


『後ろの肉体も傷つけんじゃないわよ』


 鉄の塊が破裂し頭の一部が欠けるほどの衝撃で壁に叩きつけられるも、その獰猛さと喰らうことしか知らないグールは後退と言う言葉を知らない。


 未だ動かぬ4人の肉体を見て、一瞬聞こえぬフリをしようかと口を尖らせていたシオンだが、少し考えてから


『んー……まっ。そう言うゲームだと思っておこうかな』


 今にも生命活動を停止しそうな身体であったアマテの肉体を変化させる。


 肌は黒々と髪は翡翠色に染まって背丈は頭一つ分小さくなっていく。


 化け物の後退を止めているのは、無知と理性のなさゆえだ。

 目の前にいる小柄な肉体に対して星一個分にも匹敵する巨大な魔力に恐れることすらしない。


「このままじゃ温すぎて準備運動にもならなさそうだし」

  

 仮初の肉体から出現に成功したシオンは背筋を伸ばし腕を伸ばして準備運動を決めた。


「グルルル……フシュ!」


 グールは、尚も無謀に飛びかかる。

 しかしシオンは膨大な魔力に物言わせ、押し寄せる波のように放出することで無理やり攻撃を防いでしまう。

 

「グゥゥアガアッ……!」


『この魔力を見てもまだ飛びかかろうとするなんて、普通の魔物じゃないわね。ホムンクルスかしら?』


「どっちだっていいよ、そんなの」


 最初の時間稼ぎの一瞬分の時間さえあればシオンには十分。


「ぶっ飛ばせば終わりでしょ?」


 シオンは、いつの間にか手にしていた焦げた錆だらけの拳銃を一つ所持しており、執拗に撃ち続けた。


「もう一発!」


 二、三発撃ち続けたところで仕上げに拳銃ごと投げつけグールの口の中で爆発を起こす。


『ちっとも衰えてないわね』


 ミコトが感心するのは、シオンの単純な機械いじりの腕だけでなく、驚異的な早組みの技術。


「へへっ! お姉様に褒められた」


 シオンは床板を踏み抜き、落ちていたトタンや鉄剤、ネジなどを跳ねさせ天井から剥がし、こぼれ落ちさせる。

 それらを瞬時に拾い集め、移動の最中ただのガラクタの集まりが砲口の分厚いバズーカ砲に。


 仮死の肉体を背にして狙いをグールへと絞る。 


 悪魔の少女は舌を出し、翡翠色の瞳を怪しくギラつかせて笑みを浮かべた。


「イッちゃえ」


 放たれたロケット砲ごと爆発を起こしてグールに命中。

 原型も留めないほどの衝撃が全身を貫き、グールの無惨な肉片がそこらで飛び散り巨大なクレーターを築くほど。


「やった! 私の勝ち!」


 だが、その代償は大きく機械王の身体が崩れ始めてしまっていた。


「あ……あれ!?」


 ドンッと一度大きな音を立てて天井から穴が開き、そこからいきなり大量の鉄くずが雪崩込んでくる。

 

『やりすぎだっての!』


「へへっ。はしゃぎすぎちゃったかも」


 まるで悪びれた様子もないシオンは、巨大なホールを出現させると五人の身体もろとも飲み込む。

 その上を瓦礫の波が通過していった。




 動かなくなった屍と化したグールの遺体の傍ら、荒れ果てた瓦礫と星も月もない夜よりもドス黒い闇の中、ただ一点スポットライトを当てられたように明るい空間の中で「あーあ」と面倒そうに遺体を足蹴にする剣の姿があった。


「多分あいつら生きてるよな……勘だけど」


 タバコを蒸し、不快な咀嚼音をバックにしながら物憂げな表情を浮かべる。


「反則だろあのシオンとかって子……まさか悪魔の娘がいるなんて思わないだろうよ普通」


「あー……四の五の言ってても仕方ねぇか」


「もっと確実な方法もあったろうに……『あの人』は何考えてんだか分かんねぇな」


「で、君は本当にこっちでよかったの? 有彩ちゃん」


 有彩の右手が大きく肥大化しグールの屍を貪り食ら。


 ガリガリと言う骨を食い、肉を喰らうごとに右手が肥大化、彼女の鬱蒼もしていた顔は段々と張りを戻し、元の明るい様相を見せ始めた。


 まるで夢を見ているみたいに。

 

「だって私の居場所は、剣先輩と石崎先輩のいるところ」


 深い深い夢の世界へ。

 ここは自分の場所じゃない。現世こそが幻でこの夢の世界こそが本当の世界。


「ここが私の本当の場所だから」


 暗く冷たい現し世よりも、理想を求めた少女の笑顔はとても清く澄んでいるのであった。

 


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