魔界エンタメバラエティーショー
前回のあらすじ
「人が自分の肉を食らう怪奇事件」を解決した天照であったが、その際な真犯人であった剣によってミコトの身体に異変が生じる。
悪魔の治療法も分からず、途方に暮れていた天照の前に現れたのは彼女をゲストとして迎え入れるべくやってきた魔界テレビ局のガイコツであった……
今朝は、両親からまるで今生の別れみたいに盛大なムードで都会の大学へ送り出された。
入学式を経てから「人が自分で自分を食って死ぬ」現象を目の当たりにし大学で知り合った人たちと事件を解明したら、犯人は先輩で、ミコトが実体化して、そしたらミコトが病気になって大変な時に私はゴリラに車へ詰め込まれて謎の存在への参加を決められてしまった。
「明らかに前者の件とは別の厄介事に巻き込まれている」
私が何をすればいいのか面食らってる内に車はいつの間にか、都会の街並みから紫色のネオンライト輝くホール会場へと到達している。
「え……えぇぇぇ?」
王林町どころか地球にこんな場所はあるはずもない紫色の空の下、ニタニタと笑う赤い満月に見守られながら、まるでアイドルのコンサート会場みたいに広い場所だ。
遠目から見えるのは軽快な音楽と共に骸骨たちがトランペットやヴァイオリンなどの楽器を奏でる演奏会を開いていた。
それもかなり上手い。
私は車を降りて、骸骨に案内されるまま関係者以外は入れない裏手口から楽屋へと通される。
『魔界エンタメショー 参加者
御上 天照 様』
控室と呼ぶ部屋の立て札には、本当に私の名前があった。
お茶でも飲んで寛いでて欲しいと骸骨は他の参加者を迎えに行く用事があるらしくどこかへ去っていく。
一人で放置され、逃げようかと思ったけれど、遠巻きにさっきのゴリラの目があり、物陰から隠れてるつもりなのかここからでも圧が物凄い。
私は逃げるように楽屋へ避難する。
楽屋は、六畳半くらいの広さ。
丸テーブルにパイプ椅子一つと、特段変わったところもない。
『あいつら、魔界の連中ね……』
「ミコト、大丈夫なの? まあ骸骨だのゴリラだの、普通の人間の仕業でないのは分かるけど」
『えぇ。魔界独特の空気に触れて少しだけ気持ちが楽になった』
「人間で言う外の風に触れると、少しスッキリするようなものかな」
「ところでこれってなんなの?」
『魔界で主催されてる……まぁ、わかりやすく言えばテレビ番組ね』
『悪魔が人間使って遊ぶ一種の道楽よ』
「道楽って……」
『私は興味ないから見てなかったけど、二番目の妹が好きだったから知ってる』
『大体いつも公正だの厳正だの言ってるし、やたらとあの骸骨も紳士的な言動してるけど心許したら駄目よ』
『悪魔は基本人間のことなんて下等な存在。それこそおもちゃ程度にしか思っていないもの』
ミコトが異質的な為に薄れかけていた悪魔のイメージ。
生贄にされるのか、それとも呪いにかけられるのか。想像するだけ身震いがした。
『まずはさっきの骸骨が来るまで待ってなさい。少なくともこれが終わるまではあいつら帰しちゃくれないだろうから、まぁ取って食いはしないからそこは安心してなさい』
私は、椅子に座りながら何するでもなく、緊張で震える手で胸の鼓動を抑えながら待っていると程なくして、さっきの骸骨が戻ってきた。
「おまたせしましたアマテ様……おーおやおや。そこにおられるのはさる大魔界の王女様ではありませんか!」
いきなり、私でなく私の頭の上に向けて腰を低くゴマをするような姿勢へと変わった。骸骨で表情がなくとも、愛想を一杯に浮かべた笑顔であることがなんとなく伺える声色だ。
「え、王女って……ミコトが?」
「皇帝ベルゼブブ陛下の溺愛する四人の娘様のご長女『ーーーー』と言えば魔界で知らぬ者のないそれはそれは有名な方ですよ」
そう言えばそんなことを言っていたなと思い出す。話半分だったりそれどころじゃなかったりで覚えていなかった。
「いやぁ、私ども魔界TVといたしましても陛下には大変良くしていただき感謝してもしつくせないくらいでして」
魔界の住人だからか、ミコトの姿もしっかり見えているようだ。
この媚を売っていく、90度以上曲げた姿勢を維持しながらアレやコレやとマシンガントークを連ねている。
「姉妹共々行方不明と聞いてましたが、よくぞご無事でと言いたいところですが、体調が優れないようですね」
『放っておきなさい』
「どういう経緯で人間の身体に宿っているのかは知りませんが、そんなことはここじゃあ関係ない」
「チャンスは誰にでも平等」
パァッと明るくなって、両手いっぱいに伸ばし紙吹雪を散らす。
「ここじゃ貴女も一参加者として公平にジャッジさせていただきます!」
「そう、例えこの結果次第で貴女のお父上に私が殺されることになろうとも!」
プロデュースに命がけ。こんな時だけど、彼に一種の尊敬を感じてしまうのは私だけだろうか。
しかし、それとこれとは話が別だ。
「あの、悪いんですけど。私、テレビに出てる場合じゃなくて……その」
ポンポンと肩を叩かれながら、強引に私の話を切られる。
「オッケー。貴女の言いたいことはよーくわかります。しかし、これは貴女にとっても決して悪い話じゃありません」
「当番組では、貴女の他に3人の参加者と、あるゲームをしてもらいます」
「そして。そのゲームに見事勝利すれば、どんな好きな願い事も一つ、叶えて差し上げます」
「えっ……!」
「そう。大金持ちになりたい、モテたい、イケメンになりたい、芸能人になりたい、スポーツ選手になりたい、アイドルになりたい、お腹がはち切れるまで食べてみたい! 人間いや全ての種族が持つ願いは無限だ、それをあなたが100%望む形で叶えましょう!」
「なんて、それだけじゃないのがこの魔界TVの素晴らしいところ」
「望むなら、世界からあらゆる生き物を滅ぼしたい。自分だけがチヤホヤされる世界を作りたい、全知全能の力を手に入れたい、死んだ人間を生き返らせたいなんてことも可能な訳なんですよ」
それを聞いて、否定的だった私の中の活力が少しずつ漲ってくる。
「なら……ミコトの病気も」
『やめときなさい。どうせろくな事にならないし、貴女で勝ち上がれるようなゲームじゃないわよ』
「でも。このままじゃミコトが」
言い合いになりそうだった所へタイミング良くか悪くか、他の挑戦者らしき男性がやってきた。
「おぉい、プロデューサーさんよ。まだ始まらないのか?」
「ソーリー! ほら、もう他の参加者は集まってますよ!」
「ったく。待ちくたびれたぜ」
ゲームと聞いて、てっきり私は魑魅魍魎や50mもある巨大生物と殺し合いでもさせられるのかと思った。
けれど、私の他の参加者と言うプレイヤーたちも見たところ普通の人間だった。
男二人の女性一人、いちいち突っ込んでたらキリのなさそうな格好したのがぞろぞろと、その内の軍服を着た青年から声をかけてきた。
「何だ最後の参加者はそいつか、こりゃ楽勝だな」
頭一個分もある身長差にかまけて私の額を指で小突く。いわゆる漫画とかでチビキャラを馬鹿にしてくるやつだ。
「俺は雷轟 雷海賊だ」
「か、海賊!?」
そんな小さい訳でもないのにと、ムカツイた私の気持ちも吹っ飛ぶ衝撃の一言。
「元だがな、小さい漁船を襲っては日銭暮らしをしていたんだが。ある日、変な女の取引に乗っちまったのが全ての失敗でな」
「色々あって船がぶっ壊れちまったよ」
「聞いてねぇよ、あんなことになるなんて……あの女、絶対俺らを捨て駒にするつもりだったろ」
聞いてもないのに自分語り。
豪快な口振りで一大冒険を巻き起こしていたかと思えば延々と私の知らない人に対する恨み辛み節を語っていく。
「今はコンビニでバイトをしながら船を貯めるための資金を稼いでいるが、中々資金は溜まらないでいた」
「そんな時にだ」
何故かいきなり、巨大なモニターがどこからともなく降ってきた。
いわゆる回想シーンを動画として第三者が見れるという配慮らしい。
ーーーーー
「っしゃーせー!」
深夜のコンビニ。
明らかに売り物のだろう漫画を読みながら図々しくパイプ椅子並べて座っている態度の悪い店員の元海賊がいる。
「すみません、チケットの予約をしたいんですが……」
客がレジカウンターへやってきても漫画から目を離さない。この人は果たして船の資金得る気はあるのだろうか。
「あーうち、そういうのやってなくて」
仕事しろ。
「いえいえ。それは結構」
客はタキシードとシルクハットを目深にかぶって顔を隠している。
まさかと思ったら、あのガイコツだ。
「参加するのは貴方なのですから」
「え、ぎゃあああああっ!」
レジカウンターを乗り出し、彼を抱えて煮え立ったおでんの中にダイブ。
こうして彼は魔界へ到達する。
魔界の入り口って、割となんでもいいようだ。
ーーーーー
世界一どうでもいい回想シーンが終わって海賊さんは意気揚々と話を続ける。
「だから。俺は海賊団の再興、そして夢は巨大な船を貰うだ」
「そ……そうなんだ」
「今度は更にでかい触手つきだ!」
「触手!?」
なんだかきな臭い通り越して香ばしくなってきたこのイベント。
「私はアジューラ⁼ルイス⁼カナミ」
今度はまるで新雪みたく白い肌をした外国人の女性だ。
宝石みたいな緑色の目と透き通った絹みたいな髪、女優みたいだと思わず憧憬の念が出てくる。
「カナミんって呼んで」
「あ……どうも」
握手を求められ、私は手を差し出す。
しかし、なんだかねっとりとしたというか、触り方が嫌らしい……。
電車で痴漢の親父が尻を撫でている時のような手つきだ。
「気をつけろよ、そいつ女を2487股かけた色魔だから」
「失礼ね!3675股よ」
「はっ!?」
この人も大概ヤバい人だったと気づいてももう遅い。私の手をガッチリ掴んで離さず目線を合わすと、甘えた小動物のような目をして私の情に訴えかけてくる。
「そう、それは去年の冬のことだった」
またさっきのモニターが出てきた。
まさかとは思うが、この流れがあと二回続くのか。
自重しろ。いくら海賊がいるからってONE PIECEじゃないんだぞ。
もうさっきに言ってしまうと背後にいる鎧兜を被った謎の男が、今にも話したそうにウズウズしているのが目に入ってムカついてきた。
ーーーーー
「私は人の笑顔が大好きだった」
始まったよ。
「また来てねぇ」
彼女は、雪の降りしきるホテルのロビーで顔を赤らめ愉悦に満ちた女性を見送っていた。笑顔ってそういう笑顔か。
「カナミん……激しい夜に……なりますわ」
一糸纏わぬ女性が二人、赤いスタンドライトに照らされた情熱迸りそうな空間の中で持て余した肉欲をぶつけ合う。
その激しい光景を前にして、ミコトがなんか言ってたけどしばらくの間、私の耳には何も聞こえなかった。決して夢中になってたとか、そんなんじゃない。
激しい夜を過ごしていた部屋へ更に激しい足音が聞こえてきて、部屋の扉が無理やりこじ開けられていく。
「ちょっとカナミん! いつになったら来てくれるのかと思ったら、なによその女」
「警察だ! アジューラ⁼ルイス⁼カナミに結婚詐欺の逮捕状が出ている」
「王国近衛兵だ。王国王女の心を盗み奪った罪により連行する」
後から後から、わんさか出てくるカナミの関係者たち。そのどれもが女性問題を抱えた縺れによる物だった。
「やだ、もう。こんなところまで」
逃げ慣れているのか相手の女の子に濃厚な口づけをかわすと、上着とハイヒールだけ持って、窓から飛び出した。
「うぇるかーむ」
「え……!?」
その下は魔界行き直送便。
例のガイコツが操る巨大な口を開けた化け物にぱっくりと喰われて今に至るという。
ーーーーーー
「酷いと思わない? 3877股したくらいで」
「桁増えてません……あ」
そのまま来たと言うことは、今はその厚手のコートの下って……私は余計なことを考えるのはやめた。
「私は皆を等しく愛したいだけなのに」
「そんな私の願いは誰もが争うことなく幸せでいられる世界」
「そう、新世界の神となる」
発想が飛躍し過ぎだ。
もういいだろとカナミさんを押しのけ、最後は自分だとばかりに前に出てきた武将みたいな人。
「わしは主らの言葉で言う戦国時代にて名を馳せた、かの有名な大名 奮梃子丸
「かの有名な割に歴史の教科書でも聞いたことない……」
もうモニターが出てきた。
こうなったら最後まで聞いてやるという心構えで見てやる。
ーーーーーー
「ワシは今の東京23区の足立区の駅から徒歩三分の所に城を構えていた」
わーセレブ。
「城の中でワシの名を知らぬものはおらんほどの有名人だった」
城の中だからね。
「かの織田家との戦に備え、ワシは山に篭り身を鍛えた」
岩を乗せて腕立て伏せ。岩を引き摺ってランニング。岩の降りしきる巨大な滝に打たれる。
本気でやってる人がいるなんて思いもしなかった。
「そして、ワシは鍛錬を経て滝を素手で割るほどの力を手に入れた」
「むぅんっ!」
腕の一振りで滝が逆流するほどの衝撃。
厳しい修行は伊達でなかったということだけは分かった。
「これじゃ……これなら勝てる!」
「待っておれ、織田信長ァ! 今こそその首を頂戴してつかまつつつかま」
噛みながら勇み足で、一人山を下る。
確かにあんな怪物じみた必殺技があれば織田家どころか現代兵器相手にも太刀打ちできるような気もする。
しかし、そんな彼がなぜ添加を取れなかったどころか歴史に名を残すことすらなかったのか。
「とっくに徳川が江戸に幕府を開いた後であった……」
馬鹿だな。分かっていたけど、この人も馬鹿だな。
ーーーーーー
「と言うか、コスプレとかじゃなくて本当に戦国武将だったんだこの人……」
国籍や職業バラバラまでは理解できるけれど、時代までバリエーションが出てくるというのは想定外。
「そこが魔界TVの凄いところ!」
するとまた、あのガイコツがここぞとばかりに私へ詰め寄ってくる。もう大体何が来ても驚かなくなってきた。
「毎回毎回、同じ時代の人間だけでは面白くもない。そこで魔界TVでは満たされず成仏しきれない魂をもスカウトし、肉体を与えてチャレンジさせる言わば特別枠を採用しております!」
我ながら慣れが早いのか、魔界だしなの一言で済ませられるようになってきた。
「ワシの願いは歴史の教科書に乗ること。それも織田や徳川などよりでっかく一面を飾るんじゃ戦国無双でもイケメン化して主役張ったらぁ!」
「コーエーテクモに怒られろ」
腰に手を当て、大きく仰け反って高笑いする人を初めて見た私はもうやるんだったら早く始めてくれと言う気分でいっぱいだ。これ以上、この空間に居たら変になりそうだ。
「てか教科書に乗るだけじゃ自分の醜態も全国規模で晒されることになるけど」
『放っときなさい』
「船を手に入れるのは俺だ」
「何をいうか!」
早くも挑戦者間で火花が散らされている。
私とてミコトの為に願いは譲れない、けれどんな形でも願いは願い。
私が同情を引いて貰うような形で話すのは気は引ける……引けない奴もいるけれど「誰かを生き返らせたい」「ドン底の人生やりなおしたい」みたいな願いを持たれているよりは、ある程度自分の優勝へ前向きにはなれるか。
「ちょっと、いつまで待たせるのよ! もうすぐ番組始まっちゃうわよ!」
すると今度は眼鏡をかけ、おかっぱのカツラの上に口紅までしたオネエ口調のガイコツがプリプリと怒りながらやってきた。
「これは申し訳ありません、彼女はヘルスタイリストさんです。皆様の衣装をテレビに出ても映えるよう、バッチリとメイクしてくれます」
ヘルスタイリストと呼ばれた骸骨は、私達参加者を一瞥していると、鼻を鳴らしながら私の前で足を止めた。
「ちょっとそこの貴女!」
「え、私!?」
「そうよ。まるで地味という言葉を引いたらそのまま顔写真付きで載っていそうなそこの貴女!」
「こっちに来なさい!」
私たちは無理やり、メイク室と言う部屋へ釣れて来られた。
「あんたら、そこのイソギンチャクの間に漂ってる腐葉土みたいな三人もよ!」
「腐葉土!?」
私たちが連れてこられたその部屋自体は床屋のようでもあり、美容院にも見えるなど魔界にしては普通だなと、ほんとう魔界の感性にも慣れつつあった。
衣装自体は私の好みにも合いそうな良さげの物から、宴会や罰ゲームでなければ着なさそうなキワモノまである。
「しかし、見れば見るほど壁と天井の隙間に挟まったイソギンチャクみたいな格好ね!」
「さっきからなんなのこのひ……うわっ!?」
形容しがたい罵倒を繰り返すこのガイコツに私は、苛立ちを隠せないでいると彼女はいきなり筆と口紅を指に挟み、私の顔を掻き乱す。
顔をやられて一瞬目を閉ざしてる間にもう私の顔は、たちまちの内に整えられていた。
「すご……」
嗜みとして私も化粧の一つはするけれど、深いこだわりはなかった。
だから、ここまで自分の顔を引き立てられるなどと夢にも思わなかった。
『ヘルスタイリストは毒舌なのよ。でも腕はいいらしいのよね』
「貴女、額の傷は怪我か何か?」
「昔……事故で」
私の額には前髪を垂らしてないと、目立ってしまう小さくはない傷跡がある。
それがキレイに隠れており、少し化粧を本気で学んでみようかと思い直すくらいだ。
「女の顔は命だからね。これ使いなさい」
そう言って、ヘアピンをくれた。
ちょっとだけ憧れていた、額を晒すヘアースタイルにできたのは嬉しかった。
「後はこれとこれとこれとこれ。はい、さっさとその樹海の中のヘドロで洗ったうんこみたいな服を脱いでこれ着なさい」
まぁそれはそれとして彼の毒舌ぶりは変わらず、私に手一杯の衣服をもたせると年末のバラエティー番組で見るような四つ扉が連なった試着室へと押し込む。
「グッドラック」
私は、貰った衣服に着替るために衣服を脱いでいる間に外から何やらアナウンスが聞こえてきた。
『さぁ。お集まりのヘルピープルの皆様、大変長らくお待たせいたしました』
「第666シーズン 魔界エンタメショーの開幕でございますっ!」
「うおおおおおおおっ!」
魔界の人気番組と言うだけあって、その盛り上がりは凄まじい。
ヘルピープルと呼ばれている観客たちは地獄の亡者のようなおどろおどろしい声なのに、何故か熱を感じられた。
『魔界の住民って長い寿命としぶとい肉体を持て余してて、こう言う盛り上がりに飢えてるというかイベント好きが多いのよ』
「へぇ、そうなんだ」
その為に人間を使っていじくり回してるのにはあまり賛同できた事でもないけれど人間も大概、暇を持て余すと何をしでかすか分からない。
それ以上は私が考えても仕方のない、きっと倫理とか道徳で測れない神の領域なのだろうと解釈していた。
「にしても、凄い熱気だよね」
その声はまるで、もうすぐ傍にいるのではと言うくらい近くに聞こえる。
この声援が私にも向けられてくるのかと思うと、今まで小学校の学芸会以外に舞台に上がったことのない私はとても緊張してきた。
「ど派手に行くぜっ! 」
最初の元海賊さんの声だ。
「すべての女共。私に抱かれな!」
続けてビッチの声。
一人一人挑戦者が現れる度にヘルピープルたちの反響がドンドン跳ね上がっていくのが聞こえると言うか、聞こえ過ぎる。
「あれ、ちょっと待って……ひょっとしてもう始まって」
「天下統一じゃあ!」
三人目の武将まで回ってしまった。
まずい、次は私だ。
「ちょっと待って、まだ着てない着てない着てないっ!」
どれだけ訴えても、魔界テレビは容赦なく更衣室のドアを開けるのを止めてはくれなかった。
「!」
奮闘虚しくも、下着姿のままの私をテレビの前に、それも魔界規模で晒してしまった。
『もちろん魔界のテレビに規制とかモザイクなどと言うものはなく、入浴シーンとかはフル稼働。これは、いきなりのお色気サービスだぁぁぁぁっ!』
こういう時、悲鳴の一つでも上がるかと思ったけれどヘルピープルだけでなく魔界の人口割合から何億何十億か。
そのくらいの数の悪魔に見られたと言うショックの大きさ。そして想像以上に大絶賛の観客たちの叫び声で、最早些細なことのようにすら思えてしまった。
「高得点! まだ始まってもないのにアマテ様に50ソウルが与えられました!」
「ソ、ソウル?」
『ポイントみたいなものよ。ああやって魔界のヘルピープルたちがそれぞれ『いいね』と思った人物に投票してくシステムよ』
私達のいるステージ上、そこを取り囲い360度余すところなく雛壇上に集まっているヘルピープルたちが何かを投げ込んでおり、その白い発光体が私たちの頭上で浮いているモニターに吸い込まれている。
『今から、番組から提供されるお題に挑戦する中でまぁ。今みたいに客受けのいい行動を取ってれば勝手にドンドン貰えていくのよ』
「持ち点は一人200なのね、早速私だけ250とリードしてる」
『ところで早く着たら?』
「あ、えっ!? ちょっと……試着室もうないし!」
今更だが、さっきまで試着室にいたのにいつの間にステージ上へ上がったのか、運ばれる素振りすらなかったのに、魔界の常識をまだまだ私は測りきれてないようだ。
「アマテちゃんってば大胆」
なんて考えてる内に、やたらと胸を開けたセーターに上着を着ている、見た目だけなら格好いい大人の女性と言ったビッチ。目が獲物を見つけた野獣の眼光になっているので魅力は薄れる。まるで、狼の檻に投げ込まれたような気分だ。
「女子がそうやすやすと肌を見せるものではない」
早く着替えようとあたふたしていた私の頭の上に、グレードアップして角が伸びて赤い鎧甲冑に身を包んだ武将から布がかけられた。
「武将さん……」
「キャー!」
『おーっと。奮梃子丸さん、これはイケメンポイント。100ソウル!』
変な人だけど、結構いい人なのかなとちょっとトキメイてしまった私は些かチョロいのかもしれないと危惧する。と言うか今のが私の半裸より得点高いのかと思うとなんか物凄く悔しい。
「どうじゃ、いきなり差をつけてやったぞ?」
「焦る必要はないわね」
「そうそう。ゲームは始まってすらないんだ、こんな調子でポンポン貰えるなら始まりゃまた幾らでも機会はある。序盤のハンデなんてあってないみたいなものだ」
海賊らしい眼帯とマント、それにあの巨大な帽子にサーベルを差しており、元海賊だけど海賊らしい姿になった。
私も、うかうかしてたら今みたいに呆気なく追い抜かれるかもしれないと思いながら布に包まり着替えを終える。
「って……なにこの格好!?」
それはナースの格好だった。
私の憧れる白衣のナースとは遠い、胸元は開いてるし限界までスカートは短いしでまるでキャバクラのコスプレ衣装だ。
「うおおおおおおおおっ!」
またヘルピープルたちの熱気だ。
次々と私の所にソウルが投げ込まれて早くも350。もう喜んでいいのかどうなのか微妙なラインになってきた。
『いきなり波乱の幕開けとなった第666回魔界エンタメショー、今回の回収人はこちらの四名様でお送りさせていただきます』
『それぞれ譲らぬ願いを持った者たちの戦いをその目にしかと焼き付けろ!』




